カテゴリー: ASEAN・中国・インド, ビジネス・経済, DX・AI
連載: 経済ジャーナリスト・増田の眼
公開日 2024.03.19
2月12日配信のTJRIニュースレターで紹介した日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコクが開催した「J-Bridge」ウェビナーで、デジタル経済振興庁(DEPA)傘下の研究所所長はタイのデジタル化の現在地について、ソーシャルメディアの調査会社We Are Social(ウイ・アー・ソーシャル)による「デジタル2022」リポートを引用し、「モバイル端末でのインターネット利用時間は世界2位」など、タイが世界的にもデジタル化の先進国であることが示されたと強調した。
筆者が2018年にタイに初めて赴任した当時、タイのモバイルバンキングの急普及ぶりに驚いた。そしてウイ・アー・ソーシャルの「デジタル2020」を知り、記事でタイはモバイルバンキングのアプリ利用者数や、1日当たりのゲーム機利用者数で世界トップなどタイはデジタル先進国であることなどを紹介した。そして、このリポートの最新版「デジタル2024」が今年1月に公表された。今回はこのリポートをもとに、タイのデジタル化の現在地を報告する。
(記事中のスライドはいずれもWe Are SocialによるDigital 2024より引用)
ウイ・アー・ソーシャルと同業のMeltwater(メルトウォーター)が、デジタル分野の各種調査会社のデータを集計したリポートの最新版が「デジタル2024」だ。同リポートは世界全体の現状について、インターネット利用者数は前年比1.8%増の53億5000万人で全人口の66%を占め、さらにソーシャルメディアの利用者は前年比5.6%増の50億人と全人口の62.3%を占めていると報告。タイについては、インターネット利用者数は6321万人で全人口における普及率は88%に達し、ソーシャルメディア利用者数は4910万人、普及率は68.3%と、いずれも世界平均を大幅に上回ったという。
タイのインターネット利用率の世界ランキングは決して高い方ではないが特徴的なのは、パソコン経由は少なく、スマートフォンなどのモバイル端末経由が大半であることだ。1日当たりのインターネットアクセス時間のデバイス別比率は、タイはモバイルが63.3%、パソコンが36.7%とモバイルの比率の高さは中国と並んで世界トップだ。
インターネットアクセスにおけるモバイル端末利用率ではタイは世界5位(98.3%)である一方、パソコン経由のアクセス率(42.4%)は調査対象の53カ国・地域中、下から4番目であることに少し驚く。逆に、インターネットのスピードは、モバイル回線は下位だが、固定回線では世界7位だ。
このリポートのハイライトがソーシャルメディア分野の調査だ。ソーシャルメディアのユーザー数のこれまでの推移を見ると2000年の2500万人から、2004年2月の米フェイスブック登場を経て2024年の50億3700万人(前年比5.6%増)まで毎年増加、右肩上がりのトレンドが続いている。
そして全人口に占めるソーシャルメディア利用者の比率も、2014年1月の25.6%から2024年1月の62.3%まで上昇トレンドが続いている。各国の全人口に占める利用者数の比率ではタイは68.3%で、ランキングでは40位にとどまっているが、1日当たりの利用時間では、タイは2時間31分で世界17位に浮上する。
また、全世界で最も利用されているソーシャルメディアのプラットフォームのランキングは、①フェイスブック(30億4900万人)②ユーチューブ(24億9100万人)③WHATSAPP(20億人)④インスタグラム(20億人)⑤TIK TOK(20億人)の順で、意外なのは影響力が大きいと思われるX(旧ツイッター)は6億1900万人で12位にとどまっていることだ。一方、どのソーシャルメディアのアプリケーション利用時間の多さランキングでは、①TIK TOK②ユーチューブ③フェイスブック-が上位だ。
そしてプラットフォーム別にモバイル端末での利用時間の国別ランキングを見ると、タイはフェイスブックででは5位、ユーチューブは韓国に続く2位だ。一方で、インスタグラムは下から5番目だ。ちなみに携帯電話の利用時間の国別ランキングで、タイは世界3位(5時間38分)だ。
「デジタル2024」は、携帯端末やパソコンを通じたインターネットの現状、ソーシャルネットワークの利用状況を詳細に調査しているだけでなく、モバイルバンキング、電子商取引(EC)、さらに既存メディアであるテレビやゲームなどデジタル技術を利用できる広範囲の生活サービスについても調査・分析している。例えば「QRコード」では、インターネットユーザーにおけるモバイル端末でのQRコード利用率でタイは56.3%で世界6位にランク付けされている。また、個人的に興味深かったオンライン翻訳ツールの利用比率では、タイは14位にとどまった。
一方、「デジタル2020」リポートで世界46カ国・地域中トップだった、モバイルバンキングや金融サービスのアプリ利用状況は現在どうか。デジタル2024では、毎月、銀行・投資・保健などの金融サービスをオンラインで利用している人の比率は33位に低迷している。ただ、質問形式の違いもあるかもしれず、いわゆるモバイル端末での利用に限ったらどうだったかは分からない。一方、興味深いのはタイで人気の「Cryptocurrency(暗号通貨)」の利用率で、トルコに次いで世界2位だ。
一方、エンタテインメント分野では、インターネットユーザーがどの程度テレビを見ているかとの設問もある。1日当たりのテレビ視聴時間でタイは3時間23分で、世界16位だ。ちなみに、トップは米国で4時間39分、一方、最下位は日本で2時間19分だ。しかし、インターネット利用者におけるビデオゲームの利用率でタイは93.2%で世界4位。さらに、タイ人のゲーム機の利用時間は1時間40分でサウジアラビアについで2位で、2020リポートでは1時間43分で世界トップだった時からほぼ変わっていないといえる。
さらに消費者の購買活動におけるデジタル化の浸透も調査対象となっている。まず、モバイルアプリを通じた消費額が国内総生産(GDP)に占める比率で、タイは0.22%で6位だ。このランキングでは1位が台湾(0.54%)、2位が韓国(0.46%)、3位が日本(0.42%)、4位が香港(0.33%)、5位が中国(0.29%)と上位5カ国がいずれも東アジアの国・地域であり、それに続くのがタイで、7位以下は米国(0.17%)などと大幅に差があるのが興味深い。
そして電子商取引(Eコマース)に関する調査では、インターネットユーザーで毎週、オンライン購入を行う人の比率で、タイは66.9%と世界トップだ。
一方で、オンライン購入でモバイル端末を使う人の比率は46.3%と下から7番目で、その他パソコンなどを使う人が53.7%と多いのも、PCよりモバイル端末利用が一般的という調査結果もあるだけに意外だ。また、オンラインでモビリティー・サービスを使う人の比率は7.0%で下から7番目。さらに、オンライン配車サービスでの1ユーザー当たりの平均収入額ではタイは593.62ドルとランキングのほぼ真ん中、世界平均をわずかに上回る水準だ。さらにモバイル支払いの利用率ではタイは30.9%と世界12位だ。
デジタル2024リポートが示してくれる世界とタイのデジタル化の現在地は、デジタルにそれほど詳しくない筆者とすれば、なかなか評価しにくい。特にデジタル分野は年々変化が急激だと思われるが、それでも2020年時点でモバイルバンキングのアプリ利用者数が世界トップという当時の評価がなぜ最新版の似た質問でかなり違うのか良く分からない。それでもこのリポートは、タイ人が、デジタル分野でも日本人や他の国民と違う面で強みを発揮できそうなことを示唆してくれている。
THAIBIZ Chief News Editor
増田 篤
一橋大学卒業後、時事通信社に入社。証券部配、徳島支局を経て、英国金融雑誌に転職。時事通信社復職後、商況部、外国経済部、シカゴ特派員など務めるほか、編集長としてデジタル農業誌Agrioを創刊。2018年3月から2021年末まで泰国時事通信社社長兼編集長としてバンコク駐在。2022年5月にMediatorに加入。
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