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カテゴリー: 自動車・製造業, 食品・小売・サービス
連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2026.01.23
マスクで認知が一気に広がったコロナ禍のタイ進出から5年。アイリスオーヤマタイは現地で販売する商品のほとんどを自社工場で生産し、日本品質を強みに、BtoC・BtoBの両軸で事業を拡大してきた。その成長を支えたのが、ユーザー評価を起点とするタイ式のKOL※マーケティングだ。Eコマースの拡大を追い風に、家電や日用品から飲料分野へと展開を広げる海野正高社長に、「売って始まり」の顧客接点づくりとASEAN戦略の可能性を聞いた。
※Key Opinion Leader=特定の分野で強い影響力を持つ人物のこと。
(インタビューは11月25日、聞き手:THAIBIZ編集部)

目次
海野社長:タイ法人を設立したのは2020年です。当初は日本製品の販売拠点だけでなく、仕入れ拠点としての可能性も見据えていました。タイには優れたサプライヤーが多く、当社の原点であるプラスチック製品に欠かせない金型分野でも強みがあると考えていたためです。加えて、ASEAN市場全体を見据えた事業展開の起点として、タイは重要な拠点になると判断しました。
海野社長:結果的に、マスク事業が立ち上がる形になりました。当時、マスクは価格統制品で、メーカーが自由に価格を設定できる商品ではありませんでしたが、そうした中、ローカルの検証系雑誌が複数の製品を比較し、当社のマスクが防護性能の面で高く評価されたことが大きな転機になりました。そこから一気に認知と信頼が広がり、現在までに約6億8,000万枚を販売し、当社を象徴する商品として位置づけています(図表1)。

海野社長:マスクをきっかけに認知を獲得した初期フェーズを経て、現在はBtoC・BtoBの両軸で事業を広げる段階に入っています。BtoCでは家電や日用品に加え、飲料分野にも展開し、BtoBではLED照明や配膳・清掃ロボットなど省エネや省人化といった領域で提案を強化しています。

海野社長:タイに来てまず驚いたのは、SNSが生活の中に完全に入り込んでいることです。普及率の高さだけでなく、一般の生活者が発信するレビューや評価が、そのまま購買行動に直結しています。日本やヨーロッパでは、企業が情報を整理して伝える比重が大きいですが、タイでは「実際に使った人がどう感じたか」が強い影響力を持っています。この違いは、現地に来てみて実感したことです。
海野社長:当社では、KOL向けに新製品の展示会を定期的に開催しています。芸能人や有名人ではなく、一般の主婦の方やマイクロインフルエンサーを中心に招き、実際に商品を見て、使ってもらう。その評価が、TikTokやShopee、Lazadaなどのライブ配信を通じて広がり、購買につながっていきます。企業が一方的に情報を発信するのではなく、ユーザーの言葉を起点に回っていく点がタイ市場の特徴であり、非常におもしろい点ではないでしょうか。


KOL向けに開催している新製品の展示会 写真提供:アイリスオーヤマタイ
海野社長:健康志向の高まりを背景にペットボトルタイプの炭酸水が好評で、今後も販売が拡大すると見ています。飲食店にも使用いただいていますし、バンコクでのマラソンイベントなどでは炭酸水のサンプリングを行い、実際に飲んでもらう機会も重ねています。KOLによる発信と実際に体験してもらう場を提供することで、双方から顧客アプローチを行っています。


マラソンイベントで行っている炭酸水のサンプリング 写真提供:アイリスオーヤマタイ
海野社長:アイリスグループの多様な商品展開に加え、メーカーベンダーとして物流機能を備えていることも当社の強みの一つです。多品種を1つのコンテナに混載・輸送する「コンテナミキシング」により、積載効率を最大限に高めることができるため、物流コストを抑え、値ごろな価格での提供が可能になっています。
海野社長:一番大きいのは、「売った後のお客様との接点の創出」を意識してきたことだと思います。なかでも家電は、長く使用されることが多いので、一度購入すると次の接点までどうしても時間が空きます。加えて、紙のレシートや保証書は紛失されやすく、購入後のフォローが難しい。商品を気に入っていただいても、その先の関係を築きにくい点は以前から課題でした。そこで、販売後の接点をどう設計するかを考えました。
海野社長:タイではデジタルツールが生活に深く浸透しています。だからこそ、販売後の接点ももっと工夫できるのではないかと考えました。そこで導入したのが、LINEを活用した保証登録です。購入後にLINEで簡単に登録してもらうことで、顧客との接点をデジタル上に残すことができる。そこから消耗品の案内や関連商品の情報提供へとつなげています。「売って終わり」ではなく、「売って始まり」の関係をどうつくるか。その考え方を軸に、顧客とのつながりを継続的に育てる仕組みづくりを進めています。

海野社長:タイは、単に市場規模が大きいというだけでなく、ASEAN全体を見渡したときに非常にバランスの取れた拠点だと感じています。EコマースやSNSの普及度が高く、消費者の反応も早い。ここで通用するモデルは、他国でも応用しやすいという手応えがあります。実際、ShopeeやTikTokといった主要プラットフォームは、ベトナムやマレーシアなど周辺国とも共通しており、顧客層や購買行動にも近い部分が多い。そうした意味で、タイはASEAN全体を見据えた事業展開の試金石になる市場だと考えています。
海野社長:まずは、タイで築いてきた販売モデルをそのまま横に広げていくことを想定しています。KOLを起点にした商品評価の広げ方や、「売って始まり」の顧客接点づくりは、国が変わっても通用する考え方です。一方で、すべてを同じ形で展開するつもりはありません。各国の文化や購買習慣に合わせて調整しながら、タイで磨いたやり方をベースに最適化していく。その司令塔としてタイ拠点が機能していくことを目指しています。
海野社長:事業が拡大する中で、次に向き合うべき課題は人材と供給だと考えています。タイではジョブホッピングが一般的で、賃金も上昇しています。教育しても人が入れ替わりやすいのは事実ですが、タイ人は非常に優秀で真面目です。問題が起きた時も、原因をきちんと見て解決しようとする姿勢が強い。これは驚くべき点です。
だからこそ当社では、リーダー候補を日本へ派遣する逆赴任を続けています。日本の現場やグループの規模を体感し、学んで戻ってきた人材が、将来の中核を担っていく。時間はかかりますが、確実に力になる取り組みだと考えています。
海野社長:当社は現地で販売する商品のほとんどを自社工場で生産する体制を強みとしていますが、中国依存のリスクも意識しています。ASEANでの市場拡大を見据え、将来的には供給体制の柔軟性も含めて検討していく必要があります。人材と供給、この二つを固めることが、次の成長につながると考えています。

IRIS OHYAMA(THAILAND)CO., LTD.
海野正高 社長
2005年アイリスオーヤマ入社。リテール営業を担当した後、2017年から海外グループの経営企画に携わる。2019〜2022年まで欧州拠点の社長を務め、2024年より現職。BtoC事業を中心に、タイ市場での販売と事業運営を担いつつ、タイを起点としたASEAN展開を推進している。

THAIBIZ編集部
和島美緒

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