相互利益の精神を未来へ 〜 TPA29から始まる日タイ共創の新章

THAIBIZ No.167 2025年11月発行

THAIBIZ No.167 2025年11月発行TPA29から始まる日タイ共創の新章

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

相互利益の精神を未来へ 〜 TPA29から始まる日タイ共創の新章

公開日 2025.11.10

タイの産業発展において、日タイをつなぐ重要な役割を果たしてきた組織の一つが、泰日経済技術振興協会(TPA)である。TPAは半世紀を超える歴史の中で、産業技術の移転、人材育成、文化理解の促進を通じて、タイ社会の発展を着実に支えてきた。

現在TPAを率いるのは、日本と深い関わりを持ち、自身も長年日本語教育に携わってきたプラニー・チョンスチャリタム会長だ。プラニー会長にTPAの歴史と活動内容、そして来年リニューアルオープンする「TPA29」ビルを通じた日タイ産業協力の未来について話を聞いた。

「Give and Take」の精神から生まれたTPA

プラニー・チョンスチャリタム 氏
泰日経済技術振興協会(TPA) 会長

1983年、文部省奨学金を受け筑波大学大学院国際関係修士課程を修了。カセサート大学において32年間にわたり専任講師、准教授を務めた後、2016年より現在に至るまで東京国際大学の特任教授を務めている。2005年より泰日経済技術振興協会の理事を務め、2024年には同協会の会長に選出された。また、タイ日工業大学評議会の副議長も務めている。

135年以上にわたるタイと日本の友好関係。しかし、両国の関係が常に順風満帆だったわけではない。1970年代初頭、対日貿易赤字を背景に、タイの学生を中心とした日本製品不買運動に端を発する反日運動が起きた。この事態に、日本政府は海外技術者研修協会(現・海外産業人材育成協会:AOTS)の創設者である穂積五一氏に解決を託した。

穂積氏は「外国投資は相互に利益をもたらす関係であるべきだ」という考えを示した。その「Give and Take」の理念をもとに、1972年に日本で日・タイ経済協力協会(JTECS)が設立され、翌1973年にタイでTPAが設立された。

プラニー会長は、「TPAは、日本の産業技術をタイへ導入することを目的に、日本の経済産業省から資金援助を受けて誕生した。やがて活動の幅は広がり、2007年にはタイの労働市場ニーズに応える専門人材を育成するために泰日工業大学(TNI)を設立した」と説明する。

企業の競争力の向上に伴走するTPAのサービス

現在TPAは主に、①語学学校・出版、②研修・コンサルティング、③工業計測機器・実験器具検査・校正、④事業開発支援—の4分野のサービス(図表1)を提供し、企業と人材の持続可能な成長を支える総合的な組織へと進化している。

出所:TPAの提供情報をもとにTHAIBIZ編集部が作成

「年間500社以上が参加する研修サービスでは、人事管理から工場管理、生産性向上、スキル開発まで500以上のコースを展開しているほか、企業のニーズに合わせたカスタマイズも可能だ。また、優れた取り組みを行う企業を表彰する各種の『TPA Thailand Award』は、企業同士がベストプラクティスを共有し、ネットワークを構築する場となっている」とプラニー会長は強調する。同コンテストには、日系企業も参加申し込みが可能だ。

さらに、「③工業計測機器・実験器具検査・校正サービスでは、人材の能力試験も実施し、ものづくりの現場を支える仕組みが整っている」という。

「タイランド4.0」を支える日タイ共創

現在、タイは「タイランド4.0」政策のもと、製造拠点からイノベーション主導型経済への転換を進めている。プラニー会長は「TPAはこの変革を現場から支える立場として、電気自動車(EV)やデジタルトランスフォーメーション(DX)、人工知能(AI)・ロボティクス、脱炭素化・グリーン産業など、未来を見据えた新分野に注力している」と語る。

こうした新分野の産業促進のため、TPAでは日系企業と協働でさまざまな活動を実施している。例えば、炭素排出量削減において優れた実績を上げた企業を表彰する「タイ・日本脱炭素化賞(TJDA)」やAI・ロボティクス分野の次世代人材の育成支援を目的とした「TPAロボットコンテスト」が挙げられる。

TJDA2025では、CPグループとAltervimのほか、日系企業では形鋼メーカーのサイアムヤマトスチールが受賞。またロボットコンテストは、三菱電機ファクトリーオートメーションタイランドの協力のもと30年以上にわたり開催されている。

プラニー会長は、「日本企業はこれまでタイでの事業展開において、相互利益を重視し、生産・経営の現地化や、部品の現地調達率の向上など、タイの経済発展に貢献してきた」とし、TPAは新分野においても日系企業と連携して継続的に支援していく考えを示した。

官民の橋渡し役としての使命

TPAは、日本政府機関と連携し、日本の産業技術の導入も支援している。例えば、AOTSと日本貿易振興機構(ジェトロ)、JTECS(現AOTS)、経済産業省と連携し、2019年より「スマートものづくり応援隊事業」を実施している。同事業では、IoTやロボディクスに精通した「マスター・インストラクター」を100名以上育成し、40以上の工場へ派遣。現場の改善力を高めている。

さらに、日・ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC)、AOTS、Mekong Institute、GXコンシェルジュ、アビームコンサルティング(日本・タイランド)と共に、メコン地域のグリーントランスフォーメーション(GX)を推進する「メコン地域の持続可能なサプライチェーン変革・推進プロジェクト」も進行中だ。

こうした活動の基盤には、日タイ政府との連携に加え、TPA会員の存在も不可欠だ。現在会員数は5,000名を超え、民間企業を支援する産業プラットフォームとして機能している。

TPA29まもなくオープン、イノベーションと共創の新拠点へ

TPA29の外観(写真:TPA提供)

そして今、TPAは新たな挑戦に乗り出している。2024年6月から大規模改修工事を進めているスクンビット29の「TPA29」ビルが来年2月にリニューアルオープン予定だ。プラニー会長は「TPA29は建物を近代的に刷新し、『日タイビジネス協力・友好関係センター』と位置付け、両国の交流をさらに深められる場にしたい」と語る。

同ビルは、レンタルオフィスや多目的スペース、コワーキングスペース、会議室に加え、書店や飲食店、コンビニなどの施設も備える。またセミナーや展示会、ビジネスマッチング、語学・文化講座なども行われる予定だ。

事業拡大を目指す企業やスタートアップ、起業家向けTPA29のレンタルオフィス(写真:TPA提供)

利用者同士が交流できる共有スペースやフォンブースを完備し、個々のニーズに応じた使い方が可能(写真:TPA提供)

すでに複数の日本企業も入居を決定しており、開業記念式典では招待客約120名が出席予定だ。式典後は、セミナーや展示などのビジネスイベントも開催されるという。プラニー会長は、「日系企業の方々にもTPA29を『共創のハブ』として積極的に活用いただきたい」と期待を示した。 

THAIBIZ編集部
サラーウット・インタナサック / タニダ・アリーガンラート / 岡部真由美

THAIBIZ No.167 2025年11月発行

THAIBIZ No.167 2025年11月発行TPA29から始まる日タイ共創の新章

この記事の掲載号をPDFでダウンロード

最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中

Recommend オススメ記事

Recent 新着記事

Ranking ランキング

TOP

SHARE