連載: 日タイ経済共創ビジョン
公開日 2024.04.22
日本とタイは外交関係樹立135周年の2022年に「包括的戦略的パートナーシップ(CSP)」に格上げし、「日タイ戦略的経済連携5カ年計画(2022-2026)」を策定した。「日タイ経済共創ビジョン」インタビューシリーズの第8回は、タイ外務省の前東アジア局長のチャットチャイ・ヴィリヤヴェシャクン氏(3月20日付で駐中国タイ大使に就任)に、日本とタイの共創(Co-creation)関係の深化につながる経済・外交政策や今後5~10年の方針などについて話を聞いた。
(インタビューは3月7日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
チャットチャイ氏:タイと日本は約600年前、タイのアユタヤ時代に交易を始めた。1887年9月に正式に国交が樹立され、今年で137周年になる。2022年には両国の関係を「包括的戦略的パートナーシップ」に格上げし、可能なすべての面で協力していくことを宣言した。
タイと日本の関係は緊密で、広範囲に渡っている。経済面では特に過去50年間、日本はタイ経済の発展に大きな役割を果たしており、6000社以上の日本企業がタイに進出している。日本は、タイへの累積投資額で最大の国だ。さらに、日本はタイの貿易相手国では第3位であり、タイと日本は2007年に「日タイ経済連携協定(JTEPA)」を結び経済関係を一段と強化した。一方、タイの民間企業30社以上が、特にホテルや再生可能エネルギー分野で日本に進出している。
このように、タイと日本の協力関係は長期にわたり円滑に進み、両国は良い友好関係を維持している。タイ人は日本人の規律正しさを称賛し、食べ物やファッション、漫画といったエンターテイメントなどの「日本らしさ(文化)」にも憧れを持っている。
チャットチャイ氏:タイと日本の関係は、友人から親友、親友からパートナーになるようなものだ。ある日本人の友人はタイに住んでいると、まるで故郷にいるように感じると話していた。日本人にとってタイには他の国とはまた違う雰囲気があるのかもしれない。さらに、政権が変わっても貿易・投資政策には一貫性があり、投資した外国企業の多くは、政策の変化に影響されることはない。タイに投資する日本人は外資支援策に加え、生活面、日本人を友人として迎えるタイ人の姿勢からも、タイで安心して過ごせると思う。
チャットチャイ氏:2023年12月にセター首相は「日本ASEAN友好協力50周年特別首脳会議」に出席するため日本を訪れた。同会議の「未来の経済・社会を共創するパートナー」をアジェンダとした首脳会談では、タイが日本との協力において、①シームレス・コネクティビティ②グリーン経済の推進とエネルギー転換の加速③デジタルトランスフォーメーション−という3つの項目を重視していると表明した。
グリーン経済の推進とエネルギー転換の加速では、タイに進出している日系企業やタイ自動車部品メーカーに大きな影響を与えないよう、内燃機関(ICE)車から次世代自動車への転換をできるだけスムーズに進めるため、日系自動車メーカーを支援することを確認した。
さらに、日本の経済産業省は、両国がグリーン産業に効率的に移行できるよう、エネルギーと産業開発における協力に向けた「エネルギー・産業対話」を立ち上げることを提案し、セター首相は同対話の立ち上げに合意した。現在、タイの関係省庁がどの分野で協力できるかを検討中だ。
チャットチャイ氏:タイと日本は、包括的戦略的パートナーシップへの格上げに伴い、「日タイ戦略的経済連携5カ年計画(2022-2026)」を策定した。同計画は両国が潜在力を持つ分野における2022年から5年間の日タイ経済協力の方向性を示す。例えば、タイのグリーン経済政策と日本のグリーントランスフォーメーション政策における協力などだ。同計画は政府によるもので、具体的な結果を出すために関係機関が議論し、行動を起こすための枠組みと方向性を定めたマニュアルのようなものだ。
チャットチャイ氏:世の中は常に変化している。産業や経済もそうだ。トレンドが変われば、時代によって注目される産業も異なる。その結果、ある分野に多大な投資をしてきた国は役割が縮小されてしまう可能性もある。すべての国が変化に対応する必要性がある。「エネルギー・産業対話」の立ち上げは、日本がグリーンエネルギーのトレンドにも適応している証拠の一つだと思っている。
チャットチャイ氏:タイと東南アジア諸国連合(ASEAN)各国にとって日本は真の友人だと思う。歴史を通して、日本は投資や教育など、政治的な狙いではなく国の発展を助ける目的で、タイに多くの援助をしてきた。タイだけでなく、ASEAN諸国にも援助してきた。また、日本には優れた技術がある。日本にとって普通の技術と思われるものかもしれないが、多くの国で求められているものだ。そのため、多くのASEAN諸国にとって、日本はヒーローのような存在だとも言える。
チャットチャイ氏:日本人にもタイを親友として見てほしい。われわれは仕事や旅行に訪れるすべての外国人を歓迎している。さらに、タイはすでに日本人がビジネス目的で30日以内の短期滞在する場合に、商用ビザを免除している。タイは異文化を受け入れ、新しいことにも心を開いている。また、国内で政治的な出来事があっても、外国人が影響を受けたことはこれまでほとんどない。日本人がタイに投資して滞在すれば、故郷にいるように感じ、良い経験ができると信じている。
チャットチャイ・ヴィリヤヴェシャクン氏(Mr. Chatchai Viriyavejakul)
Director General, Department of East Asian Affairs
タマサート大学卒業、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校修士課程修了。1994年にタイ外務省入省。在ヤンゴン・タイ王国大使館、在オタワ・タイ王国大使館、在シドニー・タイ総領事館の副総領事などを経て、2021年にタイ王国外務省領事局長、2022年に東アジア局長、2024年3月20日付で在北京・タイ王国大使館の大使に就任。
THAIBIZ編集部
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