カテゴリー: 自動車・製造業
公開日 2024.10.21
アユタヤ銀行の調査会社クルンシィ・リサーチは今年9月、タイの自動車産業の見通しに関する最新リポート(2024~2026)を公表した。それによると、2024年の国内市場の低迷と輸入電気自動車(EV)との競争激化を受けて、国内自動車生産台数は2024年から2026年にかけて年率で3.5%減~2.5%減になるとの見通しを示した。国内販売台数は高水準の家計債務の問題を背景とした融資の引き締めと消費低迷から4.5%減~3.5%減になると予想している。
クルンシィのリポートはまず「Overview」で、「タイの自動車産業は長年の政府の支援を受けてきた。自動車組み立て産業は投資家に対する優遇税制、現地調達の設定などの投資促進策の対象なってきた。これにより、自動車サプライチェーンの発展、外国直接投資(FDI)の促進、多国籍企業から国内地場企業への技術移転、輸出向け生産の振興が促されてきた」と指摘。「継続的に海外市場への依存度が高まり、産業の重心が国内市場から輸出市場にシフトしていった」とタイ自動車産業の歴史を概観した。
そしてこれまでの政府支援策について、①1トン・ピックアップトラックの生産促進(1997~2008年)②エコカーの生産促進(2009~2015年)③電気自動車(EV)の生産促進について、それぞれ具体的に紹介。特にEV生産促進については、国家電気自動車政策委員会(NEVPC)がゼロエミッション車(ZEV)の生産・利用に向けたロードマップを作成した上で、「EV3.0(2022~2025年)」と「EV3.5(2024~2027年)」というEV振興策を導入したとし、その内容を改めて詳細に説明した。
同リポートによると、EV3.0導入前の2020年時点のタイ国内自動車生産能力は年間390万台(4割乗用車、6割商用車)で、その8割を日系メーカーが担っていたが、EV振興策の導入を受けて、EV生産能力は60万台増える見込みで、そのほぼすべてが中国系メーカーだと強調。一方でEV人気の高まりと価格競争の激化により、スズキやSUBARU(スバル)など一部メーカーは、タイ国内生産をやめて国内販売用自動車を輸入するようビジネスモデルを変更した結果、国内生産能力は6万台分減少したと説明した。
同リポートは現在の市場の状況について、2024年1~7月の自動車生産台数は、半導体不足が解消されたにもかかわらず、国内・海外市場の低迷を受けて前年同期比17.3%減の88万6069台になったと報告した。内訳では、乗用車の生産台数は41万9570台と同11.7%減少したが、これはEV人気がエコカー市場を侵食した結果、排気量1500CC以下の乗用車生産高が12.7%減となったことが大きかったと指摘。一方で、1500CC以上が大半のハイブリッド車(HEV)は同52.7%増の11万0632台に達したという。また、バッテリー電気自動車(BEV)の国内生産台数は5505台に達したものの、2022~2023年に輸入販売されたBEVの8万4195台の7%に過ぎないとしている。また、1トン・ピックアップトラックの生産台数は同21.4%減だった。
そして、こうした国内生産台数の低迷は国内販売台数の減少を反映している。今年1~7月の国内自動車販売台数(運輸省陸運局の新規登録台数)は前年同期比23.7%減の35万4421台で、このうち乗用車は同20.3%減の13万5897台だった。さらに乗用車の内訳では、消費者が燃料価格の上昇を懸念する中で内燃機関車(ICE)の新規登録台数は21万5337台と同34.9%減と落ち込んだ。一方で、HEVの新規登録台数は同61.4%増の8万3400台、BEVは同14.8%増の4万1993台だった。また、2023年に前年比7.8%増加したPHEVは今年1~7月の新規登録台数は5717台と21.1%の減少に転じた。PHEVの低迷について同リポートは政府の協力な支援を受けているBEVと価格面で競合できなかったためで、また、「メーカーもPHEVの新型モデルを開発していない」ことも背景だと説明している。
そして依然、落ち込みが激しいのが1トン・ピックアップトラックで、今年1~7月の国内販売台数は前年同期比40.1%減の12万4562台だった。特にエルニーニョ現象に伴う干ばつ、減産の影響を受けている農家などの低中所得者層の不良債権比率の上昇の影響を引き続き受けている。クレジット・ビューローによると、今年1~5月のピックアップトラック向け融資残高は280万件、総額9900億バーツに達し、このうち90日以上延滞している融資残高は1400億バーツ(13.9%)で、前年同期比28.7%増の水準だという。
また、今年1~7月の輸出台数は前年同期比5.4%減の60万2576台で、輸出額は同3.8%減の122億ドルだった。輸出市場の景気低迷により、乗用車の輸出額は3.9%減、商用車の輸出額も3.6%減だった。ただ、前年同期がサプライチェーンの緩和と半導体不足の解消により輸出が19.6%増加した反動もあるという。ただ、車種別での輸出販売の違いもあるとし、今年1~7月のICE乗用車の輸出額は8.9%減の63億1000万ドルだった一方、消費者がBEVに消極的になる中でHEVとPHEBが同29.9%増の5億9000万ドルと好調だった。一方、BEVは同4435.2%増の1億9000万ドル。MG、GWM、BYDによるBEVの国内生産が始まったことや世界の消費者の間でのBEVの認知度が高まったことが背景という。
同リポートは2024~2026年の見通しについて、年間の自動車生産台数は178~180万台となり、年率では3.5~2.5%減少すると予想。これは2024年の国内販売の縮小と2024~2025年にかけて特に低コストの中国製の電気自動車(EV)輸入が約10万台に達することによる競争激化が背景だと説明している。しかし、国内生産は2025~2026年に回復に向かうと予測している。その要因としては、①世界の半導体大手よる半導体工場の新規建設投資が拡大し、半導体不足が解消される。ただ米中ハイテク戦争に伴い、米政府が半導体と半導体生産に使われるハイテク製造装置の輸出制限で、今後も一時的にサプライチェーンの途絶が起こる可能性はある②タイ政府のハイブリッド(HEV)に対する物品税の減額措置により、2024~2027年にかけてタイ国内でのHEVの生産が促進される③EV3.0とEV3.5制度の恩恵を受ける企業が、以前の輸入に伴い国内生産を義務付けられたことにより、2024~2025年、2026~2027年にかけて国内生産が増加、新たな「xEV」メーカーの年間生産能力が60万台(当初は50万台)分増加する④国内および輸出先の経済見通しの改善―を挙げた。
さらに、クルンシィは2024~2026年の国内自動車販売台数は4.5~3.5%減少し、74万~75万台になるとの見通しを示した。ただ、①高水準の家計債務と消費者の購買力の低下②エルニーニョ現象、農業生産の減少に伴う農家の商用車購買力の低下③政府のインフラ建設プロジェクトの遅れによる地方での運輸需要の低下④2024年のディーゼル自動車に対する「ユーロ5」基準の導入によるICE価格の上昇圧力―から2024年の自動車販売は20.5~19.5%減少すると予想。その後、外国人旅行者の増加など観光部門の回復持続を背景とした乗用車の需要の増加や、BEVの販売促進と価格競争、EVとのシェア争いのためのICE乗用車の開発などで、自動車販売は2025~2026年にかけて回復するだろうと予想している。
また、2024~2026年の自動車輸出は年率1.0~2.0%増加し、113万~120万台になるとの見通しも示した。タイを拠点とするICEメーカーにとっては特にオーストラリア向け輸出がリスクにさらされると指摘。タイは豪州に年平均で約20万台を輸出しており、豪州はタイにとって最も重要な輸出市場だが、豪州政府は2025年から二酸化炭素(CO2)排出削減を狙いとした環境規制を導入予定で、ICE、特にピックアップトラックに大きな影響を与える見込みという。一方、EVに対する世界需要は拡大し、EV輸出は加速され、東南アジア諸国連合(ASEAN)域内でのEV市場の2021~2035年までの年平均成長率(CAGR)は16~39%になるだろうとのEYリサーチ(2023)の予測を紹介した。
THAIBIZ編集部
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