タイと言えば「象パンツ」実はMade in CHINAだった

THAIBIZ No.149 2024年5月発行

THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略

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タイと言えば「象パンツ」実はMade in CHINAだった

公開日 2024.05.10

社会現象となった象パンツの裏に潜む影

タイの象パンツ

履きやすくて、タイらしい象パンツ。昨年2月頃、コロナが明けて外国人観光客が戻りつつあるタイで、大勢の外国人観光客が象パンツを履いて歩く姿を捉えた写真がSNSで拡散され、ニュースとしても取り上げられる程の反響を呼んだ。

セター首相率いる新政府が発足した2023年。タイ国が持っている歴史や文化を「ソフトパワー」と表現し、同年9月13日に首相命令で「国家ソフトパワー戦略委員会の設置」が発表された。歴史ある本来のタイ文化を経済の武器に変える動きが始まり、象パンツはその一つでもある。

一村一品ならぬ「一県一パンツ」が流行り、コラート県の「猫パンツ」、サムットソンクラーム県の「プラトゥーパンツ」、ピッサヌローク県の「闘鶏パンツ」などが登場。地方創生の役割を担い、名の知られていない県にも存在感をアピールする機会がやってきた。

しかし2024年3月、中国から密輸された3万枚の象パンツが摘発された報道が流れ、有識者による「中国からの安い製品に押され、タイの中小零細企業が廃業に追い込まれている」との批難も相次いだ。社会現象にもなったタイを象徴する象パンツは、中国製だったのだ。

押し寄せるダンピングの津波

中国による「ダンピングの津波」は今に始まったことではない。現在タイと中国の貿易品目は1,200あり、そのうち1,000品目について、タイは貿易赤字を抱えている。その金額は1.4兆バーツ(約5.8兆円)にものぼるが、タイ政府はまだ対策を生み出せていない状況だ。

この問題を加速させたのが、コロナ禍で一気に市場を拡大したEコマースプラットフォームだ。これらで販売されている製品はほとんど、安価な中国製品である。2016年にLazadaを買収した中国企業Alibabaについて「当時から中国で大量に作られた製品を国外にダンピングするための出口を作る意図があった」と専門家は指摘する。

実はこの裏には、法律の穴を潜り抜ける中国の動きがある。国外に出ていくことが前提の「Free Trade Zone」に保管した製品は通常、タイ国内で販売される際には課税対象となる。しかし現在の法律では、1,500バーツ以下の製品は対象外だ。中国企業はこれを利用し、大型船で大量に持ち込んだ製品を1,500バーツ以下に価格操作し無税申告することで、激安価格の中国製品をLazada等のEコマースプラットフォームで販売していると言われている。法律の穴を潜り抜けた合法的な方法だが、タイ企業は価格と品質のバランスにおける競争では中国に勝つことが難しく、廃業に追いやられる中小零細企業が後を絶たない。

日本企業が得られる教訓

貿易赤字の品目数削減に成功し始めているインドネシアでは、「販売価格が100USドル(3,500バーツ相当)以下の製品は、Eコマースプラットフォームでの販売を禁止する」といった法律を施行。対応を迫られるタイ政府だが、同様の法律を作るには省庁を跨いだ複雑な調整を要するため、他の手段も含めて検討する必要がある。かなりの時間がかかるだろう。

上記の問題から見えてくる教訓として、他国でビジネスをするには「自国(自社)だけでない、相手国(企業)にとっての発展を目指すべき」ということだ。この意識なくして本当の意味での「協業」は生まれない。多くの日本企業は、商売の倫理や、顧客だけでなく様々なステークホルダーを大切にする文化があり、長期的な経営を美徳とする側面を持っている。自らの強みをより磨き、両者がWin-Winな関係を構築した上での「協創」をタイで実現してほしい。

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Mediator Co., Ltd.
Chief Executive Officer

ガンタトーン・ワンナワス

在日経験通算10年。埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ帰国後の2009年にMediatorを設立。政府機関や日系企業などのプロジェクトを多数手掛けるほか、在タイ日系企業の日本人・タイ人向けに異文化をテーマとしたセミナーを実施(延べ12,000人以上)。2021年6月にタイ日プラットフォームTJRIを立ち上げた。

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