ラーマ8世橋老朽化調査でも大活躍 0.2ミリも見逃さない計測システムで「日タイ架け橋」に

THAIBIZ No.154 2024年10月発行

THAIBIZ No.154 2024年10月発行なぜタイ人は日系企業を選ぶのか

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ラーマ8世橋老朽化調査でも大活躍 0.2ミリも見逃さない計測システムで「日タイ架け橋」に

公開日 2024.10.10

バンコクの旧市街、「ラッタナコーシン島」と呼ばれるエリアからの交通渋滞緩和のために建設されたラーマ8世橋。塔から延びるケーブルが非対象で、その美しさはドラマのロケ地になるほどだ。ところが完成後15年ほどが経った頃からひび割れが目立つようになり、実態の把握が急務の課題となった。そこで白羽の矢が立ったのが、大阪に本社を置くクモノスコーポレーション株式会社だった。100メートル先の0.2ミリのひび割れを計測できる画期的技術が、日タイ間の新たな架け橋となった。

3Dレーザースキャナで取得したラーマ8世橋の点群データ

クモノスコーポレーション株式会社
中庭和秀 代表取締役

クモノスコーポレーション株式会社 1995年、阪神淡路大震災の復興支援をきっかけに「守る測量」を掲げ創業。ICTの導入で建設工事の効率化を追求。3Dレーザースキャナを用いた3次元計測や、遠隔からのひび割れ・外壁調査を実施。また、杭打設支援システムやパイリングメジャーメント工法、杭ナビゲーションシステムにより、品質の管理も行う。インフラの維持管理を通じて安心できる豊かな社会を目指す。モノづくり大賞や国交省・経産省の大臣表彰も受賞。


木下 御社が取り組んでいる「デジタル化による守る測量」、そして日本国内外で実施されているプロジェクトについて、詳しくお聞かせいただけますか。

中庭 私たちのミッションは、森羅万象あらゆる対象物を多彩な技術でデジタル化し、その独自の3Dデータを活用して、修復や建設作業に貢献することです。

国内では熊本地震で被災した熊本城の修復プロジェクトにおけるデジタル化や、福島第一原子力発電所事故後の建屋の測定作業を手がけました。海外ではネパール・カトマンズ大地震後の世界遺産区域3D元計測プロジェクトなど、当社の技術は多くの現場で採用されています。これらはすべて、人が簡単には近づけない測定困難な場所であり、海上の橋脚やダム内部でも精密な計測が可能な技術として高く評価されています。

当社事業の中核を担うのが、2006年に開発したひび割れ計測システム「KUMONOS」です。この独自システムでは、離れた場所からひび割れの幅・位置・長さを高精度で計測することが可能です。高解像度写真と合わせ人工知能(AI)が解析することで、より正確な数値を導くことができるほか、修復工事の工期短縮にも繋がります。

ひび割れ計測システム「KUMONOS」

木下 国内市場でのご経験を踏まえて、海外市場、特にタイとの関係がどのように始まり、広がっていったのか、その背景についてお聞かせください。

中庭 KUMONOSは近接目視(近づいて目視する診断方法)と同等の診断法ではありますが、日本国内では2012年に点検業務における「近接目視」を義務化する法令が出されたため、公共施設の点検にKUMONOSが使用できなくなってしまいました。そこで「国内で認められるまで、海外で実績を増やす」と決意し、東南アジアに目を向けました。

2012〜2013年のマレーシアでのJICA案件化調査事業に応募したことが、海外展開の始まりでした。その後、隣国のタイで幹線道路の耐久性・老朽化をめぐる同様のJICA調査を行ったことで、タイとの繋がりが始まりました。

当初からタイ側の関心が高かったわけではありません。道路を新たに建設する方向ばかりに意識が向き、メンテナンスはどちらかと言えば後回しといった状況でした。しかし、持続可能な社会の建設が提唱されると共に、道路構造物の劣化が顕在化すると、徐々に変化もみられるようになりました。

木下 タイでの事業を進める中で、特にタイ側の意識が変化したと感じた場面やプロジェクトはどのようなものでしょうか。そのエピソードをお聞かせいただければと思います。

中庭 バンコク都が主導して実施することになった、ラーマ8世橋の老朽化調査です。2002年に完工したこの橋は、チャオプラヤー川を横断する全長475メートルの斜張橋です。主塔は1本、高さは174メートルもあり、ワイヤーが両翼に非対象に延びて橋を支えています。現地を下見して感じたことは、「これはKUMONOSでしか計測はできない」ということでした。

ラーマ8世橋の修復・メンテナンス工事には、2018年に弊社がKUMONOSおよび3Dレーザースキャナで計測したデータが活用されました。主塔から張ったケーブルなど複数カ所に損傷が見つかり、これらが無事修復されました。現在は工事も終わり、20バーツ紙幣にデザインされたこともあるバンコク都民の橋は、貴重な幹線道路として多くの車の通行を支えています。

木下 JICA事業のサポートを受けた感想、また海外事業を強化したいと考えている日本企業に向けて、どのようなメッセージをお伝えしたいですか。

中庭 海外でのコネクションもなく、資金も限定され、語学力もままならない中小企業がタイでネットワークを構築できたのは、JICAの調査事業がきっかけでした。自社だけの力では、今いる場所に辿り着くことはできませんでした。大学など専門の研究機関との連携も重要です。当社の場合、JICA事業を活用し、道路の維持・管理についてチュラーロンコーン大学の研究チームとのネットワークを構築することができました。

実は、日本での「近接目視」の規制は2024年に変更され、デジタルを活用した点検業務が解禁となりました。当社が海外で実績を作り続けたことも、少なからず影響していると思います。我々のように国内市場に参入課題があったとしても、海外市場に目を向けることで道が開ける可能性があることをお伝えしたいです。

THAIBIZ No.154 2024年10月発行

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JICAタイ事務所
Representative

木下 真人 氏

タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]

JICAタイ事務所

31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250

Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html

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