ArayZ No.141 2023年9月発行東南アジアにおける 脱炭素トレンドと脱炭素に向けたアプローチ
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カテゴリー: 会計・法務
公開日 2023.09.09
タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。
本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。
本誌2023年7月号の「外資規制の基本的な考え方」で整理したように、外資企業として実施できる事業の類型の一つ目が、「外資規制の対象ではない事業」です。当たり前のことを言っているように聞こえるかもしれませんが、その判断は実際には難しく、たとえ「規制事業リストに明記されていない事業」であっても、外資規制の対象ではないとは言い切れません。そうした「規制事業リストに明記されていない事業」の大部分についても、商務省は、規制事業である「その他サービス業」に該当すると解釈しているためです。
反対に、リストや条文にも「その他サービス業」に該当しない事業は何か、外資規制の対象ではない事業は何か、明記されていません。従って「外資規制の対象ではない事業」とは具体的に何を指すのか、商務省の解釈に依ることになります。 商務省は、企業等からの照会に対する回答という形で、これまでの解釈事例を多数公開しています。
年月の経過によって解釈が多少変遷することもありますので、なるべく最新の事例を用いて、外資企業が実施可能な事業の範囲を探っていきます。
目次
外資企業A社は、工業団地公社(IEAT)から認可を得て、工業団地内で食品を製造している。 なお製法や特徴は自社のものである
自社の製法や特徴に基づいて食品を製造し、国内外に販売するのであれば、規制事業に該当しない。許可申請の必要なく、事業を行うことができる。ただし、委託者が定める製法や特徴に基づいて食品を製造する場合は、「受託製造サービス」として規制事業「その他サービス業」に該当する。IEATから「受託製造サービス」として認可を得ているのであれば、商務省に「外国人事業証明書(FBC)」を申請しなければならない
外資規制の対象とされず、外資企業であっても無許可で実施できる事業の代表例が「製造」です。自社が「製造」した製品を、タイ国内外に「販売」することまでを含めて、「製造」は外資規制に抵触しないと解釈されています。上記の案件は食品の事例ですが、自動車や電機・電子など他の製造業においても、これまで同様の判断が多数示されています。
2021年6月以降も、定期的に類似の案件は発生していますが、論点が明確な本件を例に紹介します。 日本人が一般に考える「製造」と、商務省が解釈する「製造」は、必ずしも一致しない可能性があることに留意しなければなりません。その1つが、「受託製造サービス」の考え方です。
本件における食品の製造は「製法や特徴」、他の製造業では「デザイン」とされることが通常ですが、あくまで「自社が設定したデザイン等に基づいて製造する」というのが、商務省の認める「製造」です。たとえ製造工程や設備に変わりはなくとも、デザイン等が顧客等から提供されるのであれば、それは「製造」ではなく「受託製造サービス」とされます。すなわち規制事業である「その他サービス業」であって、商務省から許可等を得なければ事業を行うことができません。
自社が行う事業が「製造」なのか、それとも「受託製造サービス」なのかは、完成品メーカーにはあまり影響がないかもしれませんが、部品メーカー等にとってはセンシティブな問題です。納入先の意向を反映せず、自社のみでデザインを完結できるケースは、むしろ例外的でしょう。本件では、A社がタイ工業団地公社(IEAT)工業団地の入居企業であることから、外国人事業証明書(FBC)の申請が求められています(FBCについては、外資企業が実施可能な事業の四つ目の類型として、改めてご紹介します)。IEATまたは投資委員会(BOI)の認可を得ている事業の場合は、その認可内容にあらかじめ「受託製造サービス」まで含めておくことが肝要であり、現実的な解決策となります。
IEATとBOIのいずれも関係しない外資企業の場合は、自社が行う「製造」が、「受託製造サービス」とみなされないよう、デザインが自社のものであることを明確にしておくことが必要です。仮にもし「受託製造サービス」に該当するのであれば、商務省からの許可(外国人事業許可証(FBL))を申請するか、タイ資本企業として実施するか、いずれかを検討することになりますが、どちらもハードルは高まります。「受託製造サービス」は、比較的FBLが取得しやすいとされているものの、BOIやIEATとは異なり、要件さえ満たせば許可が得られるというものでもありません。「受託製造サービス」とみなされないためのビジネスモデルの再設計や、場合によっては資本再編による内資企業化などの検討も必要になります。
左記に紹介した事例において、「受託製造サービス」とみなされるポイントは、自社が設定した「デザイン」等に基づく製造であるか否か(クライアント等から提供されたデザイン等であるか否か)でした。ところが、デザインの問題の他にも、「受託製造サービス」とみなされるケースがあります。
外資企業B社は、投資委員会(BOI)と工業団地公社(IEAT)の双方から、宝飾品製造の認可を得ている。海外の顧客(B社のグループ会社と、グループ外の会社の双方)がB社に原材料を提供し、B社が加工したのちに、顧客へ返還する
本事業は「受託製造サービス」に該当する。BOIから認可を得ているのであれば、商務省に「外国人事業証明書(FBC)」を申請しなければならない。もしIEATの権利に基づき事業を行うのであれば、IEATの許可書の内容を「受託製造サービス」に修正した上で、商務省に「外国人事業証明書(FBC)」を申請しなければならない
本件では、デザインについての言及はありませんが、「製造」ではなく「受託製造サービス」に該当すると解釈されています。これは、自社で調達した原材料を使用するのではなく、原材料が顧客から提供され、B社が加工のみを行う点が問題視されているためです。つまりタイにおける「製造」であるためには、製造工程の存在だけでは不十分であり、自社デザインであることと、更には原材料も自社で調達しなければならないことを意味しています。 この要件も、部品メーカー等にとっては非常に微妙な問題です。日本国内でも、顧客である完成品メーカー等から半製品が供給され、そこに加工を施して返送するようなケースは多く存在しますが、同様のビジネスモデルをタイで行なおうとすると、外資規制に抵触することになります。
もっとも、そうした製造関連事業の多くは投資委員会(BOI)の対象となっていますので、BOIから取得する認可に「受託製造サービス」まで含めることで、解決できる問題でもあります。ところが、本件のように工業団地公社(IEAT)やBOIから取得している事業認可の内容が、外資規制について十分に考慮されておらず、「受託製造」までカバーされていない場合があります。また、IEATやBOIから認可を受けたことで安心してしまい、外国人事業証明書(FBC)の取得が漏れているケースもあります。外資企業にとっては、土地取得や税制優遇のみならず、外資規制の観点からもIEATやBOIの認可内容は非常に重要なものですので、内容と手続きに漏れがないかきちんと確認しておくことが必要です。
ここまでの2つの事例とは反対に、受託する側ではなく委託する側、すなわち製造を他社に外注するケースではどのように考えるべきでしょうか。製造工程の一部ないし大部分を協力会社に委託しているようなケースや、受注変動などへの対処のために一時的に外注するようなケースは、製造業において日常的に見られる光景かと思います。
次の事例では、これまでタイ資本企業として、こうした「委託」(及び「受託」の双方)を行なっていたC社が、外資化に伴い留意すべき点を示しています。結論として、委託製造は「製造」ではなく、外資規制に抵触する「小売」または「卸売」に該当すると判断されています(「小売」と「卸売」については、外資企業が実施可能な事業の二つ目の類型として、改めてご紹介します)。
タイ資本企業C社は、外資企業にステータスを変更する計画である。C社は、投資委員会(BOI)の認可を得て、顧客の求めるデザインと品質に基づき、自動車部品を製造している。またC社は、自社が自ら製造を行なっている他、一部の製品については他社に製造を外注している。
外注先はC社から原材料を購入し、製品を納品する際に、C社に対して製品代金として請求する
顧客の求めるデザインと品質に基づき、自動車部品を製造することは、「受託製造サービス」に該当する。同事業でBOI認可を得ている外資企業は、商務省に「外国人事業証明書(FBC)」を申請しなければならない。また、顧客への販売のために他社に製造を委託すること、及び外注先に原材料を販売することは、「小売」または「卸売」に該当する。
従って外資企業が行うためには、商務省から「外国人事業許可証許可(FBL)」を取得するか、事業ごとに1億バーツの払込済み資本金があれば許可なく実施できる。ここには、外国人事業法および他の法律が定める最低資本金を含まない
ポイントの一点目は、委託する比率や分量、期間等には一切の言及がないことです。例え少量あるいは短期間であっても、他社に製造を委託することは「製造」事業から外れることを意味すると解されます。緊急の場合に一時的に少量を外注するようなケースであっても、「外資規制上は容認されていない」、と解釈することになりそうです。
ポイントの二点目は、「受託製造サービス」はBOI等の認可によって認められる余地があるのに対して、「委託製造」にはそうした余地はあまり想定されていないと解釈される点です。本件でも、C社はBOI認可を得ており、仮にタイ資本企業から外資企業にステータス変更されたとしても、BOIの認可内容によっては外資企業への移行後も「受託製造サービス」の継続が認められそうです。これに対して「委託製造」についてはBOIの言及はありません。「製造」の延長線上にあるとは言えそうな「受託製造サービス」に比べても、「委託製造」は製造業的な要素が乏しいと認識されているものと考えられます。
ポイントの三点目で、最大の論点は、「委託製造」は「製造」でも「サービス」でもなく、「小売」または「卸売」とみなされる点です。詳しくは別稿でご説明しますが、「サービス」と異なり、「小売」「卸売」は、資本金を大きくすることで、外資企業であっても無許可で実施できるとの例外が設けられています。単純に資本金1億バーツあれば良いというものではない点にも注意が必要ですが、企業規模が大きな製造業にとっては、増資がむしろ現実的かつ容易な選択肢となるケースも多く見られます。
「製造」の最後に、製造に付随する各種の事業についてご紹介します。例えば「販売」は、タイの外資規制上、タイ国内向けの「小売」と「卸売」、及び国外向けの「輸出」に分類されます。このうち次回ご紹介する「輸出」は「製造」と同様、外資規制の対象外とされる一方で、「小売」と「卸売」は外資規制の対象事業です。
しかし自社が「製造」した製品については、タイ国内外に「販売」することまでを含めて、外資規制に抵触しない「製造」の一部とみなされることは、上述した通りです。 それ以外の「製造に付随する」事業については、どのように考えるべきでしょうか。
外資企業D社は、投資委員会(BOI)の認可を得て冷蔵庫を製造している。以下は製造とみなされるか
・ 顧客が指定する場所へ商品を配送し、距離に応じた 配送料を徴収する
・ 商品を据付し、商品代金に据付料を含めて徴収する
顧客が指定する場所へ商品を配送し、距離に応じた配送料を徴収することは、外資規制を受ける「輸送業」に該当する。商品を据付し、商品代金に据付料を含めて徴収することは、外資規制を受ける「その他サービス業」に該当する
製造に付随する事業は、判断事例が多くないため(販売を除く)、まだ基準は明確とは言えませんが、本件では「配送」と「据付」について外資規制に抵触すると判断し、その理由を「料金を徴収していること」に置いているように見受けられます。また、製造ではありませんが、「卸売」に付随する「据付」について、無償であることから「卸売」の一部とみなし、外資規制に抵触しない、と判断した事例もあります(2017年2月の案件No.2)。
外資企業E社は、クリーンルームに使用する断熱材を製造している。保証期間内に、無償で修理サービスを提供する予定である
保証期間内に、無償で修理サービスを提供することは、取引とはみなさず、許可なく実施することができる
本件は少し古い事例ですが、「修理」について外資規制に抵触しない、と判断したケースです。こちらは「無償であることから外資規制に抵触しない、そもそも取引ですらない」、と判断しているように見受けられます。これらの事例からは、やはり有償であるか無償であるかが、外資企業として無許可で実施できるか否かの判断の大きなポイントになるように思われます。
ただし商務省は、「取引であるか否かの判断において、利益や売上があることは要素の1つに過ぎず、事業の全体から検討する」とも繰り返し述べています(2018年6月の案件No.1など)。有償であれば実施不可(=許可が必要)と概ね推定されますが、無償の場合であっても、必ずしも無許可で実施可能とは思い込まず、慎重に判断することが必要と考えられます。
今回は、外資企業が実施できる事業の一つ目の類型である「外資規制の対象ではない事業」について、もっとも重要な論点である「製造」についてご紹介しました。
次回は同じ類型の残りの事業、すなわち「輸出」と「投資」についてご説明します。
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Head of Consulting Division
吉田 崇
MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
Managing Director
池上 一希
MU Research and Consulting(Thailand)Co., Ltd.
Tel:+66(0)92-247-2436
E-mail:[email protected](池上)
【事業概要】 タイおよび周辺諸国におけるコンサルティング、リサーチ事業等
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THAIBIZ編集部
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