ArayZ No.105 2020年9月発行勃興するメコン5 〜期待と注目のCLMVT〜
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2020.09.10
みずほ銀行 バンコク支店 メコン5課 参事役
鈴木 裕介
2004年に入行。支店での営業職、本部での企画業務等を経て19年よりバンコック支店に勤務。カンボジア、ラオスにおけるマーケティング業務に従事し、現場に足を運ぶをモットーに、出張ベースながら精力的に各地に赴いている。
ラオスはメコン5の国全てに加えて中国とも国境を接する地理的な要衝にあります。
直近の10年ほどは7%前後の高いGDP成長率を維持してきました。メコン川が国土を縦断しており水力発電が盛んで、周辺国に電気を輸出することでラオス経済をけん引してきました。最大の買い手はタイです。
さらにベトナムにも輸出しており、カンボジアにも輸出することが決まっています。他の新興国では都市化や工業化に伴って電力が不足し、投資のボトルネックになることが多い中、ラオスは恵まれた環境にあります。
また、人件費が低く手作業が必要なワイヤーハーネスなどの電子機器や軽工業の分野で中国や韓国、日本から投資が入り、経済を押し上げてきました。古都ルアンパパーンやヒンドゥー教寺跡のワットプー(チャンパサック県)、ジャール平原の巨大石壺遺跡群(シェンクワーン県)という世界遺産を擁し、近年は豊かな自然に魅かれて欧米などから観光客が訪れ、観光産業も貴重な外貨獲得手段となっていました。
人口は約700万人と多くはありませんが、人口構成は30歳以下が60%を占め、若い労働者が豊富です。引き続き人口ボーナスが続く見通しです。さらに農業従事者も多く、ワーカーの確保は難しくありません。
ラオス語とタイ語は似ており、ラオスの人々はおおよそタイ語を理解することができます。そのため、例えば人件費の上がったタイから労働集約的な工程をラオスに移管した時に、タイ人を派遣して技術指導することも可能です。
こういった一部工程をラオスに移すタイ+1のような、補完的な投資の動きは今後も続くと思われます。
国土は日本の本州と同じくらいの広さで農地に恵まれています。特に南部にある標高1000m超のボラベン高原は冷涼な気候でいちごやコーヒーなど、米やキャッサバなどに比べて付加価値の高い農産物が1年を通して栽培できます。今後、周辺国への農作物などの輸出も期待できます。
光学ガラスメーカーのHOYAは300億円を投資して、ビエンチャン近郊にHDDのガラス基板を作る新工場を建設しています。タイから技術指導を行い、同社のタイやベトナムの工場と同様の製品を生産する補完的な生産拠点です。
ラオスは電力が豊富ですが、ガラス基板の研磨は電気を大量に使うため、安価で安定した電力供給が必要であることもラオスが投資対象に選ばれた理由の1つです。
ラオスの地元企業では、ソクサイ(Sokxay)グループはトヨタと合弁で販売代理店を展開し、他にも飲食チェーン店や保険事業など、幅広く事業を手掛けている企業です。
同じく地元企業のAMZグループはタイの大手食品会社ベタグロと提携し、養鶏(鶏卵)・養豚などを行っています。2万ヘクタールの大規模農園を建設する計画も持っています。
増しているのは中国の存在感です。
海外からの直接投資の1位は中国です。中国の昆明からラオスの首都ビエンチャンまでを結ぶ高速鉄道の建設が進んでおり、来年12月2日(建国46周年)に完成する予定です。ラオス初の本格的な鉄道として、中国からの観光客の増加に加えて物流コストの低減も期待されます。鉄道敷設工事に伴ってラオス人の雇用も生まれており、経済を押し上げている面もあります。
一方で、建設資金の多くは中国からの融資で賄われており、完成後に乗客が見込みを下回った場合、「債務の罠」の観点から懸念もあります。
海外直接投資の2位はタイです。TCCグループ傘下のスーパー「ビッグC」がラオスで地場企業のコンビニエンスストアを買収してミニビッグCを運営するなど、タイ企業の投資も入ってきています。
課題は物流コストです。国内の道路インフラが整備の途上で、まだラオスには高速道路がありません。
例えばベトナムのハノイは距離的に近いですが、トンネルがないため山を越えなければならず、時間とコストが掛かります。ビエンチャン市内も車で1時間圏内はほぼ整備されていますが、それを越えると穴が空いていたりと道路事情が厳しくなります。
海に面していないため、現状海上輸送するには遠いタイの港に輸送する必要があり非効率的です。トラックで輸出しても帰りは空荷で戻ってくることが多く、コストが掛かる要因の一つになっています。
また、国内移動の難しさは観光産業においても足かせになっています。ラオスは外貨の流動性が低く、企業が調達に苦労するケースもあります。
支払いサイトを長く取り、折々に現地通貨キップをドルに換えてストックしておき、支払いに充てる企業も多いです。
電力や鉱物の輸出、観光産業で外貨収入を得る一方、生活資材のほとんどを輸入に頼っており貿易収支は赤字です。
そのため、通貨のキップが年々弱くなっており、輸入している歯ブラシやボディーソープなど日用品のキップでの値段が徐々に上昇、国内向けの事業において課題となっています。
新型コロナウイルスの感染者は22人(WHO、8月27日時点)、死者は0人と感染拡大に至っていませんが、入国制限によって外国人観光客が途絶え、観光産業が大きな打撃を受けており、先述の外貨流動性の一層の悪化が懸念されます。
また、10万人とも言われるラオスからの出稼ぎ労働者がタイで働いていましたが、タイで行われた商業施設の閉鎖や国境の封鎖などによって大勢の人々が帰国し、仕送りに頼っていた世帯に影響を与えると見られています。
新型コロナウイルスの影響は今後もしばらく続くと思われます。回復には時間が掛かり、U字回復にならざるを得ないと見ています。
ただ、タイ+1、ベトナム+1といった補完的な生産拠点として進出を考える企業にとってはむしろ人手が確保しやすく、労働賃金もしばらく上がる懸念がないなど、引き続き投資メリットはあります。輸出入共に外貨で行えば、外貨調達に関する心配も要りません。
タイの日系企業の中には、これまでできなかった生産工程の見直し、効率化に取り組まれている企業もあるかと思います。需要が回復した時にどんな生産体制がベストかを考えた際に、選択肢の一つにラオスを加える企業が増えることを展望しています。
ラオスは、今がチャンスです。
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THAIBIZ編集部
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