カテゴリー: 自動車・製造業, ASEAN・中国・インド
連載: リブ・コンサルティングの経営戦略
公開日 2023.03.28 Sponsered
成果主義、現場主義を重視した経営コンサルティング会社リブ・コンサルティングのタイ現地法人LiB Consulting(Thailand)は在タイ日系企業だけでなく、タイ企業に対しても製造業などでの経営戦略立案や新規事業開発などのソリューションを提供している。TJRIニュースレターでは昨年11月1日号でタイの農業ビジネスの最新トレンドに関するリポートの担当者インタビューを掲載した。今回は、同社が昨年11月に電気自動車(EV)を中心にタイの自動車産業の将来予測をまとめたリポート「Future Directions of Thailand : Automotive Manufacturing Industry insights from global and Japan trends」を担当したマネジャーのラリター・ハリタイパン(ミン)氏の話を交えて同リポートを紹介する。
同リポートはまずExecutive summaryで、「タイは東南アジア諸国連合(ASEAN)域内での自動車生産のリーダーであり、日本企業への依存度が高い」「タイは電気自動車(EV)によるDisruption(創造的破壊)のチャレンジに直面している。新たなインフラが必要になっており、日本の自動車メーカーに対し新たなメーカーが挑戦するリスクが高まっている」「現在のビジネスを継続することに加え、自動車メーカーは次のような3つの方向のうちの最低でも1つについて計画を立てて行動を始めるべきだ。①ASEANの内燃機関(ICE)車の主要拠点であり続ける ②ASEANのEVを主導する拠点になる ③主要ビジネスからのリスクをヘッジするための新規事業に着手する」と問題提起。その上で、「タイの自動車産業の現状」「自動車産業の変革=世界・日本・タイ」「自動車産業の将来の方向性」についてそれぞれ詳述している。今回はタイの自動車産業の変革と将来の方向性についてのパートを中心に紹介する。
タイの自動車市場の現状分析では、「タイの自動車生産は新型コロナウイルス流行前から減速していた。ASEANでは最大の生産台数を誇るが、インドネシアが急速にキャッチアップしつつあり、コロナ前の2014~2019年の年平均伸び率はタイの4.7倍だ」と概観。また、タイは自動車産業のサプライチェーンでは、原材料供給、部品供給、部品の高度化、組み立て、輸出を含む販売・サービスの機能を持っているが、研究・開発(R&D)と設計・デザイン機能は他の国に依存していると説明した。
また、グローバルな自動車産業の変革では、大半の自動車メーカーがEV事業を拡大する計画を持っているとした上で、「バスを含むヘビーデューティー車のモデルの登場が増えており、完全EVの将来を示唆している」と指摘。その上で、「EVは今後20年以内にICEに追いつき、追い越すだろう。今やタイや日本を含む多くの国がICEの販売禁止を提案している」と説明した。
そしてタイの自動車産業の変革についてはまず、競争力とタイへの外国直接投資(FDI)判断に影響を与える決定要因として「労働コスト」「品質」「生産性」「インフラ」「研究開発(R&D)投資」、そして「政府の政策」を挙げた上で、労働コストについては、ベトナムやインドネシアに比べ高い一方で、相対的な1人当たりの国内総生産(GDP)の高さが自動車購入能力の向上につながってきたと指摘。また、品質と生産性はASEAN諸国の中で最も高いものの、自動化の遅れが先進国に比べた生産性の低さにつながっているとの見方を示した。
EVについては、タイはEV生産への投資は行われているものの、充電ステーションやR&D、バッテリーなどが不足していると指摘。また、タイ政府はEV支援策を導入しているが、海外との比較ではEVの輸入関税ゼロや付加価値税25%引き下げ、駐車料金の減額などさまざまな優遇策のあるノルウェーが世界のEV先進国となっていると紹介している。その上で、タイがEVシフトという課題を克服する上では、ASEANトップの品質とサプライチェーンが強みとなる一方で、政府支援の遅れ、R&D投資不足、アジアでの相対的な賃金の高さ、充電ステーション整備の遅れ―などが弱みとなっていると改めて強調。「タイはEVへの対応が遅れており、自動車産業の競争力は低下していくだろう」と結論付けている。
こうしたタイの自動車産業の現状課題を整理した上で、同リポートは将来に向けた主な方向性について、「産業の再構築」「EVシフト」「新規事業の着手」の3つを提案する。具体的にはまず、アジアでは生産台数5位のタイが、「内燃機関(ICE)車のASEANの生産拠点となるためには、コスト面でインドネシアに勝つ必要がある」とし、ベストシナリオとして、「ASEANでのICE生産をすべてタイに集約する」「ICEとEV両方に使える部品供給の主要拠点になる」ことを挙げた。そしてEVシフトでは、EV生産をリードする中国がベンチマークとなりえるとし、タイは、コストと技術の両方でEV生産のASEANの生産拠点になることを目指す必要があると訴えた。
そして新規事業の着手では、「自動車メーカーは新規産業で既存の生産技術を活用できるほか、自社のコア・コンピテンスを活かして自動車関連産業で新規事業を開発できる」と指摘。また、自動車関連サービスでは、「ライドシェアリング」「カーシェアリング」「フレキシブル・リーシング」「Intermodal(複合一貫輸送)」「充電」などを挙げた。
その上で、将来への3つの主要方向性における具体的な行動として、産業の再構築では「自動車メーカーの統合やICEにもEVにも利用できる部品の生産」、EVシフトでは「バッテリー生産の誘致などの外国直接投資」、新規事業の着手では、「コア・コンピテンスの明確化と新規事業への活用」が必要になると提言している。
◆担当コンサルタント
Dr. Lalita Haritaipan (Min)
LiB Consulting (Thailand) Co., Ltd. マネージャー
文部科学省の奨学金を受け日本に留学、東京工業大学工学部卒業、同大学工学院機械系修士・博士課程を修了。日本機械学会畠山賞を受賞。リブ・コンサルティング・タイでは、主に製造業のスマートファクトリーやコストダウン支援をリードし、モビリティ業界の将来シナリオ・新規事業開発を担当している。講演履歴:EVAT(タイ電気自動車協会)、TAPMA (タイ自動車部品協会)、FTI(タイ工業連盟)
TJRI編集部
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