ArayZ No.105 2020年9月発行勃興するメコン5 〜期待と注目のCLMVT〜
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カテゴリー: ビジネス・経済
公開日 2020.09.10
みずほ銀行 ハノイ支店 日系営業課 課長
今市 大翼
2002年に入行。国内営業を担当した後、15年2月からベトナムに赴任。5年半のベトナム営業経験を活かした帰納的アプローチで、日系企業の事業展開やM&Aをサポート。
みずほ銀行 ホーチミン支店 日系営業課 課長
山崎 勲
2006年に入行。ホーチミン支店にて日系営業を担当。「在越18年」。この一言で驚く方は多いが、今も新しいことの連続で七転八倒の日々が続く。
ベトナムは近年、GDP成長率7%前後と、東南アジア随一の非常に好調な経済を維持しています。要因の一つは輸出です。外資系の製造業が輸出向けの生産拠点として進出。
最近では韓国のサムスンはベトナム北部に携帯電話の工場を設け、同社の全生産量の半分にあたる年間2億台を出荷し、ベトナムの輸出の25%に及ぶと言われています。貿易収支は既に黒字に転換しています。
人件費は中国やタイと比べて安く、最近では米中貿易摩擦もあって繊維や服飾などの中国企業の進出もあります。各地で港や道路、工業団地も増え、企業にとっては選択肢が広がっています。
国内に目を向ければ個人消費が伸びており、GDPの70%近くを民間最終消費支出が占めています。ホーチミンにおいては一人当たりが5000米ドルを超えたと言われており、拡大する国内市場をターゲットに進出する企業も増えています。順調な経済の中でも、物価上昇率は約4%に抑えられ、急激な物価の上昇は起きていません。
若くて豊富な労働力があり、まじめで良く働いてくれると進出企業からの評価は高いです。地理的にも北に中国、西にはタイがあり、チャイナ+1、タイ+1としての投資を受け入れる立地としても優れています。
人口が1億人近くおり、今後も消費の伸びが期待できるため、幅広い分野にビジネスチャンスがあると見られています。これまで輸出されていた工業製品、生活雑貨が国内で売れる時代になってきました。
また、ベトナムにおける小売り市場のモダントレード(近代的小売り)の比率は10%程と言われ、家の軒先で商いをするような小規模店がまだたくさんあります。今後、モダントレードの割合が増える中で、大きなビジネスチャンスがあると思われます。
ベトナムは日本やオーストラリアと共にCPTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に加盟し、EUとの間にはEVFTA(EUベトナム自由貿易協定)を結んでいます。ベトナムは輸出国として関税がなく安く売れるようになり、恩恵を受ける立場と言われています。来年、再来年を見据えて生産をしたいという企業もいます。
電力構成は主に水力と火力ですが、工業化による電力需要増加から、LNGなどの発電事業にも今後進出の可能性があります。
ベトナムは社会主義国で長く国営企業が経済の中心を担っていました。そのため比較的新しい民間企業が多いです。
ビングループは不動産開発や小売り、病院、学校などを多角的に経営するコングロマリットで、昨年からはビンファストの名で自動車を生産。今年に入って医療機器も生産しています。ソビコグループは不動産開発や金融などを手掛けるほか、LCC(格安航空)のベトジェットも傘下の企業です。民間企業は国営企業と違って経営の自由度が高くスピード感があります。
好調な個人消費を受け、日系ではイオンがイオンモールをハノイに2店舗、ホーチミンに3店舗を既に展開。ホーチミンには16年に髙島屋が進出、全日空は同年にベトナム航空に出資しています。最近は、小売りや飲食、不動産、農業など様々な分野への問い合わせがあります。
17年にはタイの飲料大手タイビバレッジが国営企業だったサイゴンビアの株式54%を約48億5000万米ドルで取得しています。また、タイの素材大手SCGは南部に約50億米ドルを投資して石油化学コンビナートを建設しています。
エネルギーや交通などのインフラ整備が課題です。ハノイ、ホーチミン周辺は製造業が多数進出しており、良い立地が少なくなってきています。
ベトナムは南北1650㎞と縦に長い国で、日本の青森から福岡くらいまでの距離があります。発展がハノイ、ホーチミンに集中しており、その他の地方に空港や港などが整備されれば、さらに製造業が進出する余地が出てきます。ただ、国家財政は赤字が続いており、民間資金を活用するためPPP(官民連携)が必要になりますが、その枠組み作りもしていかなければなりません。
まだ労働コストは安いですが、ハノイ、ホーチミンでは徐々に上がってきています。今後も投資家を引き付けるために、人材育成をどのように進めるのか、労働集約的な産業からどのように脱却するかを考えなければなりません。
また、国内で部品などを調達できないケースも多く輸入せざるを得なくなり、国内では組立中心の工業化に留まっています。裾野産業の育成にも力を入れる必要があります。
ベトナムの感染者は1034人(WHO、8月27日時点)となっています。政府は1月末には中国からのフライトを制限するなど早めに手を打ち、国内の感染は一度は収まり世界的にも対策が評価されてきました。
しかし、7月末から中部のリゾート地ダナンで市中感染が発生しています。
懸念されるのは輸出への影響です。ベトナムは輸出産業が主なので、海外の需要が減って製品が売れなくなると、生産量が落ちます。今年が貿易赤字になるかどうかは注目点です。第2四半期のGDP成長率は前年同期比0・36%と落ち込んではいますが、世界銀行や国際通貨基金でも今年の成長率は約3%とプラスを維持し、来年は6%後半に戻ると予測されており、速やかな回復が見込まれます。
移動制限などの状況下で製造業の新規投資の動きは止まっていますが、M&Aに関しては不動産やエネルギー分野などで進んでいます。
来年1月には5年に1度の共産党大会が行われ、新たな党人事が決まります。次の社会経済開発計画(21年~30年)も策定され、製造業にとってはより進出しやすい環境が整っていくと思われます。まだまだ発展していない分野が多く、産業の高度化や環境問題、エネルギー問題など、日本企業にとってノウハウを活かせるチャンスがたくさんあります。
可能性に溢れ魅力的に見える反面、規制が多く不透明な部分もあります。しっかりと戦略を立てた上で、新型コロナウイルスが収束した後には良い面、悪い面含めて、現地に赴いてポテンシャルをぜひ感じていただければと思います。
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THAIBIZ編集部
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