連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2023.02.14
今年、日本ASEAN友好協力50周年を迎える中で、日本の大手商社のタイ法人トップが新たなビジネス展開に向け、日本とタイ、そして東南アジア諸国連合(ASEAN)との経済関係についてどう考えているのかを探る連続インタビューの第3回は、福田康・タイ住友商事*社長だ。
(インタビューは1月中旬、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTJRI編集部)
*インタビュー時点での役職
目次
福田氏:私が住友商事に入社した1982年からの40年間を見ても、やはり一番大きな出来事は、日本企業がタイを中心に東南アジア諸国連合 (ASEAN)内に相当集積してきたことだ。特に製造業各社は経済危機・通貨危機や洪水などさまざまな苦難を乗り越えて成功し、大きな基盤、サプライチェーンを築き上げてきた。
住友商事は1990年以降、海外で工業団地事業を積極的に展開してきた。基本的には日系企業を中心に工業団地に進出していただいて、現地雇用を創出、各国の人々にさまざまなベネフィットを提供していくことが主なコンセプトだ。
ASEAN地域の工業団地事業のうち、タイは若干スタートが出遅れたこともあり、独自開発ではなく、アマタコーポレーションと連携しながら展開してきた。しかし、ベトナムでは3カ所のタンロン工業団地という有力な工業団地を展開している。さらに、インドネシア、フィリピン、ミャンマー、インド、そして昨年12月にはバングラデシュでも開業し、引き合いが多く来ている。
福田氏:私が駐在していた1990年代のアメリカでは自動車産業の拡大で、完成車工場の進出に伴い、サプライヤーが多数出てきた。8年ほどアメリカで住友商事の物流関連のサポートをした後、日本に戻り、物流関連事業の新規開発に従事した。その後2008年から2012年までインドネシア・ジャカルタに駐在し、日系企業を中心に物流関連のサポートを担当。2012年に日本に戻って、住友商事の海外工業団地事業の統括を担うことになった。
福田氏:商社なのでまずトレード(貿易)に関わる事業がある。それ以外にはプロジェクトベースで新たにパートナーと一緒に作り上げたり、単独で事業を起こしたりするなど、それぞれの事業分野で進めている。主な分野は自動車、化学品、金属、食品、インフラなど、それぞれのビジネスユニットがそれぞれの国で地場に根差した仕組みづくり、事業展開を行っている。
福田氏:現地化はタイに限らず、全世界で大きなテーマであり、各国ごとに取り組んでいる。タイ住友商事のコーポレート部門では日本人は副社長とトレーニーの2人だけで、他はタイ人スタッフだ。一方で、顧客は日系企業が多いため、営業部隊ではゼネラル・マネジャー(GM)クラスに日本人が多い。顧客と相対する中で、言葉の問題もあり、きめ細かいサービスを提供するために日本人が必要となるケースも多い。これが現地化を一段と進めることができない理由だ。
私のポジションもタイ人に任せるという目標もあるが、そこまでできるかどうかは将来の課題だ。日本の本社側との連携でもボトルネックがある。現地側で一生懸命進めていても、本社側では結局、日本語の世界になり、ローカルスタッフの幹部を育てても、コミュニケーションが十分取れないこともある。日本の文化を知ってもらうためには行き来を増やし、日本の本社側のサポート体制も作らなければならないだろう。
福田氏:現地法人トップがタイ人になる場合も、住友商事とは何かを理解することが必須だ。例えば、住友グループは400年以上にわたる歴史があり、研修は基本的なことから始まる。誰がトップになってもわれわれが目指すことや大事にしてきたことなどを理解してもらうことが重要だ。昔、今のタイ人シニア層の方々が日本に留学されていた頃は、日本のことを理解されて、日本語が堪能になって帰ってきた。このような方々が日系企業を引っ張っていくのが良いと思う。
しかし、日本の魅力が少しずつ無くなるにつれて、現在では若い人たちは留学では欧米に向かう。これが悪循環となり、日本の弱みになりつつある。若い人たちが欧米へ行って帰ってきたら、日系企業でなくても良いことになる。これにより在タイ日系企業にとって欧米などの他国企業との競争が難しくなり、特に人材確保でも結構厳しくなってきている。さらに今後、中国に加えて、韓国や台湾などの企業の数や規模も拡大していくと思われるため、タイでの日系企業の優位性が崩れていくことを懸念している。
福田氏:タイ企業は大手から中堅まで力を付けてきて、タイ国内だけではなく、周辺国に事業展開している。これらの企業はわれわれのネットワークを活用して、周辺国を攻めて行った実例もある。当時はタイ企業が自分たちだけでは十分に出来なかったためだ。今後もこうした連携の動きはあるだろうが、われわれもネットワークだけでなく、さらに強みを身に着ける必要がある。
また、中国も含め他国企業との連携も十分にある。電気自動車(EV)などに中国企業が進出する中で、中国企業が仲間の中国企業としかできない場合や、技術面などで日系企業と組んだほうが良い場合も出てくるだろう。われわれとしても他国企業とうまく連携し、タイで大きな事業を共創していける可能性もあるだろう。他国企業と距離をおくより、できることを一緒に協力して推進していく。
福田氏:さまざまなビジネスユニットを拡大していくことだ。例えば、バイオ・循環型・グリーン(BCG)経済モデルで、カーボンニュートラルに向けて動きが活発化していく中では1つのビジネスユニットだけでは片付かない。
脱炭素に向けた事業では、具体的に動き出しているものもあるが、われわれは今、横の連携を深めようとしている。商社はこれまで縦割りで、ビジネスユニットが異なれば別の会社のようだった。横の連携をさらに深めなければ、本当の総合商社らしさを発揮できないだろう。
脱炭素事業でも、自動車やエネルギー、ケミカル(化学)関係、農業のスマート化など、産業セクターが広範囲にわたっている。一方で、これまでわれわれが手掛けてきたトレード、交通インフラや発電事業など伝統的なものも引き続きやっていく。
福田氏:住友グループは400年以上の長い歴史があるが、われわれ住友商事としては100年を超えたところだ。その根底にあるフィロソフィー(哲学)は、昔から「浮利を追わず」ということだ。要するに目先の利益のみにとらわれるなということ。
そして社会貢献だ。単に自分たちの会社が成長すればよいということではなく、それぞれの事業でお世話になっている国や産業、地域の方々がメリットを享受できるような形が好ましい。例えば、現地に雇用を創出し、さまざまな周辺産業を活発化させることだ。そして、周辺地域の人々に利益やベネフィットを供与できる形が望ましい。これは住友商事として不変の理念だ。われわれはその国で仕事をさせてもらいお世話になっている。このため、その国や周辺地域の人々に利益やメリットを享受してもらうことが非常に重要であり、われわれが大事に守ってきていることだ。
TJRI編集部
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