「基準はあるが守るための技術がない」タイの産廃問題 – ダイオキシン類を抑制する独自技術で、ゴミの適正処理を実現

THAIBIZ No.150 2024年6月発行

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「基準はあるが守るための技術がない」タイの産廃問題 – ダイオキシン類を抑制する独自技術で、ゴミの適正処理を実現

公開日 2024.06.07

社会の高度化や市場の集積化などに伴い増え続ける産業廃棄物。世界各地でその処理に頭を悩ませており、工業化が進むタイもその例外ではない。意外に感じるかもしれないが、タイの産廃処理基準は日本に比べて厳格な点も多く、本来であれば企業はその達成を目指さなければならない。

ところが、資金や技術面から手つかずのものも多く、このようなタイの状況にいち早く目を付けたのが、群馬県高崎市に本社を置く株式会社キンセイ産業だ。


株式会社キンセイ産業
金子 啓一 常務取締役

株式会社キンセイ産業 1967年設立。群馬県高崎市にて廃棄物焼却装置を製造販売。独自開発の「乾溜ガス化燃焼技術」に関する特許を固めている乾溜ガス化燃焼装置は、廃棄物の高温安定燃焼を達成し、省エネ・環境保護装置として活躍している。


木下 タイの産廃処理の現況について教えてください。

金子 今から30年から40年も前に、東南アジアを視察していた当社の社長がタイを訪れたことがあります。当時のタイの産廃処理は分別が不十分なままの焼却や埋め立てが当たり前。

適正とはとても言い難い状況でした。廃棄物を処理せずに放置しておくと、悪臭、感染症の発生、土壌汚染等といった様々な問題が生じます。外国企業の進出など工業化が急ピッチで始まっており、いずれ適正処理が喫緊の課題として浮上することは確実な情勢でした。

工業発展を伴いながら、やがて顕在化してきた産廃問題。例えば焼却の際に企業は、発がん性が指摘される有毒ガスのダイオキシンの発生に考慮しなければなりませんが、厳しい基準は設定されているもののタイには測定機器すらない状況でした。

焼却炉があったとしても故障している、基準を満たさずに使っている、基準を守れる技術がない―課題は山積みでした。

もう一つ注目すべき点として、高度化してきた医療現場から排出される医療廃棄物が挙げられます。特に昨今は感染症対策としても適切な処理が求められており、他のゴミと一緒に燃やしたり、安易に埋め立てたりしてはいけないことになっています。

しかしながら、きちんと処理できる施設もなければ、処理業者もいないというのが実情でした。

木下 そのような課題があるのですね。それでは御社の製品の特徴について教えてください。

金子 当社が開発した乾溜ガス化燃焼プラントは、廃棄物を外気に触れさせないまま可燃性のガスだけを取り除く「乾溜」という手法を用いており、そのガスで廃棄物の燃焼を行います。当社独自の特許技術で、ダイオキシン類の抑制にも有効です。

タイで設置した乾溜ガス化燃焼プラント

安定した燃焼温度を保つことができ、安定した発電を実現できる強みもあります。また、燃焼温度は自動制御のため、人員コストの削減にも繋がります。

基本的に、どのような廃棄物にも対応することができる点も特徴の一つです。廃棄物の投入口が広くて、形状も大きいので、まとまった容量の廃棄物や大型廃棄物も処理することが可能です。

当社製品は、日本では各都道府県で使用いただいているほど普及しており、海外では中国・韓国での導入事例が最も多く、タイでも徐々に増えてきている状況です。2010年代半ばから当社への問い合わせが増えるようになり、現地の協力会社を通じて当社製品がタイ市場に供給されるようになりました。

現場での技術指導の様子

木下 タイではどのような取り組みをされていますか。

金子 タイでのお客様は一般企業が中心ですが、最近では大学病院との連携も増えています。医療施設の水準は年々向上しており、それに伴い適切処理が必要となる医療廃棄物も増え続けています。これらを基準に従って処理するために、当社製品を使用いただいています。

処理可能容量は日量100キログラムから150トンクラスのものまでラインナップも豊富に揃えており、さまざまなニーズに応えることができます。

最近ではチェンマイ大学との取り組みで、群馬大学と提携してインターンシップ制度も実施しています。優秀なタイの人材を日本で受け入れ技術指導を行い、ゆくゆくはタイで指導者として活躍してもらう、という試みを始めています。

チェンマイ大学との署名式

木下 海外展開の難しさとJICA事業活用の利点についてはどうお考えですか。

金子 当社の場合、海外では、プラントで使用される薬剤を現地市場でどれだけ調達できるかといった点も考慮する必要があります。国によってルールが異なり、現地調達ができない、輸入規制が存在するなどのケースも少なくないからです。

また、特許や高い技術を持つ当社でも、タイの官庁や大学病院に直接アプローチすることは容易ではありませんでした。そのため当初はJICAのような公的機関の仲介や斡旋等を通じて提案機会を創出しており、ここにJICA事業活用の最大の利点があると考えています。

地道ですがコツコツと各方面での関係性を育てていくことで、徐々に当社製品への理解が深まるようになりました。

今後も医療廃棄物を含め、この国の多様化する廃棄物の適正処理に貢献してまいります。

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JICAタイ事務所
Representative

木下 真人 氏

タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]

JICAタイ事務所

31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250

Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html

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