現地起点の挑戦を促し、在タイ製造業の頼れる存在に ~東洋ビジネスエンジニアリングタイランド 渡邉祐一社長

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    現地起点の挑戦を促し、在タイ製造業の頼れる存在に ~東洋ビジネスエンジニアリングタイランド 渡邉祐一社長

    公開日 2025.07.08

    製造業の現場を支えるITパートナーとして、日本発のERP※「mcframe」を軸に、アジアを中心に世界展開するビジネスエンジニアリング(以下B-EN-G、ビーエンジ)。同社のタイ法人を率いる渡邉祐一社長は、企業活動の土台である「地道な現場業務」に価値を見出し、現地人材を主役とする組織づくりを推進している。12年のタイ駐在を経て、現在は本社でグローバル事業の指揮も執る同氏に、タイ拠点の可能性と人材育成の在り方、製造業の変化について聞いた。

    ※Enterprise Resource Planning。企業の持つ資金や人材、設備、資材、情報などの資源を統合的に管理・分配し、業務の最適化を目指す手法。また、そのために導入される業務横断型のソフトウエアパッケージのこと。

    (インタビューは6月5日、聞き手:mediator ガンタトーンCEOとTHAIBIZ編集部)

    東洋ビジネスエンジニアリングタイランド 渡邉祐一社長(左)、mediator ガンタトーンCEO(右)

    製造業の“地道な”現場業務に特化したITサポート

    Q. B-EN-Gの事業とタイ進出のきっかけ

    渡邉社長:B-EN-Gは、東洋エンジニアリングのシステム部門が独立して誕生した会社です。製造業向けERPソリューションである、SAPや自社開発の「mcframe(エムシーフレーム)」の導入支援を中心に、ITを通じてものづくりを支える事業を展開しています。

    もともとは、日系製造業へのSAP導入からスタートしましたが、日本の製造業の現場から「欧米系のERPは合わない」「もっと柔軟な仕組みが欲しい」という声を多くいただき、それを受けてmcframeが開発されました。

    B-EN-Gのタイ現地法人である当社は、アジアの中小企業向けにERPを展開していたA.S.I.A.事業を統合する形で2007年にスタートしました。私が赴任した2011年当時は、まだ販売中心の組織で、導入や稼働後の支援体制が整っていませんでした。そのため、現地で人材を採用・育成しながら、販売から稼働後の支援までを一貫してできる体制を作り上げていきました。

    Q. mcframeの特徴と、他社にない強みは

    渡邉社長:生産管理、販売管理、原価管理など、製造業に必要な多数の機能を標準で備えつつ、日本の複雑な商習慣や、現場のきめ細かな要求に深く対応できるよう設計されたパッケージです。製造業は、業種や工場ごとに要件が大きく異なるため、各工場の強みや特徴を理解してシステムを導入する必要があります。私たちはそうした「現場の強み」に徹底的に向き合い、要件の整理からソリューションの開発、運用定着まで、お客様がしっかりとシステムを有効活用するまで伴走するスタイルを取っています。

    手間も時間もかかる仕事ですが、そこを避けずにやり切る姿勢こそが私たちの価値だと考えています。こうした“泥臭い”サポートが信頼につながり、現在タイ国内で200社以上にサービスを提供しています。

    東洋ビジネスエンジニアリングタイランド 渡邉祐一社長インタビュー06

    在タイの日系製造業が抱える課題

    Q. IT支援をする中で見えた、日系企業特有の課題は

    渡邉社長:日系企業は、現場の声を丁寧に吸い上げて全体最適を図る「ボトムアップ型」の意思決定を重視します。これは日本らしい強みですが、ERPのようなシステム導入では時間がかかる要因にもなります。

    一方、欧米企業はトップダウンで方針を素早く決め、細部の調整はシステム導入後に行うのが一般的です。その結果、システム導入期間が日系企業の半分以下になるケースも多く見受けられます。このように、丁寧に品質の高いシステムをつくり上げることは強みである反面、市場変化に俊敏に対応するスピードとのバランスが求められます。

    Q. そのような状況の中で、B-EN-Gが果たす役割は

    渡邉社長:システム導入のプロジェクトには多くの人が関わります。海外拠点では言語や文化、歴史的な背景により、現場と経営層、また日本人駐在員とローカルスタッフがお互いの本音を話せずにいるケースも多くあります。

    そういったときに、私たちが第三者として間に入り、双方の認識をすり合わせて円滑な意思決定を支援することも、一緒に仕事をさせて頂く上での付加価値だと考えています。お客さまの中にある情報や意見を引き出し、関係者が理解できるように分かりやすくして共有する。その作業を丁寧に積み重ねることで、結果的にプロジェクト全体のスピードと質が上がっていくのだと思います。

    タイ人を信じて任せる、新しい挑戦が生まれる現場へ

    Q. タイ赴任当初、苦労したことは

    渡邉社長:最初の1~2年は、かなり戸惑った記憶があります。日本では「あうんの呼吸」で通じることが、こちらでは一つひとつ言葉にして丁寧に伝えないと伝わりません。相手のアウトプットが想定と異なる場合は、必ずこちらの指示や依頼の出し方に問題があります。目的や背景をしっかり共有しなければ、相手も納得して動くことができないのです。

    そうした経験を積み重ねる中で、徐々に相互理解が深まり、今では「言わずとも伝わる」関係性が築けていると思います。

    東洋ビジネスエンジニアリングタイランド 渡邉祐一社長インタビュー01

    Q. タイ人リーダーの成長と、駐在員の役割はどう変化しているか

    渡邉社長:現在、当社のマネージャークラスはすべてタイ人で構成されています。かつては私が直接一人ひとりを育てていましたが、今は彼らが人材育成をしています。これは組織として非常に大きな成長です。そのため日本人駐在員がいなくても、現場が安定して回る。そんな体制が徐々に整ってきました。

    そうなると、駐在員に求められる役割も自然と変わってきます。理想は、日本人とタイ人がフラットな関係で互いの強みを活かし合うこと。日本は長期的な取り組みに対する継続力や現状の問題を構造化することに長け、タイは新しい考えに対する柔軟さや物事を始めるスピード感に優れています。そのため、お互いの違いを強みとして掛け合わせ、新しい価値を共創していくことが、これからの駐在員に求められる役割だと思います。

    Q. タイ市場を起点にした取り組みとは

    渡邉社長:日本本社には「新しいことはまずタイで始めよう」と伝えています。タイは新しい技術やサービスに対する感度が高く、新しい取り組みをチャレンジするにはとても良い環境です。実際に、タイ拠点主導でIoTアプリケーションを開発し、現在、他国への展開を視野に入れて活動しています。

    タイ拠点主導で開発したIoTアプリケーション「LIPE LOSS TEMPLATE」は日本プラントメンテナンス協会でTPM優秀商品賞を受賞

    私は、グローバル部門を兼務して他拠点もマネジメントする立場なので、タイ人スタッフを積極的に他国へ派遣するなど人材交流も進めています。将来的には、各国のローカルリーダー同士が国境を越えてつながる多拠点型ネットワークを築いていく予定です。

    製造業の未来と、支援のかたち

    Q. 製造業の今後をどのように見ているか

    渡邉社長:特に意識しているのは、サーキュラーエコノミーのトレンドです。かつての大量生産大量消費の時代は終わり、製造業の役割も「物を作り売って終わり」という時代から、実際に販売後の利用状況を把握して、どのタイミングでメンテナンスを行う必要があるのか。そして、利用が終了した製品の再利用までを含めた価値提供が求められていると考えています。まさに「モノ売りからコト売りへ」という変化が起きており、実際にお客さまからもビジネスモデルの変革に関する相談を受けています。

    Q. B-EN-Gとしての展望は

    渡邉社長:ERPにとどまらず、製造業支援に必要なことを柔軟に提供していきたいと考えています。そのため、タイで自社開発したIoTアプリケーションや、日本本社で提供しているデータ分析サービスの現地展開を予定しています。現場の変化にあわせて自分たちも進化し続ける。そんな柔軟性と現場起点の発想を、これからも大切にしていきます。

    Q. 最後に、渡邉氏自身のビジョンは

    渡邉社長:当社は、2023年にブランドメッセージを刷新し「世の中に創造業を増やす」というパーパスを掲げています。私はこのメッセージを「世の中に新しい価値を生み出す会社が、数多く誕生するよう支援すること」と解釈しています。

    東洋ビジネスエンジニアリングタイランド 渡邉祐一社長インタビュー04

    社会人としてある程度経験を積むと、物事の展開がある程度予測できるようになります。そのため、先に何が起こるか読めてしまい、新しいアイデアが思いついても「どうせ通らない」あるいは「話は聞いてもらえるが具体的なアクションにはつながらない」と想像してしまい、自ら新しい一歩を踏み出すことを止めてしまう人がいると思います。特に真面目で、仕事の能力が高い人ほど、その傾向が強いと感じています。私としては、そのような人の背中をそっと押す役割を担いたいと思っています。

    タイにも日本にも、おもしろい発想や可能性を秘めた人がたくさんいます。そうした人たちが自分の力を信じて一歩を踏み出せるよう、IT技術やB-EN-Gが蓄積してきたノウハウで支援することが、私たちの仕事の本質だと考えています。

    Interviewee Profile

    Toyo Business Engineering(Thailand)Co., Ltd.
    渡邉祐一 社長

    2000年にB-EN-G入社。2011年よりタイ法人「東洋ビジネスエンジニアリングタイランド」へ赴任し、2018年から同社社長として経営に携わる。現在は同職と並行して日本本社でグローバルビジネス推進本部長を兼任している。

    THAIBIZ編集部

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