事業構造の変革で、海外事業の利益を拡大 ~MIZUNO APAC(THAILAND)斎藤靖彦社長インタビュー~

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    事業構造の変革で、海外事業の利益を拡大 ~MIZUNO APAC(THAILAND)斎藤靖彦社長インタビュー~

    公開日 2025.05.22

    野球用品の販売からスタートした総合スポーツ用品メーカーである美津濃株式会社(以下、「ミズノ」)の海外進出は1930年代にまで遡る。東南アジア地域では「一国一独占販売代理店」の体制を敷いていた同社だが、東南アジアでは、この2年間で10社以上の代理店との独占販売契約を終了し、現法化を推進した結果、収益性が急上昇した。

    現法化戦略の背景や、タイを含む東南アジアのスポーツ市場動向などについて、MIZUNO APAC (THAILAND) LTD.の斎藤靖彦社長に話を聞いた。

    ミズノタイランド MIZUNO APAC(THAILAND)斎藤靖彦社長インタビュー05
    MIZUNO APAC (THAILAND) LTD. 斎藤靖彦社長

    「一国一独占販売代理店」から脱し、タイの売上は倍に

    東南アジアおよびタイにおける御社の歴史と取り組みについて

    斎藤社長:ミズノの創業は1906年と長い歴史があり、ウエアやシューズなどのスポーツ用品の販売事業を通じて成長してきました。2014年のシンガポール現地法人設立を皮切りに、東南アジアへ進出。大阪本社が担ってきた日本からの輸出業務をシンガポール地域本社に移管し、それまでの「一国一独占販売代理店」という体制に終止符を打っていきました。

    2019年、シンガポールに続いてタイでも独占販売代理店契約が満了するタイミングで現地法人を設立し、直接卸・DtoCをスタート。その後、マレーシア、ベトナムでも現法化に踏み切り、代理店を介さない、現地法人による直接販売を強化してきました。

    東南アジアで直接卸の体制へ変更した理由は

    斎藤社長:独占販売代理店に頼った販売体制では、市場に競争原理が生まれない、製品ラインナップの全体像がその市場に提示できない、代理店が取り扱わないスポーツ品に関しては売上が期待できない、などの理由から、事業の成長に限界があります。

    近年東南アジアにおけるスポーツ市場が堅調に伸びていることから、より消費者に近いところでマーケティング活動や販売事業を行い、事業をさらに伸ばしたい意図がありました。代理店時代の良い事業モデルは継承しながらも、直接販売にシフトすることで、事業戦略に多様性が生まれ、実際にタイでは過去3年間で売上が倍に、利益も5倍に伸びました。今のところ体制変更の成果は出ていると思います。

    ミズノタイランド MIZUNO APAC(THAILAND)斎藤靖彦社長インタビュー04

    東南アジアではサッカー、ゴルフが市場を伸ばす

    タイ拠点の特徴は

    斎藤社長:タイ法人は7年目を迎えていますが、現在25人強の社員が在籍しており、シンガポール地域本社と同程度の規模に成長しています。現地法人事業を開始したばかりのマレーシア法人の社員数は5人、ベトナム法人も5人なので、その差は歴然です。売上規模を見ても、タイの存在感は大きいです。

    シンガポール地域本社は、シンガポール以外にもフィリピンやインドネシア、香港等もカバーしていますが、それらの国の売上も含めて2,000万米ドル規模(2024年)と東南アジア第一位。タイは、一国のみで1,100万米ドル(2024年)と、第二位の売上規模となっています。

    私は2年ほど前から現職に就いていますが、タイではGMクラスとの対話のみならず、現場の社員と直接話す機会も意識的に作るようにしています。欧米やシンガポールは比較的ローコンテクスト文化なので、常日頃から現場の社員が明確に意思表示をしてくれることが多いですが、ハイコンテクスト文化であり階級社会を重んじるタイでは、本音を吐き出す機会を意図的に作らないと彼らの心中を汲み取ることが難しいと思っています。

    東南アジアおよびタイで売上の高いスポーツ市場は

    斎藤社長:日本では、ミズノと言えば「野球」を連想される方が多いかもしれませんが、東南アジアの事業構成比の第一位はサッカー、次いでゴルフ、バドミントンと続きます。バドミントン市場は昨今急速に伸びており、特にベトナムでは事業構成比の約6割を占めるまで成長してきています。同国における四半期の売上が、タイでの通年の売上を抜いた時には私も驚きました。

    ミズノプラチナムシルバーパック
    「ミズノのサッカーシューズ」写真提供:MIZUNO APAC (THAILAND) LTD

    タイではサッカーとゴルフの事業構成比が高く、特にサッカーが約6割と非常に高い割合を占めていることが最大の特徴です。2018年にサッカータイ代表のチャナティップ選手とミズノブランドアンバサダー契約を締結したことで、ミズノのサッカーシューズの認知度が一気に高まりました。サッカーでは、ボールと直接コンタクトするシューズの存在は特に大きく、日本メーカーの製品はアジア人の足と相性が良いことも人気の背景にあると考えています。

    現在11名のサッカー選手と契約を結んでおり、今後はプロリーグとのスポンサーシップも計画しています。タイのサッカー市場でミズノのプレゼンスをさらに高められるよう引き続き尽力します。

    ミズノタイランド MIZUNO APAC(THAILAND)斎藤靖彦社長インタビュー06
    身長158cmと小柄ながらJリーグでも2018年のベストイレブンに選ばれたチャナティップ選手

    サッカーに次ぐ2番目の柱、タイのゴルフ事業については

    斎藤社長:アイアンクラブを主力とするゴルフ製品については、2023年まではシンガポール地域本社経由でタイの販売代理店と独占契約を結んでいました。2024年、タイに事業窓口を移管し、卸業者やECサイト、マーケットプレイスなど複数のチャネルで商品を流通させる「オープンチャネル化」を実現させたことで、ゴルフ事業がサッカーに次ぐ2番目の柱に成長。今年は事業構成比16%ほどになる見込みで、今後もさらなる成長を見込んでいます。

    ミズノの強みは、ゴルフクラブのカスタムフィッティングサービスです。フィッティング実施資格試験に合格したフィッターが、専用の計測器「シャフトオプティマイザー3D」を活用してお客様のご要望やスウィングの癖などを勘案したお勧めのクラブを提案します。個人の思い込みや判断ではなく科学的根拠に基づいたクラブ選びにより、スコアアップのサポートが出来るものと思います。

    欧米に比べて、東南アジアではカスタムフィッティング市場が未成熟なため、これから市場を育成していきたいと考えています。タイには2025年中にミズノのカスタムフィッティング場を開設予定です。

    スポーツでその国の活力向上に貢献する

    タイにおける今後の展望について

    斎藤社長:ミズノは、日本では野球用品からスタートし、1913年に開催した「関西学生連合野球大会」は現在の甲子園大会の土台となっています。単なるモノ売りではなく、スポーツで国の活力向上に貢献することが私たちの使命であり、それは海外事業においても同じです。

    東南アジアにおける事業の利益率は上がっていますが、「自社の利益向上」を超えた社会的な役割を模索したい気持ちも強くあります。ベトナムでは、スポーツの楽しさや厳しさを子どもたちに知ってほしい想いから、養護施設にスポーツ用品を配給する取り組みなどの地域貢献活動を開始しています。

    タイでも私たちの使命に賛同してくれる会社や団体と一緒に活動できる機会を探っているほか、当社のタイ人社員にも、ミズノ製品の購入補助等の福利厚生を設けるなど、社員自身がスポーツを楽しめる仕組みを作っているところです。

    スポーツには、子どもや若い人たちが社会を生き抜いていく上で必要な成功体験やリジリエンス、チームワークなどを養っていく力があります。特に、東南アジアのように体育教育が未発達な地域においては、スポーツ品販売やサービスを通じて、若い年代の心身の強化や幅広い年代のクオリティ・オブ・ライフ(QOL)増進に貢献し、微力ながらも社会の活力を上げていくサポートが出来ればと思っています。

    Interviewee

    MIZUNO APAC (THAILAND) LTD
    斎藤靖彦 社長

    1997年にミズノ株式会社へ新卒入社。米国での研修や日本での野球用品販売事業に携わった後、大阪本社での総合企画室勤務やオーストラリア赴任を経て、2023年より現職。 MIZUNO SINGAPORE PTE LTD、MIZUNO MALAYSIA SDN BHD、MIZUNO APAC (VIETNAM) LTDの社長も兼任。

    THAIBIZ編集部

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