
連載: 在タイ日系企業経営者インタビュー
公開日 2026.03.10
タイで日系製造業の工場を支えてきたトスプラントエンジニアリングタイランド。電気工事を起点に、工場建設、省エネ・再エネ設備工事へと領域を広げてきた。同社が一貫して重視してきたのは、「設備を入れること」ではなく、工場の生産を止めないことだ。東芝グループの一員として、34人の現地組織で工場の現場とどう向き合ってきたのか。吉仲社長に、タイでの事業と人への考え方を聞いた。

目次
吉仲社長:当社の設立は1993年2月です。ちょうどバンカディ工業団地(バンコクとアユタヤの間)にある東芝グループ系列の工場が立ち上がる時期で、当初は電気工事やエンジニアリング、工場建設のサポートなどを行ってきました。
現在は、民間企業の工場建設からタンクや配管などのプラント設備、制御システムまでを一括で対応しています。特に「電気や水・蒸気をどう供給するか」といったユーティリティの部分を得意としています。工場を動かすための“裏側”を支える仕事です。
吉仲社長:主に日系民間企業で、自動車関連(自動車メーカー、プラスチック、ケーブル、塗料メーカーなど)で生産工場を持たれる企業です。案件の規模により、親会社である日本の「東芝プラントシステム」と連携して対応することもあります。
吉仲社長:ここ5年ほどで急激に増えたのが、工場の屋根に設置する「太陽光発電」です。2021年頃からタイ国内で脱炭素への意識が高まり、二酸化炭素(CO2)削減の取り組みの一つとして注目されました。
当社がもともと得意とする電気設備のノウハウを活かして、設計から施工・メンテナンスまで一括で対応できる点が評価されたと考えています。最近では太陽光発電に加え、「蓄電池」を併設するなどの+αの提案に力を入れ始めています。


太陽光発電設備と試験作業の様子 写真提供:トスプラントエンジニアリングタイランド
吉仲社長:太陽光発電と同様に、CO2削減につながる環境配慮型の設備として、電力と熱を同時に利用することができるコージェネレーションシステムにも注力しています。さらに最近は、デジタルトランスフォーメーション(DX)やITを使った「見える化」にも取り組んでおり、工場のどこで電気が使われているかをデータで把握し、設備更新だけでなく運用全体の改善につなげています。
吉仲社長:よく「東芝といえば、大きな発電所を建設する会社だろう」と言われることが多くありますが、実際はそうではありません。東芝グループの業務範囲は広いですが、当社は「小回りが利く」のが強みです。
小規模の電気設備工事から、工場の建設までフレキシブルに対応しています。「設備が古くなったが、このまま電気は使えるのか」といったご相談を受けることから始まることが多く、ひとつ一つの仕事を積み重ね、お客様との信頼関係を築いていくことを大切にしています。
吉仲社長:タイと日本では電圧も違えば、気候条件も違います。日本の設備が、そのままタイで使えるとは限りません。駐在する日本人の方も、生産や経営に注力されるため、ユーティリティを細かなところまで見ることが難しいのが実情です。そこで、私たちは設備の細部まで確認し、「この条件なら問題ないか」「ここは変えたほうがいいか」といった工場の“生産を止めない”提案を行っています。
タイは東南アジアの中では比較的、電力が安定している国だと思います。ただ、製造業では一瞬の電圧低下、いわゆる「瞬低」が製品不良につながります。ユーティリティのトラブルは、ある日突然起きることが多く、そうなると生産が止まってしまう。だからこそ、ユーティリティ設備は、入れる段階から「止めない前提」で考えることが重要だと思っています。

吉仲社長:われわれの業界はレッドオーシャン(競争激化)になってきています。タイのローカル企業の技術レベルが相当上がっており、今までのような「日系だから」「日本品質だから」というだけでは選ばれない時代です。 昔は日本の職人技が必要だった作業も、技術進歩でタイの人材でもできるようになりました。だからこそ、「なぜトスプラントに頼むのか」「他社との違いは何か」という付加価値を常に模索しています。
吉仲社長:一つは、設備単体ではなく、「工場全体をどう安定して動かすか」という視点で見ている点です。普段あまり意識せずに使っている電気、水、蒸気といったユーティリティは、トラブルが起きると生産に直結します。そうした部分を含めて、工場全体を見ながら支えることを意識しています。
もう一つは、日本のやり方をそのまま当てはめるのではなく、その工場、その現場にとって何が一番良いのかを、タイのエンジニアと一緒に考えてきた点です。時に、仕事の進め方や考え方の違いで意見がぶつかることもありましたが、互いの考えを聞きながら一番良い方法をともに考え、生み出すようにしています。
吉仲社長:私もエンジニア出身ですので、タイ人エンジニアとの間で仕事の進め方や考え方の違いから意見が合わないことが、これまで何度もありました。
例えば、「この配線は左回りがいい」「いや、右回りの方が合理的だ」といった、正解が一つではない話です。「日本ではこうやっている」と言えば、タイ側は「ここはタイだ」となり、時に感情的になって、意見をぶつけ合う状態になったこともあります。
そうした場面では、まずは相手の言い分をきちんと聞くことが大切です。どちらが正しいかではなく、「なぜそう考えるのか」を理解しなければ、前に進みません。お互いを尊重することを積み重ね、結果的に一番良い方法を見出す。それがチームとしての強さにつながっていると思います。
吉仲社長:当社は比較的、長く働いているスタッフが多いです。設立当初から30年以上在籍している社員や、辞めて別の会社で働いた後、また戻ってきた人もいます。私が最初に赴任した頃から一緒に働いているメンバーはお互いのことをよく分かっている部分もあり、仕事はやりやすい環境だと感じています。
吉仲社長:「仲間である」という意識を持つことです。私自身、タイに長くお世話になっており、この国への恩返しをしたいという気持ちが強いので、なおさらかもしれません。この意識は私の帰任後も、駐在する日本人には持ってほしいと願っています。また、日本の若いエンジニアにも、ぜひ海外での経験を積んでほしいです。技術だけでなく、異なる文化の中で考える力を、次の世代につないでいければと思っています。

Tosplant Engineering(Thailand)Co., Ltd.
吉仲秀年 社長
2006年に電気エンジニアとしてタイ初赴任。2010年に帰国も、翌年大洪水の復旧対応で再訪。その後営業職を経て、2021年より再赴任・現職。約10年の現地経験を活かし、電気設備工事を中心に在タイ日系製造業の工場をサポートする。

THAIBIZ編集部
和島美緒

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