THAIBIZ No.155 2024年11月発行タイの明日を変える!イノベーター大特集
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カテゴリー: 特集, スタートアップ, 食品・小売・サービス
公開日 2024.11.11
目次
グローバルで持続可能な社会実現の必要性が叫ばれているにも関わらず、人口増加や生活水準の向上に伴い、世界のプラスチック使用量は2060年にかけて3倍に、紙の使用量もおよそ2倍になるとの統計結果があるという。株式会社TBM(以下、「TBM」)が開発した石灰石を原料とする環境配慮型素材「LIMEX」は、2023年8月、大手スーパーマーケットグループ「Big C」の買い物かごに採用された。同社のCSOである山口太一氏は、「マーケットの大きさやサステナブル意識の高さから、タイでの普及にさらに注力したい」と語る。
株式会社TBM
Chief Strategy Officer(CSO)常務執行役員
LIMEX事業本部 本部長
山口 太一 氏
国際NPOのグローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)は、地球が生み出す1年分の資源を人類が使い切ってしまう日を「アースオーバーシュートデー」と呼び、毎年算出を行っている。GFNによれば、2020年は「8月22日」、2021年は「7月30日」、2022年は「7月28日」と、年々早まっている。
これだけ持続可能な社会の実現が求められ、企業単位、政府単位でサステナブルな取り組みに注力しているにも関わらず、地球の資源が枯渇する日は刻一刻と近づいているのだ。山口氏はこの状況について、「地球に負荷がかかり続けている今、未来の資源を先食いしている状況であり、持続可能な状態とはほど遠い」と説明する。同氏によれば、特に新興国では人口の増加や生活水準の増加に伴い、今後さらに資源の需要が高まっていく見込みだ(図表1)。
深刻な資源問題に着目し、石油を原料とするプラスチック、パルプや水資源を大量に使用する紙の代替素材としてTBMが開発したのが、石灰石を主原料とする新素材「LIMEX」だ。石灰石鉱業協会のデータによれば、資源自給率が低い日本でも100%自給自足できる鉱物資源である。
LIMEXが広く使用されるようになれば、特定の資源に依存することのない「資源の分散化」が実現し、アースオーバーシュートデーを遅らせることができるかもしれない。ちなみに山口氏によれば、日本で生産されるプラスチックの半数を占めるPP(ポリプロピレン)・PE(ポリエチレン)を、仮に全てLIMEXに置き換えた場合でも、日本で出荷される石灰石の僅か3%の消費に過ぎないというから驚きだ。
山口氏はその製造方法について、「まず石灰石をパウダー状にし、固めるために樹脂を混ぜ、熱をかけて捏ねる。そうするとパウダーが一体化してペレット状になる。これが 『LIMEX Pellet』と呼ばれるLIMEX製品の原料だ」と解説する。同氏によれば、LIMEX Pelletをプラスチック製品の製造工場等に持参し、原料の代わりにそのまま投入するだけで従来と同じ製品を生産できる。大きなライン変更は必要なく、金型の修正も不要だ。
LIMEXを原料とする製品は、プラスチックや紙と比べ、実用性という観点では劣らないのだろうか。同氏は、プラスチック製品との比較においては「品質は劣らず、コストは同等あるいはプラスチック以下のケースも出てきている。石灰石は価格幅が小さいというメリットがあり、石油と比べてコスト面での優位性がある」と胸を張る。
また紙製品との比較において、「印刷の発色が良く、色が落ちにくいため、化粧品メーカーやハンバーガー屋のポスターなど色味が第一とされるシーンでも採用されている」とした上で、「コスト面では、現状では紙と比較するとまだギャップがあるため、コストダウンに積極的に取り組んでいるところだ」と、前向きな姿勢を見せた。
LIMEXの第一弾製品は、企業で必ずと言っていいほど使用される「名刺」だった。2016年から名刺販売がスタートし、その後8年間かけて製品と顧客の幅を広げ、現在では日本国内外1万以上の企業・団体で採用されるまで成長した。
LIMEXが使われている製品について山口氏は、「耐久性と耐水性があるため、ポスターやメニュー表、電飾シート(電飾看板のフィルム)、シールラベルなどに使われることが多い。その他、レジ袋や梱包材、ポテトチップスの袋やシャンプーボトルなど、日常で使われる製品にも採用されている」とし、「ヨーロッパや東南アジアでも実績が増えており、タイではヤードムの容器への採用に向けた動きがある」と説明する。
採用実績が海外で急増している一つの要因として、海外のパートナー企業の存在がある。TBMはベトナム、韓国、米国に拠点や合弁会社を持つほか、タイ、インドネシア、英国などで販売パートナーと協業している。
タイの大手財閥Berli Jucker Public Company Limited(BJC)が運営するスーパーマーケットグループ「Big C」は、2023年8月にLIMEX Pelletを使用した買い物かごを採用し、続いてレジ袋にも導入した。
タイ国内の「Big C Hyper Supermarket」、「Mini Big C」、「Big C Food Service」の計1,640店舗以上で、順次使用が開始されているという。採用の経緯について山口氏は、「海外市場開拓に向けて、公的機関が各国で主催するイベントで積極的にピッチ登壇しているが、2022年に当社のメンバーがタイでピッチを行った時に、Big Cグループの役員にLIMEXを評価してもらったことがきっかけだった」と当時を振り返る。
LIMEXを高く評価したBig Cグループの役員は即座に、同グループの買い物かごを製造する提携工場へ、原料をLIMEXに転換するように指示。同時にかごの軽量化なども図ったため、工場内での調整は多少必要だったが、製造ラインを変えずに導入できるLIMEXの強みが生き、比較的スムーズに導入が実現したという。
当時の商談や調整を担当した営業担当者は「ピッチで役員クラスに目をつけてもらったことが大きかった。導入まである程度時間をかけて進むのだろうと高をくくっていたら、予想以上に迅速な対応で、決断も速かった」と、タイのトップダウンの構造を強く認識したことを明かした。
「要求されるレベルも高かった」と同担当者は続ける。新素材という未知の存在のため、十分な知識を備えた説得力のある説明が求められ、「資料作りにも相当な時間をかけ、念入りに準備を行う必要があった」という。スピードと良い意味での慎重さを兼ね備えたビジネスの進め方は、スタートアップとも相性が良さそうだ。
山口氏はタイにおける今後の事業展開について、「まだLIMEXはタイのマーケットに浸透できていないため、積極的にアプローチを続けたい」とした上で、「タイでも環境配慮素材=LIMEXという認知をしてもらえるよう尽力したい」と心意気を語った。
TBMはタイでのさらなる活動強化に向け、現地スタッフの常駐や営業担当者の頻繁な現地出張など、体制作りにも本腰を入れている。しかし山口氏は、「自社の力だけでは限界がある。同じ方向を向くタイ企業や日系企業とパートナーシップを組むことで、事業を一気に加速させたい」と、他社との協業の必要性について訴求した。こうしたパートナーシップ構築を契機に、TBMが「タイのイノベーター」として活躍する日は、そう遠くないのかもしれない。
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THAIBIZ編集部
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