カテゴリー: 対談・インタビュー, 協創・進出, カーボンニュートラル
連載: 日タイ経済共創ビジョン
公開日 2024.10.07
世界的に地球温暖化対策、二酸化炭素(CO2)排出削減の取り組みが国レベル、企業レベルともに待ったなしとなる中で、タイでは気候変動法案の策定作業が本格化している。さらに、欧州連合(EU)の「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」の移行期間が始まったことなどを受けて、タイ政府内で炭素税の導入の動きも大詰めを迎えている。
タイ独自のカーボンクレジット制度である「T-VER」を開発するなど、タイで温室効果ガス(GHG)の排出削減を主導するタイ温室効果ガス管理機構(TGO)のローンペット・ブンチュアイディー副事務局長に、タイのGHG排出削減の取り組みの現状、日本企業との協業の可能性などについて話を聞いた。
(インタビューは7月11日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)
目次
ローンペット氏:気候変動は広範囲に影響を及ぼしている。タイでは国連気候変動枠組み条約のパリ協定の締約国として、2050年までにカーボンニュートラル、2065年までにネットゼロを達成することを目指している。TGOは天然資源環境省の傘下で2007年に設立され、さまざまなセクターによる温室効果ガス(GHG)排出削減の取り組みを支援する役割を担っている。特に、TGOはタイの自主的な排出量削減プログラムである「T-VER」を開発した。企業はTGOによって認証を受けたT-VERのカーボンクレジットを購入することで、各種事業活動で排出されるGHGを相殺することができる。
ローンペット氏:気候変動法と炭素税が導入されれば、対象となる業界の企業は事業活動に伴うカーボンフットプリントを算定・報告・公表をすることを求められ、事業運営の新しい基準ともなる。このため、生産工程においてクリーンエネルギーの利用や廃棄物削減などの低炭素技術を導入し、事業活動により排出されるGHGを削減するための投資が必要になるだろう。
ローンペット氏:現在、世界のトレンドは「低炭素で持続可能な生産と消費」に向かっており、生産工程を含め製品は低炭素でなければならない。当然、コストは増加するが、トレンドに合わせて早めに順応できればビジネスチャンスともなる。一方、政府も、企業の競争力を低下させ、コスト増により製品が売れなくなることを望んでいるわけではない。政府は炭素税により、低炭素技術への投資促進や低炭素製品の新市場の開拓などにつなげる循環を大事にしている。さらに、このような取り組みを推進しなければ、外国からの投資はなくなるだろう。より多くのグリーンテクノロジーをタイに呼び込み、各セクターのクリーンエネルギーへの投資を刺激するのに役立つと考えている。
ローンペット氏:タイ政府は国際協力機構(JICA)と協力して、気候変動国際研修センター(CITC)を設立し、タイを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)の関係者を対象に気候変動に関連する研修サービスを行っている。また、日本とタイはGHG排出削減のための財政支援や先進的な脱炭素技術を支援するための二国間クレジット制度(JCM)の覚書に署名した。タイ側は、タイでのプロジェクトから発生するカーボンクレジットを日本側に発行する。このような協力によって、タイと日本は共同でGHGの削減目標の達成を目指している。
ローンペット氏:日本がタイの中小企業と川上産業の企業に対しGHG削減技術を支援できれば、多くの新たなパートナーシップが生まれるだろう。特に、東部経済回廊(EEC)地域では資金面、技術面で多くのサポートが求められている。このような支援はサプライチェーン全体が低炭素へ移行するためにも重要だ。
ローンペット氏:タイは低炭素社会への移行に前向きに取り組んでおり、カーボンクレジット制度のほか、「カーボンフットプリントマーク」を企業や製品に導入している。このマークにより、消費者は製品のGHG排出量が分かりやすくなる。また、企業は世界的なトレンドに沿った環境に配慮することができ、投資家からの企業の信頼性を高めることができるだろう。
一方、製造業でのGHG排出は、主にエネルギー分野のウェートが高いため、ネットゼロ目標を達成するには、皆が均等にクリーンなエネルギーにアクセスできることが重要だ。現在、タイはまだ、クリーンなエネルギーによる電力供給が少ないため、エネルギー分野の規制緩和、電力自由化に取り組んでいる。電力自由化が成功し、需要に見合ったグリーン電力を十分に供給できるようになれば、タイの製造業へ外国企業もっと誘致でき、さらなる発展につなげられるだろう。日本企業にとってもこうした動きは大きなビジネスチャンスとなるはずだ。
THAIBIZ編集部
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