今年の洪水被害リスク、2011年よりは低い ~クルンシィ・リサーチのリポートより~

今年の洪水被害リスク、2011年よりは低い ~クルンシィ・リサーチのリポートより~

公開日 2024.09.30

タイ北部を中心とした深刻な洪水被害が連日報じられる中で、今後もどこまで被害地域が拡大し、農業を含め経済活動にもどの程度の影響を与えるかに一段と関心が高まっている。アユタヤ銀行の調査会社クルンシィ・リサーチは9月に「Flood 2024~リスクとインパクト」と題するリポートを公表したが、特に興味深いのは日系企業の工場にも甚大な被害を与えた2011年の大洪水との比較で、今回はこの比較分析や年内の洪水被害リスクについての予測などを中心に紹介する。

年初来の降雨量は2011年の大洪水を大幅に下回る

同リポートはまず2024年上半期について、高温乾燥天候で裏作のコメやキャッサバ、サトウキビなどの農産物の減産をもたらしたエルニーニョ現象が最終的にタイを離れたと説明。エルニーニョ現象の結果、一部業界では企業が発注に応じられず供給不足が生じ、価格上昇が経済に波及効果を与えていると指摘。そしてエルニーニョ現象が中立状態に移行、さらにラニーニャ現象に急速に移行する中では、より多くの地域の洪水につながる可能性があると現状を分析している。

その上で、2024年7~12月の降雨量は平年を15~16%上回るとの予想を示した上で、洪水が頻繁に発生する地域では鉄砲水(flash flooding)が発生するリスクがあると警告。ただ、年初来の平均降雨量は1688ミリメートルで、30年平均をわずかに上回る程度であり、大洪水があった2011年の1948ミリ(通常の20%増の水準)を大幅に下回っていると報告している。このため、今年下半期に予想される大量の降雨により洪水リスクが高まるものの、今年上半期の降雨量が強いエルニーニョ現象により平均を17.1%下回る水準だったため土壌は乾燥しており、水分を大量に吸収することは可能だと分析。現在の状況は、年初から土壌水分量が多かった2011年とは大幅に異なるとしている。

タイにおける2011年と2024年の月別工数量の比較
「2011年と2024年の月別降水量の比較」出所:Krungsri Research

コメ、トウモロコシ、キャッサバに被害

一方、2024年のこれまでの洪水の状況について「1~6月には、タイは周辺国のモンスーン(季節風)や低気圧の影響を受け、特に中部、北部で洪水がもたらされた」とし、年初から9月8日までに全国50県で何らかの水準の洪水が発生したが、このうち9月8日時点では40県が平年並みに戻り、洪水状態が続いているのは10県にとどまっていると説明。ただ、8月9日から9月7日までの30日間に140万ライ(1ライ=1600平方メートル)が洪水状態となり、18万戸が影響を受けたとしている。特にチェンライ、スコタイ、ナコンパノム、パヤオ、ピチットの各県が深刻な被害を受け、農産物ではコメ(31万ライ)、トウモロコシ(4280ライ)、キャッサバ(935ライ)にダメージが広がったと報告している。

タイにおける9月8日の大雨の県別での影響
「9月8日時点での県別でみる洪水の影響」出所:Krungsri Research

そして、2024年の洪水リスクは今後も高まり続け、9~10月は南部を除く全地域に影響を与え、11~12月には南部でも洪水リスクが高まるとしている。その原因は、毎年タイを通過するモンスーンと熱帯サイクロンの影響だという。このほかタイ湾の高潮やメコン川の水位の高さにより、タイ湾への放水が遅れ、洪水リスクが高まるなど予測不可能な要因もあるという。

サプライチェーンが逼迫

同リポートは最後に、洪水がタイ経済に与える影響を詳細に分析している。まず、「洪水の影響は干ばつに比べてより多岐に渡る。家畜、住宅、工場や他の構造物、機械、自動車、輸送網などへの被害も含まれるからだ」と説明する。一方で、農産物に対する影響はさまざまで、「もし洪水がゆっくり押し寄せ、急速に引いた場合には一部の作物は被害を受けない可能性がある」一方で、洪水が急速に押し寄せ、水が引くのに時間がかかった場合にはコメやサトウキビ、キャッサバ、野菜などの損失は極めて大きなものになるだろうと分析。さらに、洪水の影響が産業の川下にも波及し、サプライチェーンが逼迫。原料として農産物に依存する産業は供給不足に陥り、価格上昇につながりかねないと警告している。

クルンシィ・リサーチはその上で、洪水による農地への影響やそれに対する経済的な損失を「ベストケース」「ベースケース」「ワーストケース」の3つのモデルに分けて下記のように試算している。

洪水による経済影響の予測
「洪水による経済影響の予測」出所:Krungsri Research

ダムの貯水能力、民間企業の洪水防止対策が寄与

同リポートはまた、洪水が経済に与える被害の水準は、①降雨と水管理 ②被害地域 ③住宅・工場・農地などの経済活動の場所-に依存していると説明する。その上で、「もし洪水が経済的に重要な地域で発生した場合、その影響はより深刻になるだろう」と指摘。例えば、もし工業団地や主要な農業生産地域、重要な輸送ルートだった場合には、サプライチェーン全体、そして経済全般に打撃を与える可能性が高まると警鐘を鳴らした。

一方で、クルンシィ・リサーチは「2024年下半期の洪水は2011年の大洪水ほど深刻ではなく、経済への影響も2011年(世銀推計は1兆4400億バーツの損失)ほどではない」との見通しを示している。それは、2024年の方が降雨量が少なく、ダムなどの貯水能力も増えていることに加え、政府の水管理能力も改善、特に工業団地などの民間企業の洪水防止対策が強化されていることが洪水の影響をより効果的に抑制するだろうと理由を説明した。

THAIBIZ編集部

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