カテゴリー: 協創・進出, 対談・インタビュー, 特集, DX・AI
連載: 日タイ経済共創ビジョン
公開日 2023.08.08
タイ政府が先端企業の誘致を進める東部経済回廊(EEC)への企業進出は順調のようだ。タイ商務省によると、チャチュンサオ、チョンブリ、ラヨンの3県にまたがるEEC地域の今年上半期の新規企業登録数は前年同期比27%増の5223社だった。EECではこれまで、日本企業が投資の主役だったが、ここにきて電気自動車(EV)の現地生産計画を加速する中国企業の存在感が着実に高まっている。今年4月にEEC事務局長に就任したチュラ・スックマノップ氏にEECにおける中国や日本の企業の最新動向、今後の見通しなどについてインタビューした。
(聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部、7月5日)
チュラ氏:EEC事務局は域内に外国投資を誘致し、12のターゲット産業(①次世代自動車②スマート電子製品③医療・健康ツーリズム④農業・バイオテクノロジー⑤未来食品⑥オートメーション・ロボット産業⑦航空・ロジスティック⑧バイオ燃料とバイオ化学⑨デジタル産業⑩医療ハブとなる産業⑪防衛⑫教育及び人材開発)のハブにすること目指している。
企業がEECで事業を行う場合は、数多くの複雑な法的手続きをすべてEEC事務局1カ所でできる。ビザや工場の設置許可証などの44種類の許可証を発行することが可能で、他の政府機関に申請する必要がない。また、それぞれの外資系企業にとってどのような支援政策が必要かを個別企業ごとに検討し、アドバイスする。
チュラ氏:おおむね計画通りに進んでいるが、若干遅れているプロジェクトもある。例えば、ドンムアン(バンコク都)、スワンナプーム(サムットプラカン県)、ウタパオ(東部ラヨーン県)の3空港を結ぶ高速鉄道はまだ着工できていない。一部の契約が変更されたからだ。また、ウタパオ空港拡張も外資系金融機関からの融資の手続きが遅れているが、来月には新滑走路建設の入札を予定している。この他では、レムチャバン港の拡張工事も始まり、マプタプット工業港も計画通りに進んでいる。
チュラ氏:中国は主にEV産業に投資しており、今後もEV関連事業への投資が続くと予想している。例えば、EVの部品やバッテリーの製造などだ。他の産業も誘致はしているものの、本格的な進出の動きはない。
チュラ氏:懸念に関しては承知している。タイで生産する場合、タイ国内原材料を最低限利用する条件を設定している。地場のサプライヤーを利用するかどうかは企業や産業次第だと思う。タイ国内のサプライチェーンがしっかりしているなら、利用する判断は容易だ。例えば、EVは内燃機関(ICE)車に比べて半分以上の部品が不要になるが、EVで必要な部品は原材料含めタイ製を利用すると認識している。
チュラ氏:日本は他の国より、EECに投資している。特に日本のクリーンエネルギー技術はタイのバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルに直結しており、その産業も非常に強く、タイでも可能性がある。そして、農業やバイオテクノロジー、水素、再生可能エネルギー、二酸化炭素(CO2)回収・利用・貯留(CCUS)などの新技術も有望だ。これらの産業がタイに進出すれば、タイ経済に長期的に大きな利益をもたらすだろう。
チュラ氏:非常に重要だと思う。われわれも外国企業を誘致する際に全体のサプライチェーンを見る。協力できるタイ国内のサプライヤーやパートナーを探して、紹介する。パートナーがいればタイでのビジネス上の友人となり、タイにとっても良いことだ。
チュラ氏:最近、日本を訪問し、がん治療の興味深いスタートアップ企業と話をした。企業規模は関係なく、新技術はスタートアップから生まれることが多い。このため、スタートアップ企業をタイに誘致することは極めて重要だ。外国のスタートアップ企業の支援、タイのパートナー企業紹介にも取り組んでいく。
チュラ氏:EECは12のターゲット産業の誘致・拡充を目指しているが、まずは「医療・健康」「高速大容量規格5G・デジタル化」、「次世代自動車」、「バイオ・循環型・グリーン(BCG)」「サービス」の5つの産業クラスターを重点的に後押しする。EEC事務局としても事務局内の人材育成を強化し、ターゲット産業を担当する専門人材を配置していく方針だ。
チュラ氏:大きな影響はないと思う。タイ経済は外国投資に依存しているため、どのような政府になっても迅速な外国投資を望んでおり、EECの発展を促進しなければならない。EECは輸出入に適した地域であり、労働力やインフラも備えているため、外国投資に適した地域だ。
チュラ氏:交通ネットワークの拡充は重要だ。コストが安く、便利に利用でき、時間通りに製品を配送できるような輸送網を望んでいる。交通機関が整備されれば、人々はより多くの交通手段を選択できる。鉄道に関しては日本のように民間企業が運営に参加することを期待している。より頻繁な運行が可能になり、サービスも向上し、コストも自動車と比較できるようになる。
TJRI編集部
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