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公開日 2025.08.28
8月5日、For Delight (Thailand) Co., Ltd.(以下、FD)が主催する「GX人材育成研修(日本政府の補助金対象)」の一環として、同研修を昨年受講したSriborisuth Forging Technology Co., Ltd.(以下、シーボリスット)の工場見学会が実施された。日系企業やタイ企業の現場担当者やマネージャーらが参加した。今回はGX研修を活用して省エネ・CO2削減を実現したタイ製造業の事例とその成果を支えた研修内容をレポートする。

目次
シーボリスットは2008年に創業した鍛造メーカーで、自動車部品を中心に製造している。日系をはじめとする自動車メーカーや自動車部品メーカーを主要顧客とし、タイの自動車産業の集積地であるチョンブリー県に工場を構えている。

同社のマネージング・ディレクターを務めるチャルムラット・シンボリスット氏は、冒頭挨拶で「鍛造による自動車部品の製造は非常に多くのエネルギーを消費する。近年の脱炭素化ニーズの高まりを受け、GXの重要性を感じて昨年GX研修に参加した。最大の懸念は品質への影響であったが、品質に影響がないことを確認できたため、今後さらに改善活動を推進していく」と脱炭素化へ向けた取り組みへの意欲を見せた。
研修受講後、同社はまずIoTエネルギー診断システムを導入し、温室効果ガス(GHG)排出量の可視化に着手した。測定の結果、スコープ1(自社による直接排出)よりもスコープ2(電力など外部からの購入エネルギーによる間接排出)の方が圧倒的に高いことが判明した。なお、現在はスコープ3(サプライチェーン全体で発生する間接排出)の測定も進めている。
エネルギー使用量の内訳は、加熱工程が65%、プレス・コンベアが15%、コンプレッサーが10%を占めており、改善の重点分野が明確になった。同社の2025年1〜7月までの主な省エネの取り組みと、2025年の年間見込み成果は以下の通りである。
1. コンプレッサーのエアー漏れの修繕:コンプレッサーのエアー漏れ検査で61ヵ所の漏れを特定し、7月末までに38ヵ所を修繕した。これにより年間約7万6,000kWhの省エネ(約31万9,000バーツ相当)と、約38トンのCO2排出削減を見込む。
2. 高効率機器への交換による空気流量の最適化:エアーノズルの交換やエアーブローバルブなどの機器の設置により、空気流量を最大60%削減。これにより年間約1万3,000kWhの省エネ(約5万5,000バーツ相当)と、約27トンのCO2排出削減を見込む。
3. ブロワー使用台数の削減:冷却コンベヤーのブロワーを1ラインあたり4台から2台に削減。冷却効果を維持しつつエネルギー使用量を半分に削減。これにより年間約2万1,000 kWhの省エネ(約8万8,000バーツ相当)を見込む。
4. 加熱炉のコイル修繕:300kWと500kWの加熱炉のエネルギー使用量を比較した結果、500kW炉の方が効率的であることが判明。300kW炉のコイルを適正な長さに調整した。これにより年間約5万8,000kWhの省エネ(約24万バーツ相当)と、約29トンのCO2排出を削減を見込む。
これらの取り組みにより、同社は2025年末までに合計約16万8,000kWhの省エネ(約70万バーツ相当)と、約105トンのCO2排出量削減を見込んでいる。2025年末までの昨年比3%のCO2削減目標に対し、現在2.3%の削減が達成見込みとなっており、残る目標達成に向けて未対応の修繕作業を進めている。
続いて、同研修を主催するFDの取締役・藤井敬之氏が登壇し、GX研修の概要を説明した。同氏は研修のポイントとして、「日本で実績のあるプログラムやアプリを使い短期間で効率的に学べること」と「オンサイトでの実践研修により自ら分析手法や改善案を学び、活動を牽引するリーダーを育成できること」の2点を挙げた。昨年の省エネ研修の成果として、最大で年間672万バーツのコスト削減を達成した企業もあったという。

同研修の省エネ講師を務めるAct to Zero Institution (Thailand) Co., Ltd.社長の石本義明氏は、「トヨタの自主研方式を採用し、参加者が自ら改善に取り組むスタイルを重視している」と説明した上で、「昨年の研修では、受講者が自社のアクションプランを作成し、経営陣に提案して予算を確保した事例もあった」と紹介した。
講演後、改善を実行したシーボリスットの工場を視察した。参加者からは、「改善の新しいアイデアが得られた」「役に立つ情報がたくさん聞けた」「ぜひ社内のメンバーを研修に参加させたい」など、GXの取り組みに向けた前向きな声が寄せられた。

見学会の最後に、チャルムラット氏は「空気の漏れは目に見えないため、検査をしたことがない工場はぜひ検査をしてほしい。空気が漏れやすいポイントが見つかれば対策ができ、その結果、省エネやコスト削減にもつながる」と参加者にアドバイスした。
またFDの藤井氏も「まずは省エネ活動でキャッシュを蓄え、段階的に脱炭素化を進めていただきたい。本研修では短期的にアウトプットを出しつつ、中長期のアクションプランを立て、確実なGXの推進を目指す」と強調し、受講参加を呼びかけた。
脱炭素化と生産性向上の両立を目指す中小企業にとって、現場で取り組める実践的なスキルと持続的に活動を推進できるリーダーを育てることがGXの第一歩となる。
日アセアン経済産業協力委員会(AMEICC)事務局と一般財団法人海外産業人材育成協会(AOTS)が実施する「ASEANにおけるGX・DX人材育成支援事業」の一環として提供される研修プログラム。本プログラムでは、現地企業における脱炭素化・省エネの実践力を高めるため、現場での改善を重視したオンサイト型研修を実施。すぐに始められる低コストな改善手法を学び、GXを推進できる人材の育成を目指す。
期間:(第1期)2025年8月29日〜2025年11月30日 ※受付終了
(第2期)2025年10月8日〜2026年1月15日(合計7.5日間)※申し込み受付中
場所:(第1期)泰日経済技術振興協会(TPA)※バンコク市内
(第2期)Thai-German Institute(TGI)※アマタシティ・チョンブリー
言語:日本語 / タイ語(逐次通訳)
費用:30,000バーツ ※補助金15,000バーツ
※補助金対象:日系企業もしくはそのサプライヤー企業に所属する社員、日系企業の内定者及びインターン生
研修の詳細はこちら
本研修プログラムの背景にある「現地完結型の人材育成」の重要性について、前AMEICC事務局長兼AOTSバンコク事務所長の藤岡亮介氏が解説。グローバル市場で日系製造業が生き残るためのヒントが詰まった動画。こちらもあわせてご覧ください。

THAIBIZ編集部
岡部真由美

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