進む高齢化、介護に関心 ~ヘルスケア見本市、先進技術に商機~

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進む高齢化、介護に関心 ~ヘルスケア見本市、先進技術に商機~

公開日 2025.10.01

NNA掲載:2025年9月18日

タイでは60歳以上の人口が2割を超え、急速に少子高齢化が進む中、介護や健康維持、デジタルヘルスといった日本のヘルスケア産業が得意とする分野に注目が集まっている。首都バンコクで10~12日に開催された東南アジア諸国連合(ASEAN)最大級の医療・ヘルスケア見本市「メディカル・フェア・タイランド2025」では日系企業が多数出展し、タイや東南アジアでの商機を狙った。

日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は2017年以来、8年ぶりに同見本市で「ジャパンパビリオン」を設置した。先進的な医療機器やサービスを提供する日系12社の出展を支援した。

ジェトロバンコク事務所で医療やヘルスケア業界を担当する上江洲祐貴氏は、タイでは少子高齢化を背景に介護や健康関連機器などの需要が伸びていると話す。パビリオンには現地調査に基づき、タイにまだない独自製品・サービスを持つ企業や、現地でニーズの高い分野の企業を選定したという。タイでは介護やデジタルヘルスに関する製品・サービス供給が限られる一方、医療機関は他機関との差別化につながるツールを探している。周辺国や中東などからのメディカルツーリズム(医療観光)の需要取り込みも狙っているという。

タイの総人口に占める60歳以上の割合は現在2割を超えている。総人口が減少していく中、高齢者の割合は相対的に高まり、15年後には3割超に達すると推計されている。

座ったままでシャワー入浴

介護者の負担が大きく、重労働とされる入浴介護の負担軽減につながる製品はタイでもニーズが高い。リハビリ機器の製造を手がけるオージー技研(岡山市)は、介護用浴槽の「セレーノチェアイン」の展示で注目を集めた。車いす状のチェアと浴槽が連結し、利用者を座らせたままで体を洗える入浴機器だ。

浴槽内に取り付けられた17カ所のノズルから湯やせっけん水のシャワーが噴き出し、自動で体全体を満遍なく洗う。コース時間は3分と5分の2種類。体を洗浄した湯は下部に集まり、浴槽外に排出される。同社の佐々木功太海外営業部長は、日本では貯湯式の入浴機器も販売するが、セレーノチェアインは東南アジアなど湯に漬かる文化のない地域に合うタイプだと話す。

「臀部(でんぶ)を洗うため、浴槽底部にもノズルをつけたことが革命だ」(佐々木氏)といい、介護をする人、される人のどちらも抵抗を感じる部分を自動で洗浄できることで、双方の負担を減らす設計となっている。

海外では台湾での販売が好調。東南アジアではタイのほか、高齢化の進むマレーシア、シンガポール、インドネシア、ベトナムでの拡大を目指す。佐々木氏は、「現在は高齢者を自宅で介護している地域でも、今後は介護施設などを利用するという考え方が進んでいくだろう」と見通しを話す。タイでは同社の入浴機器のような競合製品はまだない。まずは認可取得を目指し、発売から1年間で30台の販売を目指す。

オージー技研は、椅子に座った利用者の体を自動で洗う入浴機器の展示で注目を集めた=10日、バンコク
(NNA撮影)

脳とAIで動かなかった手を動かす

慶応義塾大学発のスタートアップ、ライフスケープス(東京都港区)は、脳卒中でまひした手の運動機能回復を助けるリハビリ機器「ライフスケープス・医療用BCI(手指タイプ)」を紹介した。体の他の部分に比べて、リハビリによる機能回復が難しいとされてきた手に焦点を当てた製品だ。

ヘッドセットを装着し、まひした手を開こうとしているときの脳活動を計測する。人工知能(AI)がそれを分析し、脳の運動野が動いたときだけ手指に装着したロボットで手を開かせると、「手が開いた」という信号が脳に戻る。このサイクルを繰り返すと、脳卒中で傷ついた部分を迂回(うかい)するような「代償回路」ができてくるという。

同社の林正彬取締役は「眠っていた神経細胞を働かせて、使えるようにするイメージだ」と話す。既存のリハビリでは機能回復に至らなかった人でも、2~4週間の訓練で、自分の手で食事をしたり字を書いたりできるまで回復した例があるという。

日本では病院などに向けて昨年発売し、10カ月で45台を販売した。世界的にも競合は限られているといい、タイの病院経営者やディストリビューターからの反応に手応えを感じたという。「目標は発売から2年で100台」。タイやマレーシアを皮切りに、東南アジアでの販路拡大を期待する。

ライフスケープスは、AIを活用し、脳卒中でまひした手の機能回復を助ける機器を紹介した=10日、バンコク(NNA撮影)

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