カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2023.08.22
2019年に創業した日本のスタートアップのアルダグラムが2023年6月のタイ駐在員事務所設立を記念し、7月21日に「Building the Future with Digital transformation」と題するセミナー・レセプションパーティーをクイーンシリキット国際会議場(QSNCC)で開催した。同社は建設業・不動産業・製造業の現場の生産性向上を図るプロジェクト管理アプリ「KANNA(カンナ)」を提供している。
同セミナーには日タイの建設業・不動産業・製造業の関係者約150人が参加し、持続可能な未来を創造するためにプロジェクトマネジメントでのテクノロジーとイノベーションの活用に関する特別講演とパネルディスカッションも行われた。
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同イベントはまず、在タイ日本国大使館の大場雄一次席公使が登壇。「タイでは約6000社の日系企業が進出し、製造業、建設業を含め幅広い分野で活躍されている。日タイ両国のさらなる発展のためには、スタートアップ企業の進出も重要だ。スタートアップビジネスは、昨年11月に日タイ両国外相間で署名された『日タイ戦略的経済連携5か年計画』において、日本とタイの協力の重点分野の一つに位置付けられている」と強調した。
さらに、「世界的に急速なデジタル化が進展する中、タイでもデジタル分野での取組が加速している。プロジェクトマネジメントの分野においても、デジタル技術の活用により、さらなる生産性の向上が期待されている」とし、このほどタイ語版のプロジェクト管理アプリ「KANNA」をリリースしたアルダグラムに対してエールを送った。
続いて、主催者であるアルダグラムの長濱光最高経営責任者(CEO)が参加者と関係者に感謝の意を表した後、「日本は世界で2番目に建設資材のコストが高く、高齢労働者も増えているため、建設業・不動産業・製造業の現場の生産性向上には技術の導入が不可欠だ。そこで、当社は情報共有がスムーズに行え、業務効率化とセキュリティーの向上を同時に実現するアプリ『KANNA』を開発し、2020年7月にリリースした」と説明。2023年6月時点で日本やタイ、イギリス、ドバイ、スペインなど、10カ国以上で2万社以上が利用。現在も利用企業社数は堅調な伸びを見せているという。
特別講演ではまず、タイ不動産協会のポーンナリット・チュアンチャイシット会長が「タイ不動産の展望2023」というテーマで講演を行った。「2020年と2021年はコロナ流行により、バンコクの新築コンドミニアムの発売数は減少したが、2022年には約48000ユニットで、2020年と2021年の合計発売数と同程度に回復した」と説明し、2023年はさらに増加するとの見通しを示した。
一方、新築一戸建て住宅の発売数は、「2020年時点では横ばいだったが、コロナ禍の2021年にやや減少。エレベーターのボタンなどの接触を避けるため、2022年には一戸建て住宅の発売数が急増した。特に2000万バーツ以上の高級一戸建て住宅が伸びており、2022年の発売数は過去7年間の平均の4倍だった」とする一方で、「2020年以降オフィスビルの建設が増加しているが、需要減退により供給過剰となっている」と指摘した。
次に、タイ大林の金成正彦副社長と、不動産開発部の高谷宗典部長が「O-NES Tower開発コンセプトと日本の開発技術」について講演。O-NES Towerは開発から施工までタイ大林にて一貫して行った自社開発案件で、地下5階、地上29階建てのオフィスや商業施設からなる複合施設だ。
「建物の中央に耐震要素としてRC(鉄筋コンクリート)コア壁を配置し、主架構の柱と梁には鉄骨造を採用したハイブリッド構造だ。タイの高層ビルはほとんどが鉄筋コンクリート造で、鉄骨を用いた高層ビルは非常に珍しい。柱にはタイで初のCFTコラム(コンクリート充填鋼管柱)を採用し、断面サイズを縮小することで、空間の有効利用と透明性のあるファサードを実現した。さらに、新耐震設計基準で設計されており、地震時の安全性を高めている」とO-NES Towerの開発技術を紹介した。
マグノリア・クオリティ・ディベロップメント・コーポレーション(MQDC)のナレート・ワシラパンサクン上級副社長は高齢者向けの住宅「The Aspen Tree」やヴィラ、コンドミニアム、ホテル、商業施設などからなる面積約400ライ(=64万平方メートル)の複合開発プロジェクト「The Forestias」を紹介した。
「自然を通じて家族や愛する人の絆を深めるというコンセプトをもとに開発した。プロジェクトの中心である森林は宮脇方式を採用し、中央には人が立ち入ることができない動物の生息地を配置。生物多様性が重要業績評価指標(KPI)の一つで、4年目を迎えた現時点で、約500種の動物が生息している」と報告した。
さらに、「センターからユーティリティ・トンネルを通じて冷水を供給し、地域冷房システムをミックス・ユースプロジェクトに導入したのは、MQDCとしては初めてのプロジェクトだ。これにより、コンデンシングユニットやエアコンの室外機が不要になり、バルコニーを最大限に利用できる。プロジェクト内に熱気を排出しないため、外部に比べると3~5度は涼しい。また、処理水を外部へ排出せず、森林で活用するゼロ・ディスチャージ・プロジェクトだ」とアピールした。
特別講演の最後には、パナソニック・ソリューションズ・タイランドの伊藤秀和社長が「パナソニックグループにおけるPX(Panasonic Transformation)の取り組み」を紹介。パナソニックグループでは、「持続的な成長と企業価値向上を果たしていくために、デジタルによる変革(DX)を経営の重点アジェンダとして位置付け、社会への貢献をさらに向上していく」と強調した上で、「お客様サービスのDX」と「事業オペレーションのDX」の2つの側面から形成される「PX : Panasonic Transformation」を2021年より本格的に始動したと説明した。
さらに、「PXの取り組みの軸がぶれないようにするために『PXの7つの原則』を策定し、経営幹部全員がコミットしている。重要なポイントはデータの利活用と業務プロセス変革だ。特に業務プロセスについては、進化と標準化が鍵」とした上で、「良いものがあれば変革し、過去の習慣や社内の常識にとらわれず、世の中の標準プロセスにできるだけ合わせ、価値を生まない作業はやめていくことも推奨している」と締めくくった。
パネルディスカッションでは、チュラロンコン大学の都市戦略センターのヘルシー・スペース・フォーラム所長兼都市計画スペシャリストのパニット・プージンダー准教授がこれからの都市開発における重要な傾向について「今後、意思決定を行う人は都市開発業者やプロジェクト・オーナーではなく、ステークホルダーだ。そしてビッグデータが意思決定を支援するツールになる。さらに、将来的には資源、特に土地が不足するため、カーシェアリングやコワーキングスペースのようにシェアリング(共有)が鍵となる」と指摘した。
パニット准教授はタイで最も医療関連要素が集中しているバンコクの「ヨーティ・メディカル・イノベーション・ディストリクト(YMID)」プロジェクトを例に挙げ、「同プロジェクトは面積2平方キロメートルの中に病院が17院、医療従事者が約2万人、病床が7000床以上ある。そこでは、シェアリングが適用され、人材や技術、設備などの共用が可能になった。さらにビッグデータを利用し、病院間で病床共有などを実現している」とシェアリングとデータ活用の意義を述べた。
最後に、プロジェクト・プランニング・サービス(PPS)のポントーン・タラチャイ最高経営責任者(CEO)が社内における「KANNA」の導入経験について「建設工事の成功の鍵は、データ管理システムだ。PPSはプロジェクトをたくさん抱えており、社員数も多いため、コミュニケーションやデータ管理の問題がよく起きていた。以前は、進捗報告などの現場作業向けのアプリ、データ蓄積のドライブ、コミュニケーションアプリ-の3つのメインシステムを使用していたが、『KANNA』を導入したことで、アプリ内ですべてのプロジェクトを一元管理できるようになった。システムを管理するプログラマーを採用する必要もなくなった」と述べ、生産性が向上したことをアピールした。
TJRI編集部
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