現地化が成功した組織で一時は苦心 タイ人から学びながら見出す「駐在員の役割」

THAIBIZ No.157 2025年1月発行

THAIBIZ No.157 2025年1月発行日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想

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現地化が成功した組織で一時は苦心 タイ人から学びながら見出す「駐在員の役割」

公開日 2025.01.10

在タイ日系企業の多くは、組織の現地化を目指してあらゆる手段を試みている最中ではないでしょうか。一方で、現地化が成功したと言われるタイ大林の戸倉慧氏は、「日本のノウハウが通用せず、どうすれば自分のプレゼンスを発揮できるか真剣に悩んだ」と赴任当初の心境を明かします。タイ人中心の組織における、日本人駐在員の役割とは。戸倉氏の葛藤と挑戦について話を聞きました。

現地化が進んだ組織での挑戦

Q. 貴社の事業内容と、戸倉さんについて教えてください

建設事業や開発事業などを展開する株式会社大林組(以下、「大林組」)は、1892年に創業した歴史ある建設会社です。タイでは、1964年にバンコク駐在員事務所を開業し、1974年に現地法人であるTHAI OBAYASHI CORPORATION LTD.(以下、「タイ大林」)を設立しました。

在タイ日本人にとっても身近な商業施設「アイコン・サイアム」や「シンドーン・ケンピンスキー ・ホテル」、ビジネスパーソンにお馴染みの「クイーンシリキット国際会議場」、最近オープンした「ワン・バンコク」の一部などの建設を手がけてきました。

従業員数は約1,000人、うち日本人は20人ほどです。会長、社長含め幹部の多くがタイ人で、大林グループの中でも現地化のモデル拠点として捉えられ、建築現場や研修施設の見学も含め、他拠点からの視察も多く受け入れています。

私は2007年に大林組に新卒入社し、10年以上にわたり日本の不動産開発事業に携わってきました。タイ大林は、建設事業においては50年の歴史がありますが、不動産開発はここ10年ほどの新しい取り組みです。

タイ大林本社が入居する大型オフィスビル「O-NES TOWER」は、タイ大林初の本格的な不動産開発案件として、2022年に開業しました。私の任務は、O-NES TOWERの管理およびテナントリーシング業務と、これまでの経験を活かした新規開発案件の企画立案です。

赴任当初は苦心、解決策は「部下から学ぶ」

Q. タイでの仕事において、イメージとのギャップを感じたことは

既に現地化が進んだ組織とは言え、ある程度日本人がイニシアチブを取っていると思っていましたが、実際にタイに来てみると、優秀なタイ人が中心となって会社を動かしていることに驚きました。タイ大林では、幹部候補のタイ人が日本で研修を受け、学んだことをタイの事業に還元する取り組みを行っています。

そのため彼らのタイムマネジメント等の基礎力は申し分なく、出てくる成果物は期待を上回るクオリティーです。建設現場に目を向けても、ローカル企業がお客様の現場には日本人は一人も配属されておらず、現場監督も技術力が高いタイ人で構成されています。

比較的歴史の浅い不動産開発事業においても、マーケット、文化、法律、どれをとっても日本と異なるタイでは、私が積み重ねてきた日本での経験や日本式ノウハウは通用しないケースが多くあります。例えば、タイの人々の「土地」に対する思い入れ一つにしても、不動産ビジネスが根付いている日本とは大きく異なり、日本の常識は通用しません。

その他、法律の文書には明記されていないものの現地では「当たり前」とされている理解や捉え方、いわゆる「商習慣」は文字どおり肌で感じながら慣れていくしかありません。どうすれば、日本の強みや自分のプレゼンスを発揮できるのか。来タイして約3年が経過しようとする今でも、「現地化が進んだ組織ならではの壁」を強く感じるときがあります。

Q. 直面した壁を、どう乗り越えようとしていますか

タイの不動産開発においては、私よりもタイ人部下や同僚のほうが商習慣に詳しく、知識、経験、人的ネットワークも豊富です。まずはそれを認識した上で、分からないことに対しては「知ったかぶり」をせずに彼らに聞き、学ぶようにしています。学びを確実に実務に落とし込むことで、知識を増やし、感覚を磨いていくことができます。そうすることで、日々起こる課題に対するソリューションのイメージが湧くようになってきたと思います。

私の過去の経験から活かせる分野も、皆無ではありません。例えば、スケジュール管理能力や、全体を俯瞰して抽出したタスクをタイムラインに落とし込みトータルマネジメントする能力は、私が日本で培ってきた強みです。

このような強みは躊躇せず発揮しながら、分からない部分についてはタイ人部下を頼って一つずつ課題をクリアにしていくことが大切だと考えています。タイ人とのコミュニケーションは可能な限り、タイ語で行い、会話の頻度を高めることを意識して、理解が深まるまで諦めずに話をすることを心がけています。

次世代に向けて、成功の道筋を立てる

Q. 来タイ前と今とで、駐在員の役割に対する意識の変化はありますか

ここまで現地化が進んでいる組織では、駐在員がそのことを認識せずにタイで働くと、ギャップに苦しむのではと思います。私自身も来タイ前は「日本での経験をタイで活かす」と意気込んでいましたが、日本のノウハウが通用しない状況を目の当たりにして悩める日々を過ごしてきました。

自身や組織が目指すべき高いビジョンを掲げることはもちろん大切ですが、短い駐在期間で日本人ができることには限りがあることを認識し、地に足をつけて「今自分がすべきこと」に集中することも大切なのだと実感しています。

Q. 帰任までの目標は

O-NES TOWERに次ぐ大型不動産開発案件の成功への道筋を立てることです。O-NES TOWERが開業まで約10年を要したように、不動産開発は非常にスパンが長い事業です。私が任期を終えるまでに建物完成を見届けることは難しいと思います。ただ、次世代に繋ぐために道を切り開き、踏み固めておくことは可能です。

約10年前、タイで不動産開発事業を立ち上げた先人たちは、私が直面している壁よりもさらに高い壁を乗り越えてきました。O-NES TOWERは、タイと日本のベストミックスの形を追求した結果であり、企画検討段階では相当な試行錯誤があったはずです。

先人たちが積み重ねてきた土台があるからこそ、今、私は目標に向かって邁進することができています。その感謝と尊敬の気持ちを忘れず、今後海外駐在を希望する後輩たちが未来のタイ大林で最大限挑戦するための土台作りは、日本人である私にしかできないことだと思っています。


戸倉慧
Manager Property Development Department
THAI OBAYASHI CORPORATION LTD.

2007年大林組に入社し、10年以上にわたり不動産開発に従事。2022年3月にタイ赴任。現在は自社開発ビル「O-NES TOWER」管理・テナントリーシング業務、新規開発案件の立案を担当。

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THAIBIZ編集部

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