航空業界が向かう未来航路 〜 JALバンコク支店 澤田支店長インタビュー

航空業界が向かう未来航路 〜 JALバンコク支店 澤田支店長インタビュー

公開日 2024.04.01

2020年世界を突然襲った新型コロナウイルス感染症(COVID-19)。航空業界は、このパンデミックの影響を最も受けた業界の一つだと言っても過言ではない。ポストコロナの今、航空需要は回復に向かっている中、リスク耐性の強化を図るために航空業界では、各社が事業ポートフォリオの見直しを迫られている。日本航空(JAL)バンコク支店の澤田敬文支店長に、タイ拠点のこれまでの取り組みやJALの未来戦略について話を聞いた。

<聞き手=mediator ガンタトーン>

日本航空(JAL)バンコク支店の澤田敬文支店長

従業員一人一人の自発的な行動が危機を救う

Q. JALバンコク支店について教えてください

澤田支店長:JALバンコク支店は、1956年に開設し、同年10月に東京−バンコク間が初就航、今年で68年目を迎えます。約70年前に多くの日本企業がタイへ進出しはじめた際に旅客需要が拡大したことを受け、当社もタイに進出したのがはじまりです。バンコク支店は、現在従業員約500名が在籍し、内100名が地上職員、残り400名が客室乗務員として所属しており、日本を除く当社のグローバル拠点の中では最大規模の拠点です。

Q. コロナ禍をどう乗り越えたか

澤田支店長:私がタイに赴任したのは昨年5月で、タイでのコロナ禍は経験していませんが、当時は飛行機が飛べない中で航空会社として何ができるのかを東京本社だけでなく全社一丸となって皆が必死に考えました。旺盛な国際貨物需要を背景に、旅客機材を活用した貨物便運航や、日本の水際対策が継続する中で日本を通過する東南アジアと北米間の旅客需要を積極的に取り込むことなどで、JALグループ売り上げの最大化を図りました。また客室乗務員をはじめJALグループ社員が、自治体など社外に出向し活躍することで、高い評価を頂けたと共に、様々な知見や人的ネットワークを得ることができました。

バンコク支店の取り組みの一つとしては、「JAL SHOP THAILAND」の開設でした。製品の企画・デザインから販売プロモーションやイベント企画、売上管理まで客室乗務員たちが中心となり一気通貫で取り組みました。自分たちが主体となって考えて仕事を作る経験は、人財育成の観点から見て、会社にとっても従業員にとっても成長につながったと思います。

客室乗務員によりデザインされた JAL SHOP THAILAND のオリジナル製品

また、バンコク拠点の客室乗務員の中には、日本語を話せる人材も多く、他部門のタイ人スタッフに日本語を教え、そのスタッフが日本への転勤の機会を得た事例もあります。このように未曾有の危機でも従業員一人一人が自発的に考えて動いてくれたおかげで今の当社があると感じます。

航空会社の強みを活かし、関係人口増へつなぐ

Q. 澤田支店長自身は、コロナ禍はどのような業務に携わっていたのでしょうか

澤田支店長:タイ赴任前の直近の約3年間は、地域事業本部の戦略部長を務めていました。日本では東京や沖縄など流入人口が増えている一部の地域を除いて、ほとんどの地域は人口減少トレンドにあり、さらに一次産業の従事者人口は高齢化と著しい減少という非常に大きな課題を抱えています。そこで、航空会社としてどのように社会課題に貢献できるかを考えた時に、当社の強みは国際線および国内線のネットワークがあり、人や物資の実輸送ができることなので、居住人口は増えなくても、関係人口(特定の地域に継続的にさまざまな形で関わる人のこと)を増やせるのではと思ったのです。関係人口を増やすことによって、地域の活性化や課題の解決、ひいては持続可能な日本社会を創れると考えております。

Q. 関係人口増に向けた具体的な取り組みは

澤田支店長:例えば、コロナ禍だった2021年には、JALふるさとプロジェクトの一環で農山漁村の関係人口増に向けた交流機会創出のための体験型研修「JAL農業留学」を実施しました。このプログラムでは、首都圏在住の学生や社会人を対象に、2週間農家に民泊し、地域の暮らしを体験してもらいました。午前中は農作業、午後はテレワークや地元散策など各自の自由時間を設けました。当時はテレワークが主流だったため、社会人でも参加できる人が多く集まりました。2週間という濃厚な時間を過ごした人たちの中には、農業留学した地域をその後も定期的に訪問されたり、その地域に就職されたという話も伺い、このような機会を提供することで地域の関係人口をつくることができると実証できた瞬間でもありました。

インタビューの様子03-日本航空(JAL)バンコク支店の澤田敬文支店長

日本の翼でタイ人を日本へ誘客

Q. タイ駐在中に成し遂げたい目標は

澤田支店長:バンコクに赴任して何ができるかを考えた時に、自分自身が架け橋となってタイの人々を日本に誘客し、地域の関係人口増に貢献したいと思いました。コロナが収束し、旅行需要が回復した昨年、日本を訪れたタイ人は約100万人に対し、タイを訪れた日本人は約80万人と、日本からタイへの移動が多かったコロナ前に比べ逆転のトレンドになっています。

インバウンド観光は、日本の成長エンジンになっていますが、京都など一部の観光地はオーバーツーリズム現象が起きており、環境に過度な負荷がかかるなど、持続可能な観光産業とは言えなくなっています。今後は有名な都市だけでなく、地域に誘客し需要を分散していくことで、環境負荷を軽減しオーバーツーリズムを回避したいと考えています。日本の地域には、まだ知られていない魅力がたくさんあります。タイの人々にも地域に足を運んでもらい、その素晴らしさを実感し、関係人口になってもらえるよう、ステークホルダーと連携しながら推進していきたいと考えています。

Q. タイ人を日本の関係人口にできるか

澤田支店長:タイ人旅行者の3つの特徴として、①長い②若い③多い−の3つのキーワードが挙げられます。1つ目の「長い」は、滞在日数の長さのことで、10日から2週間かけて、ゆっくりと家族と旅行を楽しむ旅行者が多い傾向にあります。2つ目の「若い」は、タイ人旅行者の年代です。日本で言われるアクティブシニア層ではなく、30代がコア層で、次に20代、40代が続きます。日本の地域には二次交通の課題が多くありますが、若い層が多いことからレンタカーなどを借りてアクティブに動き、滞在も長いため、周遊型の旅行スタイルになり、宿泊や食事などをすることで地域への経済効果が生まれます。最後の「多い」は、訪日回数のことで、7割以上の方が日本へのリピーターとなって頂いており、関係人口を作りやすい旅行者が多いということになります。こうした特徴から、当社の強みを活かして、日本の地域への関係人口を増やすポテンシャルは十分にあると考えています。

航空事業からの脱却で付加価値を生む

Q. JALが目指す未来とは

澤田支店長:多くの人々やさまざまな物が自由に行き交う、心はずむ社会・未来に向け、「安全・安心な社会」と「サステナブルな未来を創ること」を目指し、多くの人々から愛されるエアラインになりたいと考えています。世界がコロナ禍を経験し、収束後に人々が再びリアルに出会える価値が改めて再認識されました。

これまで様々な外部リスクや幾多の危機に直面した経験から、同じ轍を踏まないよう、ただ人や物資を運ぶだけの航空事業からの脱却が急務であり、移動を通じて、社会課題に対するソリューションを提供し、持続的に企業価値を向上していきたいと考えています。

またサステナブルな未来を創るためにも、空のカーボンニュートラル実現に向けて、航空運送事業におけるCO2排出量削減は最重要課題であると認識しており、国際航空に課せられるCO2排出規制も今後さらに進む可能性があります。このような環境下、自社排出量の削減については、A350といった省燃費機材への更新、日々の運航での工夫、ジェット燃料と比較して最大約80%のCO2削減効果があるSAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)の活用などにより、従来の取り組みを加速させてまいります。

THAIBIZ編集部

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