連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2023.05.16
タイ東北部コンケン県を拠点にトラックなどの車両製造・販売などの事業を展開してきたチョー・タウィー(Cho Thavee)は、現在では電気自動車(EV)関連やフィンテックなどの先端テクノロジー分野にも進出。また、コンケン県でスマートシティーを開発する20社の民間企業連合にも参画している。チョー・タウィーのスラデート・タウィーサーンサックルタイ(Suradech Taweesaengsakulthai)社長に事業の現状とコンケンでのスマートシティー開発などについて話を聞いた。
(インタビューは3月23日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
スラデート社長:日本の産業能率大学で経営を学び、その後、家業のチョー・タウィー(Cho Thavee)を引き継いだ。当初は車両製造の合弁事業パートナーを日本や欧州で探し、最終的にはドイツの「DOLL Fahrzeugbau GmbH」と合弁を組んだ。その結果、ドイツの設計技術やノウハウを学ぶことができ、アジア通貨危機後も輸出を継続することができた。この事業は空港などで利用する「ケータリングトラック」製造の出発点ともなった。その後、日本企業との合弁会社も設立し、新工場を建設し、トレーラーなどを日本へ輸出している。この事業では日本人スタッフも雇用した。
スラデート社長:コロナの影響で事業を見直すことになり、継続できないと判断した事業を切り離し、4つだけ残した。さらに、コンケン県をスマートシティーとして発展させるために、バックエンド(サーバーサイドの処理)技術やライト・レール・トランジット(LRT=軽量鉄道)などの開発を進めており、これが当社の将来の中核事業になると考えている。また、メタバースや、長瀬産業との提携による自動運転車技術などテクノロジー関連事業にも着手している。
フィンテックでは、「ブランク・チェック・カンパニー(白紙の小切手会社)」とも呼ばれるSPAC(特別買収目的会社)の「AROGO」を設立し、米国のナスダック(NASDAQ)株式市場を通じて資金調達し、メタバースに欠かせないAR(拡張現実)、VR(仮想現実)、XR(クロスリアリティー)の技術を提供する「EON Reality」を買収した。アジア通貨危機をきっかけに現在の主力製品となった航空機地上支援用機材(GSE)の製造を開始したように、コロナをきっかけにこの分野に投資することにした。
スラデート社長:タイは貧富の格差問題などさまざまな社会課題を抱えている。一方、国家予算の7割がバンコクに充当され、残り3割がバンコク以外の全国の都市開発だ。こうした現実を踏まえ、国家予算に頼らず、自分たちの力でコンケン県を発展させていこうと考えた。私たちは汚職・貧困・不平等を削減し、より多くの機会を作ることを目標とし、コンケン県の20年発展計画を立てた。
スラデート社長:地元が自ら発展できる仕組みを作りたかったので、20社の民間企業の協力で「Khon Kaen Think Thank(KKTT)」を設立し、LRTシステムへの投資資金を調達した。そして、自治体を株主として設立された公共交通システムを運営する「Khon Kaen Transit System(KKTS)」の協力を求めた。計画では、公共交通指向型開発(Transit-Oriented Development:TOD)とともに5路線のLRTを建設する。資金はKKTT社が提供するが、一部はコンケン県の個人・法人からクラウドファンディングで資金を調達する。今後は証券取引所に上場し、コンケン県の人や県に利益をもたらすことを目指す。また、このプロジェクトを所有する自治体のKKTSも利益を享受することができ、その資金をスマートシティーの他のプロジェクトにも使うこともできる。
コンケンモデルは、資本市場を利用した自己資金調達モデルで、税金に頼らない都市開発だ。私たちは富裕層のツールを活用し、低所得者層を助ける。すべてが実現できれば、地元の人の生活の質は向上するようになると考えている。
さらに、広島から路面電車の譲渡を受け、広島で路面電車のメンテナンス方法を学び、その知識をコンケンの都市開発に活かすためにスタッフを出向させた。スマートシティーを発展させるポイントは「人」だと思う。また、SDGs(持続可能な開発目標)に対応するプロジェクトはコンケン県内で何百も計画されている。このコンケンモデルがきっかけで、タイ政府は「統合的地域管理の政令(2022年)」を公布、国内全県がコンケン県のような20年の発展計画を持たなければならないことになった。
スラデート社長:コンケンモデルは、他の地方や資本市場がある国に応用できる。日本人にもこのモデルを一緒に学んでほしい。タイではプーケットやチェンマイなど開発できる地方がたくさんあり、日本は資本もチーム・人材も持っているため、他の国の地方とも協力することができる。もし日本が開発業者になれば、食品や環境、自動車などの総合的な「日本マーケット」を作ることができる。
スラデート社長: チョー・タウィーにも以前は日本人社員が数人いた。日本人は責任感が強く、マネジメントなどさまざまな能力を持っており、タイ人及びタイ企業を大いに助けてくれた。日本人は子供の頃から規律を重んじることを学んでおり、これは日本人の特長と言える。もし日本人が応募してきたら、採用したほうがよいと思う。外国人社員が会社にいるおかげで、タイ人はスキルや思考方法を学ぶことができる。一方、外国人は自分を理解してくれる人と一緒に働きたいので、雇用主は彼らの潜在能力をどのように活用できるかを理解する必要がある。
一方で、日本人は自分たちが作った業務体系に縛られすぎる。これは日本人の働き方の欠点だ。この業務体系は日本人自身の能力を制約し、仕事や意思決定に時間がかかってしまう。日本人はすでに経験知や思考力、企画力があり、チームワークも良いので、必要のないプロセスを減らせば、意思決定が早くなり、どんな競争にも勝てる可能性が高くなると信じている。
スラデート社長:日本の産業はすでに強いので、日本の大企業が電気自動車(EV)部品の製造に進出すれば、品質は間違いなく世界レベルになると思う。しかし、意思決定にかかる時間がかなり長いので、業務プロセスを改善すべきだろう。現在、タイでは中国製EVが注目されている。一方、日本の大手自動車メーカーは、EVシフトが進めば、サプライチェーンが混乱することをまだ懸念している。
このため、内燃機関(ICE)車の本来のサプライチェーンを維持し続けることができる「水素エンジン」車は、日本メーカーにとって良いソリューションになるだろう。ただ、現在、水素エンジンを推進しているのはトヨタ自動車だけなので、日本メーカーは協力し合うべきだ。今後3年以内に水素エンジン車を実現できればまだ間に合うと思う。そうでなければ、タイで急成長する中国系自動車メーカーがより多くの市場シェアを奪っていく恐れがある。
TJRI編集部
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