M&A戦略の実践と事例:タイ水産加工業界

ArayZ No.136 2023年4月発行

ArayZ No.136 2023年4月発行ASEAN-EV市場の今〜タイ・インドネシアEV振興策および主要自動車メーカーの戦略〜

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M&A戦略の実践と事例:タイ水産加工業界

公開日 2023.04.10

前号までは2回にわたって、M&A戦略の基礎的な考え方について説明した。

事業成長とM&Aの関係性

始める前に確認したい M&Aタイ最前線

今号では実際にこれらフレームワークを活用した戦略検討の具体例を紹介したいと思う。タイでは以前より中間層の拡大と共に加工食品を代表とした嗜好製品の市場規模が拡大している。そのような状況下で、日系企業が現地で取り得る事業拡大の方向性について、水産加工市場を例に考えていきたい。

タイ水産加工市場の概観

まずは前提となるタイの水産加工市場の概観について説明したい。タイにおける水産加工のバリューチェーンは図表1のように示される。

タイにおける水産加工のバリューチェーン

国内で取れた魚介類をタイ国内で加工した後、輸出するのがメインストリームであり、水産加工業者の役割としては、冷凍/冷蔵から缶詰、スチーム、乾燥など幅広い二次加工が行われる。

次に注目すべきは、図表2で示すように消費者は依然として国外(輸出)の方が大きいものの、トレンドとしては輸出金額が減少する一方で国内消費額は増加傾向にあることである。これは、元々タイは日系企業をはじめ各国水産食品の製造拠点として位置付けられていたのに対し、近年は国民の消費嗜好の変化と共に国内消費が伸びているのが要因であると考えられる。

水産加工品の輸出額と国内消費額の推移(百万米ドル)

M&Aを含めた企業の事業戦略を検討する上では、このような市場トレンドにいち早く着目しながら事業の方向性を決めていく必要がある。

例えば、国内消費市場は安定して伸びている為、国内消費市場にアクセスできる企業の買収やパートナリングなどは一番分かり易い戦略の例である。

同市場の競争環境

続いて水産加工市場における競争環境(どのような企業がいて、市場シェアの高いプレーヤーはどこか、競争は激しいか等)を見ていきたい。

二次加工の内容ごとに企業数と競争環境の激しさを分析したのが図表3である。

二次加工における企業数と代表企業の平均売上高

これを見ると缶詰セグメントは企業数が55社と少なく、各企業の売上規模は大きいことから、少数の大企業が市場を席捲していることが窺える。

また、これとは逆にスチーム、フライ、乾燥等のセグメントでは企業数が561社と多く、企業の平均売上高が小さいことから、市場はより細分化しており、それぞれの二次加工において強みを有す中小プレイヤーが多いことが窺える。

特に缶詰においては、Thai Unionなど大企業が名を連ねているが、これは大規模な製造設備を基に規模の経済を効かすことが重要なビジネスモデルであることの表れであると考えられる。

日系企業の為の事業戦略

前段で見た業界の概観及び輸出・国内消費別のトレンド及びセグメント別の競争環境を踏まえて、ここから日系企業によるタイ水産加工市場での事業戦略について考えていきたい。

個社の状況は無視し、あくまで市場・競争環境を基に望ましいと思われる戦略としては、
①主にタイ国内向けにフライや乾燥、醗酵といったニッチな二次加工を製品の販売を行う企業の買収及びパートナリング
②海外輸出を主に行っていた企業の内、市場縮小と共に業績が悪くなった企業の自社グループ取り込み、オペレーション効率化による業績改善
などが考えられる。

尚、市場セグメントとしては缶詰では既に大企業が安定的にオペレーションを行っていると想定され、日系企業が新たに進出していくのは難しいと思われる反面、細分化された二次加工品市場であれば中小プレイヤーが多いため、日系企業からの出資やパートナリングに興味を持つ企業も多いのではと期待される(考えられる戦略は無数に存在する。上記はあくまで筆者の考える一例ということを、念のため付け加えておく)。

まとめ

弊社にもタイ国内での事業の方向性検討に関する相談がよく寄せられるが、事業戦略を考える場合は、まず自社を取り巻く市場環境がどのように変化しているか、どのような競争環境になっているのかを、大枠でも良いので把握することが重要である。その上で、市場環境及び自社ビジネスモデルとリソースを踏まえて、より詳細な事業戦略を検討する。

他方、注意しなければいけないのは、市場環境は常に変化しておりコロナ禍のように中には大きな変化をもたらすものもある中、常に情報をアップデートしつつ、戦略検討それ自体に時間をかけるのではなく、より機動的に事業の方向性を変えれる体制・意識を常に持っていくことが何よりも重要である。

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする

寄稿者プロフィール
  • 谷口 純平 Jumpei Taniguchi プロフィール写真
  • Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
    Financial Advisory Services / Manager谷口 純平 Jumpei Taniguchi

    Deloitte入社以来、一貫してM&A・事業戦略をテーマに活動。特に各関係者の調整やスピード感を持ったプロジェクト推進で高い評価を得ている。主な実績は、大手ファンド向けBDDと事業戦略検討。総合商社のクロスボーダーM&AのPMIリードなど。2020〜22年8月タイ駐在。同年9月〜シンガポールに赴任。

    TEL:+65 (0) 8-763-6373
    E-mail: jumtaniguchi@deloitte.com


  • 柴 洋平 Yohei Shiba プロフィール写真
  • Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.
    Financial Advisory / Manager
    柴 洋平 Yohei Shiba

    大手生命保険会社、大手電機メーカーを経てDeloitte入社。M&A関連や事業戦略策定、マーケティング支援などのプロジェクトに従事。入社以来、金融・テクノロジー・ライフサイエンス・消費財・電力など幅広い業種における支援をリード。22年8月からバンコクに赴任、特にPre M&AやPMIに力を入れて活動中。

    TEL:+66 (0) 6-3079-4893
    E-mail: yohshiba@deloitte.com


Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.<Financial Advisory>

Deloitteは会計・財務・税務・M&A等のサービスを世界各国で行うプロフェッショナルグループの一つであり、 主にタイの日系企業様向けにM&Aやリストラクチャリング/再編に関わるサービス提供を行っております。

AIA Sathorn Tower, 23rd – 27th, Floor11/1 South Sathorn Rd. Yannawa, Sathron, Bangkok 10120

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Financial Advisory Associate Director

谷口 純平 氏

商社を経て、デロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社に入社。2020年からバンコク及びシンガポール事務所に出向。戦略策定からPMIまで、シームレスに事業成長をサポートできることが強み。

【谷口 純平】
+65 (0) 8-763-6373
jumtaniguchi@deloitte.com

Deloitte Touche Tohmatsu Jaiyos Advisory Co., Ltd.

デロイトタイの日系企業サービスグループ(JSG)では、多数の日本人専門家を抱え、タイ人専門家と共に、タイにおけるあらゆるフェーズでの事業活動に対して、監査、税務・法務、リスクアドバイザリー、フィナンシャルアドバイザリー、コンサルティングサービス等を日系企業のマネジメントの皆様に提供しています。

Website : https://www2.deloitte.com/th/en.html

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