ArayZ No.147 2024年3月発行タイの歴史の振り返りと未来展望
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公開日 2024.03.10
経済成長に伴う食生活の欧米化や高齢化によって、タイなど東南アジア諸国でも近年患者が増えているがんなどの消化器系疾患。タイでは大腸がんが死因3位の癌である。ところが、有効な治療法である内視鏡や腹腔鏡を扱える医師が十分におらず、人口あたりの消化器内視鏡医の数は日本の9分の1程度である。
こうした課題に貢献したいと立ち上がった日本の企業がある。医療機器メーカーのオリンパスは、バンコク郊外に医療従事者向けの研修施設を建設し、アジア一円から多くの人材を受け入れている。
木下 タイや世界の内視鏡医の現状はいかがですか。
得田 かつては開腹手術が中心だったがんなどの治療も、近年は患者への負担が少ない内視鏡や腹腔鏡を使ったものへと変わってきました。この分野で世界をリードするのが日本の医学会です。内視鏡が扱える日本人の医師は、最新のデータで人口10万人あたり世界トップレベルの28.2人。アメリカの4.7人、中国の2.8人と比べても際立っていることが分かります。
一方、タイのそれは3.1人。近隣のマレーシアやベトナムはそれぞれ1.8人、1.1人といずれも低水準にとどまっています。世界最多の人口を擁するインドにいたっては0.7人。ことアジアでは、内視鏡医の育成が喫緊な課題として認識をされています。タイについてはJICA事業を活用し、内視鏡及び内視鏡医の育成ニーズが高いことが確認できたことをきっかけとして現在の事業につながっています。
こうした要請を受けて、内視鏡メーカーである当社が着手をしたのが内視鏡医を育成するための研修施設(トレーニングセンター)の建設です。まずは2000年代初頭に中国・上海に開設。次いで北京、広州に順次設置した後に、16年4月、タイ・バンコク東郊の4,800平方メートルの敷地に地上4階建ての「Olympus Thai – Training & Education Center(T-TEC)」をオープン。その後、韓国・ソウルにも同様の施設を建てました。
木下 タイのトレーニングセンター「T-TEC」は、どのような施設ですか。
得田 実際の医療現場で使用される消化器内視鏡や、外科用内視鏡、外科手術向けのエネルギーデバイス、内視鏡用の洗浄消毒装置などを配備した模擬手術室(トレーニングルーム)が備わっており、実際の医療現場同様の設備と環境で最先端の技術トレーニングを受けていただける場となっています。 常に技術の向上を目指す医療従事者に、質の高い学びの機会と場所を提供するベースキャンプのような存在でありたいとの願いをもってT-TECを運営しています。
タイだけでなくアジア各国の研修医が多忙な業務の合間を縫って当地に集います。教官役を務めるのも、もっぱらアジア出身のベテラン医師たち。アジア共通の課題を、国境を越えて解決しようという意欲と情熱がここにはあります。これまでに約2,700人の研修終了医が巣立って行きました。
木下 各地の医療現場からは、どのような声が寄せられていますか。
得田 研修を受講した内視鏡医を対象に実施している満足度調査では、常に高い評価をいただいております。このような機会はめったにないと、複数回受講される方もいらっしゃいます。周辺の後進国や辺境の地域などでは十分な医療設備や教育機会に恵まれず、技術の取得も容易でないケースが少なくありません。タイもかつてはそうした例の一つでしたが、今では医療先進国シンガポールに肩を並べる存在となっています。周辺後進国・地域の医療の底上げが何よりも大切です。
木下 どのような思いから、本研修施設を運営しているのですか。
得田 私企業ですから、社員や株主のためにも当然に利益は追求しなければなりません。しかし、それだけでは社会の構成員としての役割は果たせません。その国のニーズを正確に把握し、効果のある社会貢献を進めていく必要があります。そのためにはJICAの企業支援事業などを活用していくことも効果的です。もちろん、現地の大学病院や医療NGOとの協力も欠かせません。関係機関と友好関係を保ちながら、現実的で実行力のある腰を据えたアプローチを心がけています。
Olympus (Thailand) Co., Ltd.
1999年に現地法人OLYMPUS (THAILAND) CO., LTD.を設立。バンコクの本社機能に加え、北部チェンマイと東北部コンケンに支店を置き、全国をカバー。タイで深刻な都市部と地方との医療格差の解消にも尽力。
Olympus (Thailand) Co., Ltd. 33/4 The Ninth Towers, Tower A, 32nd Floor, Rama 9 Road, Huay Kwang, Bangkok 10310
TEL:(66) 2000 7700
ArayZ No.147 2024年3月発行タイの歴史の振り返りと未来展望
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JICAタイ事務所
Representative
木下 真人 氏
タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。
Email:[email protected]
JICAタイ事務所
31st floor, Exchange Tower, 388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND
TEL:02-261-5250
Website : https://www.jica.go.jp/overseas/thailand/office/index.html
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