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公開日 2025.09.22 Sponsored
「購買が特定の担当者に依存し、価格比較しづらい」「需給・在庫計画がExcel頼みで、変化への対応が遅れがち」「脱炭素の開示義務はクリアしたが、次のアクションにつながらない」。こうした調達、サプライチェーンマネジメント(SCM)、脱炭素・ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する悩みは、在タイ日系企業の多くが共通して抱えるものだ。DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性を感じつつも、「どこから着手すべきか」「導入しても現場で定着するのか」といった不安の声も少なくない。
こうした実情をふまえ、野村総合研究所(NRI)は8月29日、バンコク市内でセミナー「経営革新を加速するDX最前線」を開催。製造業の経営者や関係部署の担当者などが来場した。
目次
本セミナーでは、「購買の統制と効率化」「意思決定の高度化」「脱炭素経営の実現」といった課題に対し、世界中の企業で導入が進む3つのクラウド型ソリューションCoupa(調達DX)、Anaplan(SCM・予算管理DX)、Zeroboard(脱炭素DX)を紹介。現地導入支援を行うNRIのコンサルタントと、各ソリューションベンダーの専門家が、豊富な実例とともに解説した。
セミナー冒頭、NRIのエグゼクティブパートナー青嶋稔氏は、「日本企業のDXは、まだ“周回遅れ”にある」と危機感を示した。中東情勢やウクライナ危機など地政学リスクが高まる中、企業には変化に即応する経営判断力が求められているが、「単年度予算とExcelで意思決定をしている企業がいまだに多い」と指摘。
また、生成AI(ChatGPTやGeminiなど)の登場で業務変革の可能性は広がっているものの、日本企業では導入や活用が進まず、海外に後れを取っていると語った。今後求められるのは、「ITを手段として業務や経営のあり方をどう再構築するかだ」とした。
まずはじめのセッションでは、NRI業務IT戦略コンサルティング部の田畑貴大氏が登壇。間接材向けのイメージが強かったCoupaが、直接材調達にも広がりを見せている実態を紹介した。
強調されたのは、「調達業務は購買部門だけの課題ではない」という視点だ。属人的な意思決定や現場ごとのバラつきが、結果として経営レベルでの非効率を生み出している現実に対し、Coupaによる以下のような仕組みでの改革が提示された。
(1)調達システムの統一によるデータの一元化と判断の迅速化
(2)海外拠点を含む支出の可視化とガバナンス強化
(3)サプライヤー対応の標準化とAIによる不正検知
Coupaソリューションアドバイザリー部の山田由香里氏によると、Coupaの特徴は「コミュニティインテリジェンス」にあるという。世界中のユーザー企業から匿名化された購買データをAIが分析し、「もっと安く買えるサプライヤーは?」「不自然な価格変動はないか?」といった実用的なアラートを自動で提供。従来は経験や勘に頼っていた調達業務を、データとテクノロジーの力で見直し、コスト最適化につなげる。
また、「納期変更はメール」「発注書はExcel印刷」といった現場業務においても、Coupaが提供するPOコラボレーション機能や帳票対応により、手作業をデジタル化、業務効率化につなげることが可能だ。Coupaの導入企業である三菱重工では、間接材購買業務において50%を超える業務工数削減という効果が得られていると説明した。
次に紹介されたのは、サプライチェーン領域における需給・在庫計画の高度化とそれを支える柔軟な意思決定の基盤づくりだ。NRI業務IT戦略コンサルティング部の有薗優太氏は、グローバル製造業の現場で「本社と拠点」「販売会社と生産拠点」の間で需給情報が分断されており、タイムリーな調整や精度ある意思決定が困難になっている現状を指摘。
こうした課題を抱えていたB社では、従来拠点ごとのExcelで情報を集計・更新していたが、Anaplan導入によって以下のような変化が実現したという。
(1)拠点・部門間の需給・在庫情報をリアルタイムに可視化
(2)為替や原材料価格の変動を反映した複数シナリオを即時比較
(3)販社からの需要変動を起点に、生産・在庫・収支までを一気通貫で連携
また、Anaplanはコーディング不要でモデル設計や修正ができるため、需給ギャップが発生した際もスピーディに対応できるのが強みだ。例えばある自動車部品メーカーでは、販売計画から原価・収支までを1つのモデル上で一元管理し、状況の変化に応じて即座にシナリオを更新。経営陣はリアルタイムで全体像を把握しながら、迅速かつ柔軟な意思決定ができる体制を構築しているという。
Anaplan Japan株式会社の末永直樹氏は、質問するだけで要因分析やレポート生成を行える対話型AI「Co-Planner」の最新事例を紹介。今後は、企業が自社専用のAIエージェントを構築できる仕組み「エージェントスタジオ」などの展開も視野に入れており、「Anaplanは“見える化”から“考えるプラットフォーム”へ進化していく」と展望を語った。
続いて、製造業の多くが対応を迫られている「脱炭素・ESG」領域について、制度対応から温室効果ガス(GHG)排出量算定、将来的な事業化までを見据えた実践的なアプローチが紹介された。
NRIタイASEAN Manufacturing Practiceの八波理奈氏は、欧州連合(EU)の企業サステナビリティ報告指令(CSRD)や炭素国境調整措置(CBAM)、日本国内のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)など、複数のタイ国外の開示制度が進行しており、さらにタイ国内の規制・開示対応により、非上場の日系タイ企業もサプライチェーンに組み込まれているため、実質対応が求められる設計となっていると解説。
特にタイ企業は、システムを活用したサプライチェーンを含めた開示効率化とカーボンクレジット等の収益化対応が進んでおり、政府からも税制優遇や補助金等の後押しがあると述べた。また、優遇を受けるには算定開示とT-VER(タイ自発的排出削減制度)への登録が必要となり、信頼性の高い開示には下記3つのポイントが重要であると説明した。
(1)複雑な排出量ロジック (2)算定 (3)保証(タイ国内での取得)
さらに、「タイ企業と同等レベルでの開示対応を進めるには、日系企業もデータ品質の信頼性を担保した保証対応までワンストップで実施できるZeroboardタイランドのような自動システム化が重要だ。開示・規制対応のみでなく、 価値創出へのビジネスモデルの展開が必要」とし、脱炭素対応はもはや経営の前提条件であるとの見解を示した。
続いてZeroboardタイランドの鈴木慎太郎MDが、GHG排出量(Scope1〜3)の算定から開示、削減までをパートナー企業と連携して一貫支援するクラウド型プラットフォーム「Zeroboard」を紹介。国際認証だけでなく、タイ温室効果ガス管理機構(TGO)の国内認証に対応した機能も搭載し、グローバルで15,000社超の導入実績を持つという。
製造業に特化した機能として、「材質・重量ごとのカーボンフットプリント自動算定」や「会計・調達データとのAPI連携による業務自動化」などがあり、脱炭素対応のスタート地点であるデータ収集・加工にかかる手間を最小化し、本来取り組むべき排出削減アクションに経営資源を集中できる環境を整える。
さらに、タイ国内での森林再生や再エネ導入を通じたカーボンクレジット創出と、T-VER登録を経たクレジット販売利益に対する税制優遇の活用について、「義務だからやるのではなく、制度を正しく理解し、戦略的に活用していく視点が必要」と語り、脱炭素対応を“収益事業”として位置づける可能性に言及した。
NRIタイASEAN Manufacturing Practiceの津崎直也氏は、「制度対応や体制構築といった前段をNRIが、算定・開示の実行部分をZeroboardが担うことで、制度と業務の両面から現実的な支援ができる」と述べ、企業の脱炭素戦略における伴走体制の重要性を示した。
最後に登壇したNRIタイの三宅洋一郎社長は、DXやサステナブル対応といったテーマが「わかっていても、実行に移すのは難しい」と現場の実情に理解を示しつつ、登壇者や参加者とのネットワーキングを通じて気づきを持ち帰ってほしいと呼びかけた。
今回のセミナーでは、単なるツールの紹介にとどまらず、「自社の課題をどう捉えるか」「解決によってどのような経営効果が得られるか」といった視点が随所で共有され、課題の整理から活用フェーズまでを一貫して支援するNRIらしい実践的なアプローチが印象的だった。
今、DXは待ったなしの経営課題だ。産業構造が目まぐるしく変わる中、自社に合った形でツールを使いこなし、最新の潮流に応じて柔軟に動けるかどうかが、これからの経営を大きく左右する。そのプロセスを支えるパートナー選びも、DX推進に向けた最初の決断のひとつと言えるだろう。
野村総合研究所タイ
津崎 直也(Naoya Tsuzaki)
Email: naoya.tsuzaki@nri.com
Puncharat Hiransuchalert
Email: puncharat.h@nri.com
THAIBIZ編集部
和島美緒
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