(東南アジア製造業の未来)国の垣根を越え、タイから新たな価値創造に挑む日系現地企業が集結

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(東南アジア製造業の未来)国の垣根を越え、タイから新たな価値創造に挑む日系現地企業が集結

公開日 2025.12.09

世界が産業転換期を迎えるなか、アジアの製造拠点であるタイでは「現地主導で」どう競争力を実現していくかが重要なテーマになっている。そこで、製造業のデジタル変革を支えるキャディとTHAIBIZは11月5日、「モノづくり未来会議 in バンコク」の第2回を開催。トヨタやデンソーなど日系企業から多国籍な経営層が登壇し、日系企業の強みと変わるべき点が率直に語られた。若手育成、電動化、データ活用といったテーマを通じて、参加者は国籍や立場を超えて本音を語り合い、タイ発の新たな価値創造の可能性を探った。

製造業の熱がつながる「モノづくり未来会議」とは

「モノづくり未来会議」は、「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」というミッションを実現するため、キャディが2022年に日本で立ち上げたイベントだ。日系製造業の競争力低下を背景に生まれた製造業の未来を議論する場は、2024年には米国シカゴ、ラスベガスでも開催され、企業間だけでなく国・地域を超えた知見共有・連携の機会へと広がっている。

バンコク開催では在東南アジア製造業のトップ陣が語り合う場として、今年6月に開催した第1回から大きな反響を呼んだ。

「聞き古した理想論ではなく最前の企業からの事例と視点を学べるため、より将来的な思考を持て、モチベーションが上がる」「一社だけではできないことが繋がりを作ることで実現可能が高まる」といった同イベントの良さはそのままに、第2回となる今回は特に、①多国籍な登壇者陣によるグローバルを意識した講演内容、②第1回よりさらに幅広い製造業種の参加者が来場、といった点が印象的だった。

変化の中こそ、競争力を築くチャンス

まず開会の挨拶では、在タイ日本国大使館経済公使の梶原徹氏が登壇。「タイの製造業は今、大きな変革の波にあり、これは新しい競争力を築くチャンスでもある」と語りかけた。

在タイ日本大使館の梶原徹経済公使
在タイ日本大使館の梶原徹経済公使

そして続くMazda South East Asia, Ltd.(MSEA)上級副社長の猿渡健一郎氏は、「この会議では、国籍を越えたリーダーたちが自分の経験を率直に共有し合える。日本人だけでなく、タイ人や外国人の視点を通して、製造業の課題を見つめ直せることが貴重だ」と話し、前回に続く再会を喜んだ。

Mazda South East Asia, Ltd.(MSEA)上級副社長の猿渡健一郎氏

「変化を楽しむ力」で現地主導の組織へ

最初の基調講演では、SIAM DENSO MANUFACTURINGのMr. Theerawat Limpibunterng が登壇。自身がタイ人社長として4年間、組織改革を進めてきた経験を共有した。

同氏は、「内燃機関(ICE)製品生産により会社が安定していても、将来へのワクワクがないという声が現場から上がった。優秀な人材の離職を防ぐためにも、会社を“魅力的な場所”に変える必要があった」と振り返った。目指したのは、“日本の戦略を実行する工場”から、“現地が考え創る工場”への転換だ。課題解決を現場に委ね、挑戦と失敗を許容する風土を築いた。

サイアム・デンソー・マニュファクチャリング社長/デンソー・インターナショナル・アジアの最高製造責任者(CMO)ティーラワット・リムピバンテン氏
SIAM DENSO MANUFACTURING CO., LTD. President Mr. Theerawat Limpibunterng, Ph.D.

教育体系も従来の「Off-JT+OJT」から「Off-JT+体験+OJT」へと進化。「実際に“手を動かして失敗する”プロセスを通じて原理原則を理解させる。タイ人は理論より体験で学ぶ。楽しく学び、失敗から学ぶ文化を根づかせた」と語った。

最後にはマネジメントにおける伝え方の違いにも触れ、「タイ人は“なぜ”を問い詰められると責められていると感じやすい。論理的説明を求める際も、“一緒に考えよう”という姿勢を示すことが信頼につながる」と語り、文化の違いを超えたリーダーシップの在り方を示した。

顧客視点で新たな価値創出を

続く基調講演では、Toyota Motor AsiaのMr. Pras Ganesh が登壇した。同氏は「日本の製造業は長年、品質やカイゼンを武器に世界をリードしてきた。しかし今、その強みが十分に発揮できていない。理由は、顧客中心のイノベーションを見失ったからだ」と語り、これからの変革には「企業の得意分野からではなく、顧客の課題から始めること」が欠かせないと指摘した。

トヨタ・モーター・アジア副社長兼CISO/トヨタ・モビリティ基金アジア太平洋地域エグゼクティブ・プログラム・ディレクタープラス・ガネシュ氏
Toyota Motor Asia Executive Vice President Mr. Pras Ganesh

また、製造業の文化が持つ“規律”と、ソフトウェアの世界に求められる“スピードと大胆さ”のギャップにも触れた。「異なる文化を融合させるには、誰もが安心して意見を出せる環境が必要」と話し、心理的安全性のある組織づくりの重要性を強調した。

そして、「日本が培ってきた“モノづくり”と“人づくり”の上に、顧客体験を中心とした“ことづくり”を重ねることが未来の価値を生み出す鍵になる」と結んだ。

現地若手育成とデータ活用がつなぐ共創の現場

東アジア大学副学長のスチャイ・ポンパックピアン博士(写真左)、日立アジア・タイランドのソムサック・ガーンジャナカーン取締役兼CMO(写真中央)、モデレーターを務めたメディエーターのガンタトーンCEO
Eastern Asia University 副学長・工学部長 Mr. Suchai Pongpakpien, Ph.D.(写真左)、Hitachi Asia(Thailand)Co., Ltd. Executive Director & Chief Marketing Officer Mr. Somsak Garnjanakarn(写真中央)、モデレーターを務めたメディエーターのガンタトーンCEO(写真右)

パネルディスカッションには、Hitachi AsiaのMr. Somsak Garnjanakarn、Eastern Asia University 副学長のMr. Suchai Pongpakpien が登壇した。

Somsak氏は、「日本人がタイ人に仕事を任せる際は、“何をするか”だけでなく、“なぜそれをするのか”を明確に伝える必要がある」と指摘。納得感のない指示は行動につながらないとし、目的共有の重要性を強調した。また、「単に現地人材を社長に据えることではなく、会社の方針や顧客の所在に応じて最適なリーダーを配置することが重要」と述べ、組織設計の柔軟性を説いた。

Suchai博士は、「言葉が通じても、真に理解し合えるとは限らない。“言葉だけ”の通訳ではなく、“心と心”を通わせる努力が必要だ」と述べ、大学でも学生が企業現場で実習を経験し、文化や価値観の違いを学ぶ機会を増やしていると紹介した。

製造現場の共通課題は「経験値のデータ化」

キャディ株式会社 Vice President of Solutions 河野翔氏

最後の講演には、キャディの河野翔氏が登壇。製造現場に共通する課題として「経験とデータの間にあるギャップ」を挙げ、「現場には長年の知恵が蓄積されているが、データ化されず次に生かされにくい。その結果、同じ課題に何度も直面している」と指摘した。解決の鍵となるのが、AIが理解しやすい形式に情報を整理する“AIフレンドリーなデータ”の仕組みだ。図面や報告書を自動的に構造化し、知見を共有できるようにすることで、トラブル時には過去の事例を参照し、設計段階では後工程の制約を事前に把握できるようになる(図表1)。

出所:キャディの資料を基にTHAIBIZ編集部が作成

河野氏は「重要なのは、現場が効果を実感できる短いサイクルで成果を積み重ね、変革の勢いを生み出すこと」と締めくくり、経験とデータを結びつける新たな視点を提示した。

2026年に開催決定、次の変革へ向けて

講演後の交流会では、登壇者と来場者が企業の枠を越えて語り合い、現場での課題や気づきを共有した。乾杯の挨拶に立ったアイシン・アジア・パシフィックの北里憲之社長は、「第1回に参加したときに感じた製造業の熱が、今回さらに広がっている」とコメント。モデレーターを務めたTHAIBIZ責任者であるメディエーターのガンタトーンCEOは、「組織を変えるためには、まず自分が変わらなければならないという本質的な気づきがあった」と振り返った。

キャディ・アジア本部長の武居大介氏
キャディ株式会社 部門執行役員 アジア本部長の武居大介氏

そして最後は、キャディの武居大介氏が「日本人は積み重ねる力に長けているが、時に動けなくなることもある。ここタイから、新しいスピードで製造業を変えていこう」と締めくくった。

モノづくり未来会議 in バンコクは、2026年に第3回の開催を予定している。タイを起点としたこうした動きが、東南アジアから世界へと広がり、製造業に新たな変革のうねりをもたらすことを期待したい。

CADDI(THAILAND)Co., Ltd.

製造業のエンジニアリングチェーン・サプライチェーン上のあらゆるデータ・経験を資産化し、新たな価値を創出する「製造業AIデータプラットフォームCADDi」を開発・運営。タイ法人は2022年に設立。

TEL:065-365-4000
E-mail:mk_th@caddi.jp
Website:https://caddi.com

THAIBIZ編集部
和島美緒

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