カテゴリー: 協創・進出, ASEAN・中国・インド, 組織・人事
連載: リブ・コンサルティングの経営戦略
公開日 2023.04.25 Sponsered
「グローバル経営感覚のズレ、意思決定スピードの遅れ、経済成長やデジタル実装の遅れ・・・アジアにおける日本企業のプレゼンスは格段に低下しており、このままでは今後もさらに低下するのではないか?」
タイやアジアで経営に関わっている方なら、この危機感を大なり小なり自覚してる方も多いのではないでしょうか。対策を取っているのに成果が上がらない方は、日本企業特有の「落とし穴」にはまっている可能性があります。
アジア各国で180社以上、のべ270件以上の経営コンサルティングを手掛けてきたリブ・コンサルティング(タイランド)のマネージング・ディレクターを務める香月義嗣氏は、数多くの企業のコンサルティングプロジェクトに携わる中で、日系企業が解決すべき個々の課題の背景には、共通する四つの「落とし穴」があると言います。
今回は、同氏の著書「アジア進出企業の経営 成功のメカニズム」にもとづいて「日本企業がアジアで成功確率を高めるためのヒント」についてインタビューしました。
目次
香月氏:本書を出版するにあたり、2つの思いがありました。
1つ目は、「先に知っていれば回避できた失敗」を減らしたいという思いです。これまでアジア各国で日本企業の経営コンサルティングに携わる中で、アジアに進出してる日本企業には共通した課題があることに気づきました。本書ではそれらの共通課題を「四つの落とし穴」と表現していますが、課題を持つ企業がこれらの落とし穴をあらかじめ知っていれば、“負け戦”を避けるだけでなく、グローバル経営の成功確率を高められるのではと思ったのです。
2つ目は、「アジアにおける日本企業のプレゼンス」を高めることに貢献したいという思いです。海外で働く多くの方が実感していると思いますが、アジアでの日本や日本企業のプレゼンスは年々低下しており、プレゼンス向上に何か一つでも貢献したいという思いがあります。かつてはモノそのものの品質や商品力の高さが評価されていたため、日本企業は入念なマーケティングや経営戦略を練らなくても、海外市場で売上を拡大させ、成長してきました。
しかし、現在は、中国や韓国など他国企業の製品の品質が向上し、品質だけでは勝てないうえに、海外企業の積極的なマーケティング戦略に押され、日本企業は以前のような影響力が薄れつつあります。
こうした背景から、私たちがこれまでの手掛けてきた多くの事例をもとに具体的なアドバイスを提供し、失敗しないためのヒントを与えることを目的としています。
香月氏:日系企業に共通する四つの落とし穴は、以下の四つに分類されます。
①危機感度のズレ 〜 駐在員とローカル社員の認知格差
低成長時代のマネジメント手法に慣れた“危機管理意識の高い日本人経営者“と高い成長率の中で”売上向上に注力するローカルの経営幹部“の間には、危機感度においてさまざまなギャップが生まれています。それにもかかわらず、こうしたギャップをお互いが認識できていない、または認識しているにもかかわらず、そのギャップを埋める努力を怠っているという落とし穴です。その結果、日本人経営者とローカル社員との間で溝を深めてしまうケースがみられます。
②労働力流動化の壁 〜 無視できない、社員の離職リスク
日本人経営者が想定している以上に、社員の離職リスクが高く、そのリスクを無視して経営すると、手痛い失敗を犯してしまうという落とし穴です。それに加え、日系企業で働くことの魅力が低下していることも高度人材の流動性を高める原因となっています。日系企業の魅力が低下している理由には、年収の低さや昇進の遅さもあります。(図1参照)
③全体最適へのハードル 〜 生産性に影を落とす”個”の優先
現地社員に対して全体最適の必要性を訴求しにくい。東南アジアでは、長期思考で物事を考えるより、短期思考の強い人が多く、一般的な営業組織では、昇給やインセンティブに直結する目先の成果を重視するため、全体最適につながる“ノウハウや活動の共有”や“営業データや顧客データの集約”が進みにくい傾向にあります。
④日本スタイルの押し付け 〜 バックグラウンドが生むギャップ
現地社員にも日本流の働き方を要求してしまい、ローカル社員からの理解を得られない。また、駐在員が3〜5年で入れ替わり、その度に方針も変更になることがあるため、ローカル社員の実行へのコミットメントが高まらないことがあります。
ただし、注意いただきたいのは、これらの四つの落とし穴は、特定の個人の問題ではなく、海外市場で日本人駐在員が経営を行う日系企業の構造的な問題からきています。そのため、無用な犯人捜しなどをするのではなく、落とし穴の認知と回避策 / 防御策の実行に努めることを推奨しています。
香月氏:落とし穴にはまってしまうと抜け出すのが大変ですが、それらを事前に予見し適切に対処すれば避けることができます。11個の回避策 / 防御策を本書では「成功のメカニズム」として紹介しています。
これら11個の防御策は、私が担当したコンサルティングプロジェクトで実際に成果がでた施策であり、一定の効果を保証できるものばかりなので自信を持ってお勧めできます。
四つの落とし穴に対して、それぞれの防御策が「どこの落とし穴に効果を期待できるか」については図3の通りです。また、各防御策は、イニシアティブを発揮すべき部門がわかるように、「経営」「営業」「製造」「人事」と機能別に分類しています。
香月氏:11個の防御策の一つ一つの詳細については、ここでは割愛しますが、防御策の基本的な考え方について少し説明します。
私たちリブ・コンサルティングでは、経営を考える上で、「環境」「戦略」「組織」「人材」の一貫性を重要視しています。実際に経営課題を抱えている企業が、環境の変化に対して、戦略や組織を適応できていないケースをよく見かけます。
環境から人材に至る一貫性を保つためには、起点となる環境の変化を正しく理解し、そこから逆算して今何をする必要があるのか把握しなければ、戦略や組織、人材を環境に合わせることはできません。
「経営」の課題で言うと、駐在員経営者とローカル幹部が思い描いている将来の市場環境において、時間軸と範囲軸がズレていることがあります。
例えば、駐在員経営者は5年後の市場動向予測から自社の在り方を考えて戦略を語ろうとしているのに、ローカル幹部は1年後の主力商品の販売予測から逆算して戦略を考えている場合、両者の間で課題を共有することも、同じ土俵で戦略を検討することもできません。
こうしたケースにおいて、時間軸と範囲軸をそろえて将来の企業像や事業のあるべき姿を検討するためには、「シナリオプランニング」が有効であり、変化に合わせて戦略を再構築し、幹部間で共通認識を持つために「ミッション・ビジジョンの見直し」や「経営幹部合宿」が効果的な打ち手になることがあります。
一方で、「営業」「製造」「人事」の施策においては、「仕組みづくり」と「見える化」を基盤に置いた施策を紹介しています。人の意志や行動、性格といったものは簡単に変えられません。その前提に立って働きやすさや成果の出やすい環境を整えていくには、「仕組み化」した方が効果が出やすいからです。
3〜5年で駐在員が入れ替わったとしても社内に仕組みを作っていれば、人が変わることによるデメリットを最小限に抑えることができます。見える化にこだわるのは、「見えないものは改善できない」からです。
また、日本人とローカル社員というギャップがある両者で同じ土俵に立って議論するには、見える化した上で、数値化しなければ議論をスタートできません。このような視点を具体的な施策に落とし込んだものが、11の防御策です。
香月氏:本書で紹介している施策は、日本国内で働く方々にとっては、すでに実行され、成果が出た経験もあるかもしれません。しかし、海外経営では日本と同水準で実行することが難しいという現実もあります。
本書を参考に、まずは経営課題に対して前向きに向き合うことからはじめ、変化の激しいアジア市場で戦うために、自社にあった取り組みを実行し、改革の成功確率を高めて頂ければ幸いです。こうした日系企業が一つでも増えていくことが、アジアにおける日本企業のプレゼンスが高まることにつながっていくと信じています。
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ありがとうございました。「アジア進出企業の経営 成功のメカニズム」では、今回掲載しきれなかった四つの落とし穴とそれを回避するための11の防御策を多くの事例を交えながらわかりやすく解説されており、落とし穴から這い上がった企業の脱却ストーリーも紹介しています。本書を読んで日系企業の経営に携わる方々が成功する手助けになることを願っています。
5月25日(木)に在タイ日系企業の経営「メカニズムを探るシリーズ」ウェビナーを開催します。第1回目となる今回はスペシャルゲストにパナソニック・ソリューションズ・タイランドの元会長の松本亙氏をお招きし、「海外事業を成功に導く経営のポイントと駐在員の役割とは?」についてお話いただきます。詳細&お申込みは、イベントページよりご確認ください。
TJRI編集部
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