豊富なアセットで物流を設計、タイ産業の世界戦略を支える〜近鉄エクスプレスタイランド 春原慎介社長

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豊富なアセットで物流を設計、タイ産業の世界戦略を支える〜近鉄エクスプレスタイランド 春原慎介社長

公開日 2025.09.18

1948年創業以来、世界各国に物流拠点を広げてきた大手総合国際物流企業、近鉄エクスプレス(KWE)。THAIBIZでは、今年4月に同社タイ法人(以下、KWEタイランド)のトップに着任した春原(すのはら)慎介社長を取材した。古くからタイと深い貿易関係がある米国中西部・シカゴでの駐在を経験した同社長に、グローバル視点で見るタイ産業の多様性と貿易・物流拠点としての今後の戦略と展望について話を聞いた。

(インタビューは8月22日、聞き手:THAIBIZ編集部)

KWEタイランドの春原社長

フルアセット型拠点としての存在感

Q. タイ法人の事業規模は

春原社長:KWEタイランドは1989年に設立され、現在は正社員1,167名が在籍しています。これは日本本社の社員数に近く、グループの中でも突出して大きな事業体です。航空・海上輸送では輸出入の両方を取り扱い、国内には12ヵ所の倉庫を保有。荷物の保管に加え、流通加工作業なども展開しています。私自身も赴任してみて、そのスケールの大きさを改めて実感しているところです。

Q. 他の拠点と比べた際のユニークな強みは

春原社長:最大の特徴はアセットの豊富さです。倉庫やトラックを自社で保有し、製造ライン移設や設備工事まで担える部門もあります。2011年に現地物流会社TKK Logisticsを統合したことで国内資産と国際物流スキルを融合でき、サービス領域が大きく広がりました。通常「アセットライト」が基本の当社グループにおいて、トラックやガソリンスタンドまで保有・運営する点は特異で、タイ拠点ならではの強みです。

KWEタイランドが保有するトラック 提供:KWEタイランド
KWEタイランドが保有するトラック 提供:KWEタイランド

一方で、組織が大きくなると横の連携が希薄になり、社内リソースを十分に展開、活用できていないケースも目にします。今後は、当社の豊富なアセットやサービスに磨きをかけ、部門連携をさらに強化し、お客様へのソリューション提案を推し進めたいと考えています。

シカゴで培った「タイとの関係」

Q. 春原社長のこれまでの経歴は

春原社長:日本の日台韓本部(日本・台湾・韓国の3ヵ国を統括)に勤務する前は、米国・シカゴに7年半駐在し輸入業務を担当していました。その中でも、タイから米国に輸入される物量は非常に多かったと記憶しています。シカゴ駐在を通じて東南アジア各国との関係を現場で実感でき、タイのビジネスと接点を持ったのもこの時期でした。

Q. 事業を担う視点から見たタイの特徴は

春原社長:一部では先進的な取組みが進んでいる一方、紙や人手に依存する作業も多く残っていると感じています。物流業界での単純なオペレーション作業は、当然AIを活用したオペレーションに移行していき、人が担当する仕事は付加価値のある業務へシフトさせることが重要です。AI、デジタルの活用度合いには拠点ごとに差があり、今後はその進化度合いがビジネスの成果に大きく影響します。

近年、タイでは中国や台湾などの企業進出がさらに増え、さまざまな要求やスピード感を求められるため、われわれも常にフレキシブルな考えと体制を準備していきたいと考えています。

中国・台湾との連携からASEANのハブ機能まで

Q. 最近のタイ拠点における変化は

春原社長:ここ数年、中国や台湾からのお客様が増加しています。こうした動きを受け、当社も「チャイナ・コネクト」を掲げて、EC物流やレムチャバンなどEEC(東部経済回廊)エリアでの需要へ向けた対応を強化しています。さらに、BYDをはじめ中国企業の進出が相次ぎ、それに伴ってサプライヤーも中国からタイへ移転しています。背景には米中関税政策の影響があり、生産移管の受け皿としてタイの重要性は一層高まっています。

Q. タイ拠点に求められる役割とは

春原社長:KWEタイランドは当グループの東南アジア・オセアニア本部に属しています。地理的には東南アジアの中心に位置し、大メコン圏(GMS)の物流ハブとして重要な役割があります。そのため、タイ単体ではなく、複数国をまたいだ物流がさらに増えています。その国際物流のコントロールをタイをハブに統括する場合もあれば、他国(シンガポール等)を中核に据える場合もあり、いずれにせよ周辺国との横連携を強化し、広域サプライチェーンを支える役割が求められています。

タイ市場は成熟、競争も激しいため差別化が鍵

Q. 成長分野として注力されている領域は

春原社長:当社は産業別での営業体制を敷いており、なかでも半導体、自動車、ヘルスケアに注力しています。特にヘルスケアは医療機器やワクチン輸送の実績があり、タイでも高齢化や所得向上に伴い需要が拡大すると見込まれているため、食品・医療分野を支えるサプライチェーンビジネスへの営業をさらに強化していきたいと考えています。

Q. タイで事業をするメリットは

春原社長:タイの強みはまず地理的優位性です。カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムといった周辺国と陸路でつながり、中国にも近い。欧米、オセアニア、インド、さらにはアフリカ東岸へも容易にアクセスできます。空港や港湾などのインフラも充実、コールドチェーン設備も整っており、物流拠点として高いポテンシャルがあります。

一方で市場は成熟し、競争も激しいため、単なる参入では勝てません。強みであるインフラ、グローバルネットワークを活かし、産業別ソリューションで差別化を進めることが重要です。

Q. 競争が激しいタイ市場でどう差別化を図るか

春原社長:物流は今、「運ぶ」だけでなく「設計する」までニーズ広がっています。単純にA地点からB地点へ貨物を運ぶだけでは差別化は難しく、価格やスピードの勝負に陥ってしまいます。重要なのは、世界各地のネットワークを活かし、お客様のサプライチェーン全体を最適化する提案を行うことです。工場の移設、原材料の調達から生産、完成品の納品に至るまでの流れを把握してこそ、本質的な課題が見えてきます。

KWEタイランドは製造ライン移設や設備工事まで担う 提供:KWEタイランド

また、提案営業から構築したお客様との関係があれば「実はタイではなくインドでこうした課題がある」といったタイ以外のビジネスの相談をいただくことも少なくありません。その際、当社は広域なネットワークを持つため、タイムリーで具体的な対応策を示すことができます。物流を点ではなく面で捉え、グローバル規模で解決策を提供できることが当社の強みです。

変化に対応できる組織づくりを目指す

Q. そうした変化に対応するため、人材育成をどのように考えているか

春原社長:当社には現在1,167名の社員がいますが、日本人駐在員は限られています。現場を担うのはタイ人スタッフであり、彼らが能力を発揮できる環境を整えることが不可欠です。評価制度や研修体系、語学力向上の支援を通じて成長を後押しし、能力のある人材には責任あるポジションを任せていきたいと考えています。

Q. 今後、タイ人材の可能性は

春原社長:タイには本当にさまざまな人材がいて、タイ人のみならず現地採用の日本人、台湾人、その他アジア圏出身者、欧米人など、大きな可能性を秘めた多様性のあるタレントが存在します。そうした人材を見つけ出し、グローバルな舞台で活躍できる人材へと育てていくことが重要だと思っています。

例えば、「海外で仕事をしてみたい」という社員が出張や研修などのプログラムを通じて一度でも海外を経験すれば、異なるライフスタイルや働き方に気づくことができる。そうして視野の広がった人材が戻れば、組織全体にも新しい価値観が還流するはずです。

KWE 近鉄エクスプレス春原慎介 社長

また、マネジメント面でも、海外経験を持つと人は変わります。言うべきことはしっかり言い、必要以上に期待せず、確認すべきことはきちんと確認する。一方で、あえて目をつぶるところは目をつぶり、しかしポイントは外さない。そうしたバランス感覚を持てるようになる。さらにチェーン・オブ・コマンド(指揮命令系統の一本化)を意識し、明確にすることで、意思決定のスピードや実行力も高まっていくと考えています。

私自身も米国で、タイ系アメリカ人の上司と共に働いた経験があります。アメリカ的な考えとタイの文化的背景を併せ持つ方で、多様な文化を融合させた働き方は非常に刺激的でした。そうした環境に身を置くことで、人は大きく成長できると実感しています。

Q. 最後に、自身が掲げるミッションは

春原社長:変化を恐れず、トライ&エラーを重ねながら、常に柔軟に対応できる会社でありたい。そのためには人材を育て、現場を強化し、グローバルネットワークを最大限に活かしていくことが必要です。タイから世界へ人とビジネスが飛び出していける環境を整備し、次世代を担うグローバル人材を後押ししていくことが、今の私に与えられた使命だと考えています。

Interviewee Profile

KWE-Kintetsu World Express(Thailand)Co., Ltd.
春原慎介 社長

米国中西部の輸入支店の責任者としてシカゴに7年半駐在。2022年より日本・台湾・韓国の3ヵ国を統括する日台韓本部で副本部長兼セールス&マーケティングセンター長を務め、各法人の営業活動のサポート、グローバル顧客のセールス&マーケティングを担当。2025年4月より現職。

THAIBIZ編集部
和島美緒

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