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連載: タイ企業経営者インタビュー
公開日 2023.08.29
日本人にとってももっとも馴染みのあるタイのブランドの1つが「シンハービール」だろう。このタイの老舗ビール事業を創業したピロムパクティー家の持ち株会社、ブンロード・ブルワリーの子会社「ブンロード・トレーディング」と「シンハー・ワールドワイド・インターナショナル」の最高財務責任者(CFO)兼最高戦略責任者(CSO)であるヴォラパット・チャワナニクン(Vorapat Chavananikul)氏に同社の事業概要やマーケティング戦略、日本企業との協業などについて話を聞いた。
(インタビューは7月17日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
目次
ヴォラパット氏:ブンロード・ブルワリーは90年前に設立され、アルコールや飲料水などの飲料事業からスタートした。今でもこれらがわれわれの主力事業だ。最近では炭酸飲料の新製品として「シンハーレモンソーダ」を発売した。
日本企業との協業では、アサヒビールをタイで生産・販売するライセンスを持っている。また、2020年6月には亀田製菓との合弁会社である「シンハー・カメダ・タイランド」を設立し、米菓事業も拡充している。さらに、日本のパートナーである北海道の「ファームデザインズ」のほか、「個室会席・北大路」というレストラン事業も展開している。
さらに、「シンハーエステート」では不動産事業、「バンコク・グラス」でパッケージ事業も手がけている。われわれは自社の強みである消費者向けビジネスの経験や強い営業とマーケティング、多様な流通チャンネルを活用し、飲料事業だけでなく、さまざまな分野で新規事業を拡大している。
われわれの事業拡大戦略では2つの考え方がある。1つは「アウトサイド・イン」で、世界のトレンドを見てどのように連動していくかを考える戦略。2つ目が「インサイド・アウト」でわれわれの強みと事業に近い分野で拡大可能なものを探るという戦略だ。現在、人々は健康に関心を持ち、砂糖の消費を心配するようになっている。炭酸飲料市場は大きな市場で、われわれはこの市場でまだ製品を販売していなかったため、糖質ゼロとゼロカロリーのシンハーレモンソーダを発売した。
ヴォラパット氏:ベンチャーキャピタル(VC)である「シンハー・ベンチャーズ」は食品技術の獲得を目標とし、収益を重視している。現在、約25%をタイ国内に投資し、残り75%を海外に投資している。自分たちが理解できる事業が投資対象だ、主な分野は消費者向け製品で、例えば、植物由来食品や砂糖を削減した原料など食品技術だ。さらに、顧客管理技術や物流、顧客ニーズを満たすソリューション、生成AI(人工知能)、小売と顧客関連の新技術も投資対象だ。
ヴォラパット氏:世代によって利用する流通ルートは異なる。以前は伝統的小売りと近代的小売りの両方で、小売店への営業とマーケティングに力を注いでいたが、現在はオンラインチャンネルも強化している。オンラインショッピングの成長が予想されるため、「シンハー・オンライン」というオンラインストアも展開している。
新しい世代は手軽で便利なサービスを求める傾向がある。飲料水は重たく、店頭での購入が敬遠されがちなため、飲料水を毎月定期的に配達するサービスも提供している。
(1990年代中盤以降に生まれた)「Z世代」の考え方は、「幸せを待つ必要がない」という考え方が根底にある。彼らは買い物を楽しむことが好きなため、お金の使い道を考えている時を重視したマーケティング戦略を立てる必要がある。例えば、オンラインストアがディスカウントを提供する4月4日、5月5日、6月6日などの特定の日付には、特にマーケティング活動を強化する。また、商品のプロモーションでは人気の若手男優を起用している。トレンドや顧客の年齢に合わせたマーケティング戦略を展開し、若い世代にアピールしている。
ヴォラパット氏:日本の強みは技術とプロセスの効率を重視する生産方式だと思う。一方、タイ人は良い創造性があり、両国の強みを合わせれば、タイと日本にとってより多くの有益な新しい事業が生まれると思う。
ブンロード・グループは、アサヒビール、ファームデザインズ、亀田製菓など多くの日本企業と協力している。タイ北部チェンライ県のシンハーパークでは丸善製茶と合弁で、緑茶生産事業を行っている。日本のパートナーがいることは非常に良いことだと思う。日本人と仕事をする際は信頼を感じる。われわれは引き続き日本のパートナーを求めている。例えば、合弁の形も含め共同で新規事業を展開したり、われわれの製品を日本で販売したり、日本の製品をタイで販売したりするような事業も歓迎する。
日本にはシンハービールの代理店があり、主にタイ料理店向けだが、日本料理店向けの販売も若干ある。今後は、店舗内と店舗外のより多くの流通ルートに販売し、シンハービールを日本でもっと受け入れてもらうようにしたい。日本のビール市場は非常に競争が激しいため、大手ブランドと競争できるような強みとパートナーを持つことが非常に大事だ。
ヴォラパット氏:われわれは持続可能性を重視し、目標を設定している。例えば、パッケージングではよりリサイクルしやすい方法やプラスチックごみを減らす方法を探している。環境への影響を最小限に抑える新技術を探し続けており、われわれの事業活動から排出される二酸化炭素(CO2)削減が目的だ。
ヴォラパット氏:政府の政策方針に沿った対応は可能だ。アルコール市場の独占撤廃が実現するか分からないが、そうなった場合、アルコール飲料市場により多くの企業が参入し、市場もより活性化され、拡大する可能性もある。また、われわれのグループはさまざまな事業分野に多角化しており、今後も続けていく。このため、パートナーと組む機会は増え、われわれが力を入れている事業も強化されるだろう。
TJRI編集部
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