カテゴリー: ビジネス・経済, バイオ・BCG・農業, DX・AI
連載: リブ・コンサルティングの経営戦略
公開日 2022.11.01
成果主義、現場主義を重視した経営コンサルティング会社リブ・コンサルティングのタイ現地法人LiB Consulting(Thailand)は在タイ日系企業だけでなく、タイ企業に対しても製造業などでの経営戦略立案や新規事業開発などのソリューションを提供している。そしてタイ政府がバイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルを推進する中で「新規事業を模索するさまざまな産業の間で農業周辺分野に新規参入チャンスを感じる企業が増えている」(香月義嗣社長)とし、農業分野のコンサルティングサービスも強化している。同社のタイ農業ビジネスの最新トレンドに関するリポート「Sharing agribusiness trend」に基づき、担当マネジャーのダーリン・ランジャコーンシリパン氏に話を聞いた。
目次
ダーリン氏:農家の人口が多いにもかかわらず、国内総生産(GDP)への貢献度が小さい、つまり農業生産性が低いことだ。農家の生活を向上させるのには大きく2つの方法がある。1つは日本や韓国のように農業分野からより生産性が高く付加価値の高い非農業分野、つまり工業分野やサービス分野に人をシフトさせることだ。ただ、他の産業が必ずしも今後も大きく伸びるとは限らない。
もう1つの方法は農産業自体を高付加価値化させることだ。これには3つの方向性がある。1つは耕作面積を拡大することだが、これには灌漑が十分な農地が限られているという問題がある。タイでは過去10年間、耕作面積は増えていない。
例えばイサーン(東北部)では水がないのに農業をしており、生産性が低く損失となっている。面積の拡大は問題解決にはならない。
2つ目の方向性は生産性向上だ。2019年時点の農業生産性はタイは1人当たり3.2ドルなのに対し、米国は100.1ドルと約30倍で、日本は17.8ドルと5倍以上だ。
また、タイの農業生産性は向上余地はあるものの、長期的には農業生産性の改善には限界がある。
3つ目の方向性は、農業サプライチェーンでの高付加価値化だ。その方法には、①プレミアム分野を強化するための品質と販売の向上 ②農業加工製品の高付加価値化 ③研究開発やハイテクなどによる農業サプライチェーンでの新しい価値創造-がある。
ダーリン氏:タイ農業は「アグリ1.0」だが、日本は「アグリ2.0」から「アグリ3.0」に移行しようとしている段階だ。タイの農産業は日本をベンチマークにしている。農地面積が5~10ライ(1ライ=1600平方メートル)と米国とは比較にならないほど小さく、米国はモデルにならない。コンテキストは日本と近い。日本は面積が小さいが、生産性が高く、かつ品種改良に力を入れて差別化しようとしている。
ダーリン氏:タイでは農家にバーゲニングパワーがない。Eコマースなどのような出口を作って自分で売れるようにするしかない。ミドルマン(仲介業者)に言われた価格で売らなくてもすむようにすべきだ。日本のような直売所、産直市場もない。農家が自分で作ったフルーツなどをブランド化して売るような販売チャンネルがなく、あるのはブランディングされていない「朝市」のようなものだけで、所得は低いままだ。
ダーリン氏:過去5年ぐらい生産性向上に取り組むスタートアップ企業が増えている。タイ政府はスマートファーマーのリストを作り、連携をサポートするなどスタートアップ企業を支援している。農業生産性向上に取り組むスタートアップ企業を、①先端バイオテクノロジー ②ロボティクスやオートメーション ③革新的農業モデル ④農業管理ソフトウエアやIoT(モノのインターネット)-の4つに分類している。この中でITやビッグデータ利用、プレシジョン(精密)農業、ロジスティクス、トレーサビリティー、Eコマース、農業インプットのマーケットプレイス、ドローンなどの機器分野を「ホワイトスペース(新しいビジネスモデルでなければ成功しえない事業領域)」と感じて参入しつつある。
ただ、こうしたスタートアップ企業ではまだ自然淘汰が起こっていない。技術で農業を発展させたいと思っているが、半分ぐらいはビジネスモデルが成り立っていない。大規模な農家でないとIoTシステムに投資しようということにはならない。
ダーリン氏:異業種は農業自体ではもうからず、面白みを感じていないだろう。サプライチェーンにビジネスチャンスがあり、資金やテクノロジー、ナレッジのサポートなどEnabler(目的達成を可能にさせる要因)に関心を持っている。例えば農業ファイナンス・保険、農業アカウンティング、そしてIT、ビッグデータなどの農業テクノロジーだ。その次のステージが農業コンサルティングや、スマート農家が話し会う場である「アグリコミュニティー」で、今ブームになっている。
また、農業インプット、農業機器でどんなチャンスがあるか。各農家がそれぞれ道具を買うよりシェアリングした方が良い。地主が使っていない農地のシェアリングもホワイトスペースだ。農業自体の付加価値を高めるための種子の品種改良・肥料開発などでのR&Dも必要だ。
このほかロジスティクス、Grading(選別・仕分け・ブランド化)、加工にもチャンスがある。パッケージングではバイオプラスチックなどもブームになっている。さらに生産物を売るマーケットプレイスを作ろうとしているが、まだ小規模だ。そして売れ残った農産物や農業残渣をどう活用していくか。バイオ燃料、あるいはリサイクル原料として使えるか、オーガニック肥料にならないかなど今、いろいろ模索している。
ダーリン氏:食品、エネルギー、衣料品、娯楽、医療・化粧品、住宅関連だ。そして農業周辺産業では畜産、漁業、林業、土地開発がある。例えば食品分野では、人間が直接食料として摂取する品目と動物飼料、肥料、植物由来タンパク質の分野がある。エネルギー分野ではバイオマス、木質バイオマス、衣料品分野ではバイオポリエステルなど、娯楽分野では農業ツーリズム、医療・化粧品分野では植物由来成分、ハーブ、バイオ素材などがある。
ダーリン氏:農家の所得を向上させるなどの具体的な貢献価値がないと、農業ビジネスは持続的にならない。農家の課題解決をしながら事業を推進していく必要がある。
新しいトレンドとしては、付加価値を高めて、農業GDPを向上させていく動きがある。具体的には、農業残渣を活用したバイオプラスチック市場の成長が期待されており、オランダの食品・生化学大手コービオンの事業拡大が注目されている。また、ハーブ自体を輸出するより、エキスを抽出して付加価値を高めて輸出する動きもある。
タイ政府は機能性食品の開発政策を打ち出しており、タイの大手企業も機能性食品やバイオテクノロジーを使って付加価値を高める方向に向かっている。例えばタイ・ユニオン(TU)は魚の缶詰の産業残渣を活用し、コラーゲンやサプリメントを製造している。タイ政府は食品関連産業の振興では「世界のキッチン」をアピールしており、より付加価値を高める方向を目指している。
また、農産業分野のメガトレンドでは農業そのもの以外でのチャンスも広がっている。具体的にはバイオエネルギー(航空・自動車向けバイオ燃料)、再生可能材料(植物ベースの繊維)、ヘルスケア(医薬品製造でのパーム油利用など)、食糧危機対策(ユーグレナ、昆虫食など)などだ。
TJRI編集部
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