カテゴリー: 対談・インタビュー, バイオ・BCG・農業
連載: 日タイ経済共創ビジョン
公開日 2025.06.26
生物学と技術を掛け合わせた「バイオテクノロジー(生物工学)」は現在、農業、医療、環境など多くの産業において重要な役割を果たしている。タイは同分野を活用した経済発展と持続可能な成長を目指しており、研究支援や技術移転、優れた人材の育成などが今後の鍵となっている。
そこで今回は、同分野の専門家であるチュラーロンコーン大学理学部微生物学科のスチャダー・チャンプラティープ・ナパートーン准教授に、バイオテクノロジーの可能性や大学から企業へ向けたサービス、日本企業との協業の機会について話を聞いた。
(インタビューは2月10日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
スチャダー准教授:バイオロジー(生物学)の知識とテクノロジー(技術)を融合させ、人々の生活の質を向上させる製品やプロセスを開発する学問分野です。生きている細胞やその構造要素を利用します。タイは豊かな生物多様性と農業生産力を持つことから、バイオテクノロジーと再生可能な生物資源を活用した持続可能な経済(バイオエコノミー)の成長が期待されています。砂糖製造過程で採れるモラセスを使用したバイオエタノールの生産などが、わかりやすい例でしょう。
スチャダー准教授:バイオエタノールなどのバイオ燃料やバイオプラスチック、バイオ化学製品などのバイオマスを使った製品・素材は、二酸化炭素の排出削減に貢献します。このように再生可能な生物由来の資源を加工・高付加価値化し、新たな製品を創出することは、バイオエコノミーの成長になるだけでなく、サーキュラーエコノミーとグリーンエコノミーを促進する技術開発力の向上も可能にするため、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済へもつながってきます。
また、バイオテクノロジーは資源と廃棄物の削減にもつながり、より環境に優しい生産が実現されるため、現代社会において不可欠な取り組みと言えるでしょう。
さらに、バイオテクノロジーはタイ政府が重点を置く「Sカーブ」産業として、従来型の産業から、イノベーションとテクノロジー主導の産業へと移行する推進力を秘めています。高付加価値製品やサービスを創出し、世界市場の新たなニーズに応えることができれば、タイ経済は持続可能で強固な成長ステージへと進むことができるでしょう。
スチャダー准教授:まず、タイ政府にはバイオテクノロジーを産業へと発展させる基盤を築き、成長を促進させる環境を整えることが求められます。例えば、関連支援策や税制優遇措置を導入し、国内外からの投資を呼び込む必要があるでしょう。
一方、民間企業は技術を購入するのではなく、自社で開発・創出する方向にシフトするべきです。なぜなら、自社のイノベーション能力を強化し、世界市場で競争力を持つ企業へと成長できるからです。さらに、研究開発(R&D)への投資も必要です。初期投資は高額になる可能性がありますが、長期的には企業にイノベーションと付加価値をもたらすはずです。
スチャダー准教授:近年、タイのバイオテクノロジーは急速に成長しており、医療や農業、食品、環境など多様な産業の発展に貢献しています。チュラーロンコーン大学理学部のバイオテクノロジー専攻は、生物科学、自然科学、物理科学、技術(化学工学および食品技術)の4つのグループから構成されています。
その中には、生物学科や化学科、環境科学科、微生物学科、化学工学科など9つの学科に加え、バイオテクノロジーと遺伝子工学の研究所があります。われわれは学際的な教育と研究活動で多様な専門知識を持つ人材を育成し、タイのバイオテクノロジーによる持続的な産業発展を支えています。
スチャダー准教授:当校には、外部との架け橋となるアカデミックサービス機関「チュラ・ユニサーチ」があり、大学の研究成果と民間企業のニーズをマッチングさせる役割を担っています。日本企業への支援も行っており、R&Dや試験・分析、コンサルティング、研修などの幅広いサービス、企業のニーズや問題解決に役立つ研究成果の提供を通じて、タイの産業発展に貢献しています。
スチャダー准教授:既存の連携実例も含め、例えば、以下のような3つの分野などで協力ができると考えています。
1)技術移転と設備の支援: 最新の分析機器や大学での開発、機器センター共同設立へのサポート。
2)共同プロジェクトや奨学金支援:共同研究プロジェクトや共同セミナー、タイや日本でのインターンシップ、奨学金支援。
3)ネットワーク構築と人材育成:現在、東京大学や大阪大学、名古屋大学とのダブルディグリープログラム(DDP)を通じて人材育成プロジェクトを実施しています。今後も持続可能で強力な協力関係を築くことを目指し、日本の大学・企業が人材育成プロジェクトに参加することを期待しています。
スチャダー准教授:卒業生は柔軟性と適応力に優れており、産業のニーズに応える能力を備えています。当校では、世界中から学生を受け入れ、国際交流プログラムを通じて多様な文化に触れる機会を提供しているため、環境の変化に対応できる能力が養われるよう教育しています。そのため、日本企業でも即戦力として働くことができるでしょう。
スチャダー・チャンプラティープ・ナパートーン 准教授
(Assoc. Prof. Suchada Chanprateep Napathom)
チュラーロンコーン大学理学部微生物学科
カセサート大学で遺伝学の学士号、チュラーロンコーン大学で産業微生物学の修士号を取得。大阪大学でバイオテクノロジー工学の博士号を取得後、米国のコーネル大学でポスドク研究員として勤務。現在は、チュラーロンコーン大学でバイオテクノロジー分野の教育と研究を担当。
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