カテゴリー: バイオ・BCG・農業, DX・AI, イベント
公開日 2023.10.25
タイ国家イノベーション庁(NIA)は9月6日、タイ東部の中核大学であるブラパー大学、タイのスタートアップ企業2社と、東部経済回廊(EEC)を「スマートIoTイノベーション起業家」のハブとしての開発促進を目的とする覚書(MOU)を締結した。これに合わせNIAは、EEC域内でのイノベーション政策と取り組みの現場をメディアに紹介するツアーを実施した。今回は、ブラパー大学で行われたイベントに加え、農業機械大手サイアム・クボタが東部チョンブリ県に開設した実証農場「クボタ・ファーム」と同県ワンチャンバレーに整備中のEECのイノベーション促進プラットフォーム「EECi」の視察ツアーの様子を紹介する。
9月6日にブラパー大学内で「EEC deep tech ecosystem」と題するMOU調印イベントが行われた。同MOUで推進されるプロジェクトにはNIAとブラパー大学のほか、EEC内に整備される7つの特定産業向け促進ゾーンのうち、EECi、EECd(デジタルパーク)、EECmd(メディカルハブ)のほか、クボタ・ファーム、タイ地理情報宇宙技術開発機関(GISTDA)など10機関が参加するという。
NIAのクリットパカ事務局長は同イベントで「東部経済回廊(EEC)をタイのイノベーションの中心地に発展させたい。特に地方企業がイノベーションを理解して活用すれば、起業が増えて地域経済の原動力となり、より多くの雇用と投資を生み出すことができるだろう」と強調した。その上で、NIAは2027年までに、タイの主要10県と10の地域でイノベーションを促進するとした上で、「フードテック&アグリテック」「トラベルテック」「メドテック」「クライメートテック」そして「ソフトパワー」が促進対象分野だと説明。今回のEEC域内のEECiや「フードテック&アグリテック」で知られるクボタ・ファームを含む10機関との連携は、「国家イノベーションシステムの加速に重要な役割を果たすだろう」と訴えた。
一方、ブラパー大学のEECサイエンスパーク・プロジェクト委員長を務めるナヨット・クルキットゴーソン准教授は「われわれは2022年に、EEC内に『ディープテック』エコシステムを構築した」とした上で、「かつてタイはスキルの高い安価な労働力を持つ国として知られ、多くの外国人投資家が工業団地に投資した。しかし、現在ではこの強みだけでは他国と競争することはできなくなっている。タイはイノベーションとディープテックの開発に注力しなければならない。EECはこの分野の拠点となる可能性が高い。さまざまな研究実験インフラとなるブラパー大学やクボタファーム、GISTDA、EECiなどがあるからだ」とアピールした。
メディアツアーは9月5日に「クボタ・ファーム」を視察した。2020年に開設され、面積は現在220ライ(1ライ=1600平方メートル)あり、10カ所のエリアでさまざまな実証事業を行い、ソリューションを提案している。また、近代的農業、スマート農業の研究開発に取り組むとともに、農業体験も提供している。
サイアム・クボタのビジネス・バリュー創造担当部長のラチャキット・サグアンシーウィン氏はまず、「タイの農業は投資金額に比べ、得られる収益が少ないことが問題だった。われわれはこの問題を解決するため、すべての人に対し効率的な農業を指導する場所としてクボタ・ファームを開設した」と説明した。そして、「スマート農業は実現可能だが、農家は伝統的なやり方に慣れているため、まずは人々の考え方を変えなければならない。例えば、水や肥料、種子の量などをそれぞれの地域、農地に合わせて計算していなかったため、コストが高くなっていた。このため、さまざまな関連情報を集めてち密な計画を立てる必要がある」と強調。そして、「われわれはさまざまな機関と農業知識の普及や情報共有などで協力している。また、作物を研究・開発するための試験圃場の提供サービスを行っており、関心のある企業を歓迎する」と呼びかけた。
クボタ・ファームの視察ツアーにも参加した、ブラパー大学のEECサイエンスパーク・プロジェクト副委員長のシンナウット・ピパットパーヌクン助教は「ブラパー大学は2019年にサイアム・クボタとパートナーを組んだ。タイの農家のほとんどは高齢者で、まだ伝統的な農法を行っており、労働力不足の問題も続いている。これらの問題はスマート農業やイノベーションの活用などで解決可能だ。さらに、農業が重労働ではなくなれば、農業部門に新世代を呼び込むこともできるだろう」との認識を示した。
その後、メディアツアーは「精密稲作(Precision rice farm)」と「輪作」の圃場を見学した。ラチャキット氏は、「タイの稲作では種籾を直接蒔くことが多い。1ライ当たり30キロという大量の種籾を蒔かなければならない。クボタ・ファームでは田植機を使い、田んぼに苗を植えていく『Zero broadcast』という方法を採用している。これにより苗が密集せず、管理が簡単になり、コストも削減できる。また、苗の管理をする『KAS Crop Calendar』というアプリを開発し、1日にどれくらいの肥料が必要か、何日後に稲が収穫できるかを判断できる」と説明。さらに、クボタの自動運転田植え機や農薬散布に使用する農業用ドローンなども紹介した。
その後、新理論農業エリア(New Theory Agriculture)を訪れた。ラチャキット氏は「このエリアは10〜15ライの農地で最大限の利益を得られるようにするため、「Sufficient Economy Philosophy」(足るを知る経済)と新農業理論が導入されている。農場内では水の管理・循環システムや、地下センサーによる湿度の測定システム、作物への自動散水システムなどを利用している」と説明。さらに、自動養鶏システムや、果実を傷つけずに甘さを測定できる測定器なども披露した。
メディアツアーは6日午前中にチョンブリ県ワンチャンバレーに整備中のEECi(EECイノベーション)の施設を見学した。EECiは、ターゲット産業を促進するとともに、イノベーションを開発するモデル地域で、研究成果を実用化や外国から導入したイノベーションをタイの現場に適応させる施設でもある。① バイオイノベーション ②オートメーション、ロボット、インテリジェントシステム ③食品イノベーション ④航空宇宙イノベーションーの4つのエリアに分かれている 。そしてEECi内では、実証実験を行うパイロットプラントである「スマートビニールハウス」や「フェノミクスビニールハウス」、バッテリー工場、植物工場、バイオリファイナリー工場、自動運転車のテストエリアなどを整備しつつある。
このうち、フェノミクスビニールハウスは、植物の品種を選択するために、さまざまな先端技術を使用し、植物の特性や表現型を研究(Phenomics)する施設だ。例えば、茎、花、根、種子などの特性を研究し、病気に強く、環境の変化に適応できる植物を開発する。農業部門を持続的に発展させるために、実証実験を行い、研究から得た成果を普及させていく。
タイ国立科学技術開発庁 (NSTDA)副所長兼EECi事務局長のウット・ダンキッティクン氏は「NSTDAがEECiの管理・開発を担当している。ここでは既存産業を発展させるとともに、ターゲット産業を促進し、将来、タイをイノベーションのリーダー国にするための場所だ。ここではさまざまな産業分野での実証実験をすることができる。また、土地の長期リースや研究用スペースをレンタルする場合にはタイ投資委員会(BOI)の特典も利用できる。このインフラの利用を公的部門、民間部門、教育機関に呼びかけたい」と訴えた。
(TJRI編集部:サラーウット・インタナサック、増田 篤)
TJRI編集部
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