肩書にとらわれないリーダーシップマインドでタイからアジアの製造業を牽引する

THAIBIZ No.165 2025年9月発行

THAIBIZ No.165 2025年9月発行ヤマハモーター初のタイ人CEOが先導する“独自路線”戦略

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

肩書にとらわれないリーダーシップマインドでタイからアジアの製造業を牽引する

公開日 2025.09.10

近年、タイでは日系スタートアップの進出も目立つようになってきた。大企業のような認知度や実績がない中で、スタートアップの駐在員たちはどのようなマインドセットを持ち、どのような挑戦をしているのだろうか。

キャディ株式会社のタイ現地法人 CADDI (Thailand) Co., Ltd.(以下、「CADDI Thailand」)の武居大介氏は「タイを起点とした製造業のアジア展開を支援すべく、駐在員という肩書にとらわれることなく、如何にリーダーシップを発揮できるかを重視している」と語る。

製造業の経営改革を支援

Q. CADDI Thailandの事業概要と武居さんについて教えてください

私は新卒入社した大手商社で10年以上勤務した後、「日本発で世界トップクラスの会社をつくりたい」という想いから、2021年にキャディ株式会社(以下、「キャディ」)へ転職しました。東南アジア初の拠点としてベトナム現地法人の立ち上げを担い、その後、2024年4月に来タイしました。

CADDI Thailandは2022年11月に設立され、当初は日本および米国のお客様に向けて、調達・製造のワンストップパートナー「CADDi Manufacturing」のサービスを中心に展開していました。

ところが昨年、キャディグローバルとして、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する製造業AIプラットフォーム「CADDi」事業を統合する方針が決定されました。それに伴い、私はベトナムからタイへ異動となり、現在はタイを含むアジア全体の事業を統括しています。

ベトナムやタイの工場では、デジタル化の遅れが深刻で、本社から「DXを進めよ」と指示があっても、具体的にどう取り組めばよいか分からず、お困りの企業が非常に多く見受けられます。特に人の入れ替わりによる“知識の断絶”が大きな課題の一つです。

「CADDi」は、紙資料が主流で、ベテラン職人の暗黙知が属人化している製造現場に対し、これまで蓄積されてきた製造ノウハウの活用を支援するクラウドサービスです。単なるデジタルツールの提供にとどまらず、導入後の伴走を含め、製造業の経営改革を支援している点が大きな特徴です。

グローバル全体では、スタートアップ企業の急成長の指標とされる「T2D3(Triple, Triple, Double, Double, Double)」を大幅に上回るスピードで成長しており、タイ事業も順調に拡大しています。立ち上げ期は3人だった当社の社員数も、現在では10人を超える規模になりました。

Q. タイ人社員とのコミュニケーションで意識していることは

タイに赴任する前に駐在していたベトナムと比較すると、タイ人はより慎重で、「着手までに時間はかかるものの、アウトプットの質が高い」と感じています。こうした国民性の違いを踏まえ、今はタイ人の特性を活かすためのコミュニケーションを日々意識しています。

遠慮の文化が根付いているタイでは、本音を引き出すことの難しさも感じています。そのため、「本当にそう思っているか」「この方針で進めることに心から納得しているか」と、あえてストレートかつシンプルに確認するよう心がけています。

組織面では、「日本人が上に立つのではなく、できるだけフラットな体制に」という方針のもと、社員数が増えた現在も上下関係のないフラットな組織運営を実現しています。

共通言語である英語は、タイ人社員にとっても第二言語であるため、どうしても発言のハードルが高くなりがちですが、まずはタイ人同士で議論をしてもらい、私は結論だけを確認するなど、自分があえて主導権を握らない工夫も取り入れています。

タイを起点としたアジア展開を後押し

Q. 今現在、タイで挑戦していることは

従来、タイの製造業は「タイで製造した製品を輸出する」ことが主な役割でしたが、近年ではアジア統括地域本部としての機能も担うようになってきています。これまでに蓄積されたタイの知識・経験・ノウハウを、アジア各国に展開していくフェーズに入っており、当社としても、DX支援を通じてこうしたタイのポジショニングの変化を後押ししたいと考えています。

例えば、これまでは日本で設計した製品をタイで製造するという体制をとっていた日系メーカーが、タイでエンジニアを育成し、設計から製造まで一貫して行えるようになれば、現地工場の機能拡張が可能になります。設計と製造の両機能を備えることで、従来は日本のニーズに合わせて開発されていた製品を、タイやアジア市場に最適化した形で製造・販売することができるようになります。

このような取り組みを通じて、工場立ち上げの経験を持つタイ人社員が、例えばインドの新工場立ち上げをサポートし、タイ人とインド人が協働する事例も増えてきています。まさに、タイで蓄積された知見が他国に展開されている好例といえます。

キャディが掲げるミッション「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」にあるように、個々の潜在能力を引き出し、ベテラン職人の持つノウハウを時空を超えて他の人も自由に活用できる仕組みをつくることで、企業全体の力が引き出され、国や組織を超えた展開も可能になると信じています。

Q. ミッション実現に向けて困難だと感じる場面を、どう乗り越えているか

製造業の現場に新しいシステムを導入する際には、「作業が忙しく、パソコンに向かう時間が取れない」などさまざまな理由から、導入障壁が非常に高いという現実があります。

過去には、せっかくシステムを導入しても現場で使われずに終わり、最終的には廃棄されてしまったという苦い経験をほぼ全ての企業がお持ちです。だからこそ、まずは現場の方々の精神的な抵抗感を取り除くこと、そして具体的な活用方法を明示し、価値提供まで徹底的に伴走させていただくことに注力しています。

また、海外現地法人がしばしば直面する課題として「リソース不足」が挙げられます。この克服には、本社の支援が不可欠です。そのため、私自身が日本の本社を訪問し、「タイでの課題解決により、このような成果が期待できる」と、具体的に説明・説得を行うこともあります。

実際、タイを起点にしたスモールスタートはリスクが比較的少ないという利点があり、タイでの成功事例を日本に“逆輸入”するケースも増えてきています。

“リーダーシップ”を如何に発揮できるか

Q. 今後の目標について

組織づくりの観点では、仮に自分が現在のポジションを離れたとしても、組織が持続的に成長できる仕組みを整えたいと考えています。また、“駐在員”や“マネジャー”といった言わば管理職的な肩書や役割にとらわれることなく、組織内外の人々をエンパワーする“リーダーシップ”を如何に発揮していくか、という点にこだわっています。

社内外の皆様とワクワクする未来を共に描き、切磋琢磨させていただきながら、アジアの製造業のデータプラットフォームとして「CADDi」が当たり前のように使われる状態を、今後1〜2年で実現することを目指しています。


武居 大介
部門執行役員 アジア本部長
CADDI (Thailand) Co., Ltd.

三井物産株式会社で10年以上勤務後、2021年にキャディ株式会社へ中途入社。ベトナム現地法人の立ち上げを担った後、2024年4月より現職。

THAIBIZ編集部

THAIBIZ No.165 2025年9月発行

THAIBIZ No.165 2025年9月発行ヤマハモーター初のタイ人CEOが先導する“独自路線”戦略

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE