ArayZ No.140 2023年8月発行2030年 タイの消費財・ 小売りビジネスの未来
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カテゴリー: 会計・法務
連載: New*GVA / TNY法律事務所 – タイビジネス法務
公開日 2023.08.09
当職担当の回ではタイの知的財産権法それぞれについて詳細に説明している。タイの商標出願の場面において、先行登録商標との類否が問題となる。この類否判断について最高裁判例の基準及び具体的な判断について2回にわたって解説する。
タイ知的財産局(DIP)に商標登録出願をする際に、先行商標と類似しているという理由で出願が拒絶される場合がある。商標が類似していると判断された以上、拒絶されてしまうのはある意味仕方がないことともいえるが、商標の使用実情等を考慮すれば、実際は相互に混同が生じる可能性は低く類似しているとの判断が不合理であるといえるケースも多々ある。このような場合、出願人は裁判所に提訴し、拒絶の結果の是非を争うことが可能である。そして、裁判段階で様々な事情が考慮された結果、審査官の判断が覆されて商標が登録になることも多い。
なお、これはDIPの商標審査官の審査能力が裁判所に比して劣っているということを意味するものではない。大量の出願を日々捌く必要のある出願審査の段階では、商標担当者は、指定商品役務の関連性、需要者、販売チャネル(販売経路)といった個別具体的な事情を深く検討することなく、商標の全体的な外観、発音、指定商品役務の区分という外形的に明らかな事項に基づいて審査せざるを得ない。一方で裁判の段階では、個別具体的な案件に注目した状況において、原告が提出したすべての証拠に基づいてより実質的に検討することができる。このように、審査の段階と、DIPの判断を争う裁判の段階とでは、結論が異なることがあるため重要な商標出願については、審査段階で拒絶されたとしても裁判で争うことに実益がある。
それでは、裁判段階においては、どのような基準に従い商標の類否判断が行われるのであろうか。タイの最高裁判決の基準によれば、以下のポイントごとに商標の類否が検討される。
出願商標と先行商標が同一の単語を含み、当該単語が商標の重要な部分である場合や、その発音が同じである場合、全体的な外観が重視される。全体的な外観が類似していないか、あるいは商標の他の要素によって区別可能な場合、両商標は非類似とみなされる。しかし、全体的な外観が類似しており、全体的な外観と発音の両方が先行商標と類似している場合、裁判所は出願商標が先行商標と類似していると判断する。
本願商標が先行商標と類似していると判断された場合、次に指定商品役務の関連性が検討される。 この点を検討するにあたっては、両商標の指定商品役務の「同一性又は関連性」が重視される。この際、両商標の指定商品役務の区分(注:区分とは、指定商品役務をおおまかに分類したカテゴリであり、各区分の下に、個別の指定商品役務が定められている)が異なればただちに関連性がないと判断されるのではなく、区分が異なっていても、商品の性質や特徴が同じである場合は関連性があると判断される。逆に、区分が同一であっても、双方の商品役務の関係性が薄いと判断される場合には、その商品役務は関連性がないと判断されることになる。このように、指定商品役務に関連性がないと判断される場合、出願商標と先行商標の外観と発音が類似していても、登録可能と判断されることになる。
商標の全体的な外観や発音が類似しており、指定商品役務も関連性がある場合、次の要素として、需要者と販売チャネル(販売経路)の同一性が考慮される。需要者と販売チャネルが同一であり、2つの商標が併存することにより公衆に混同が発生する可能性があると考えられる場合、裁判所は出願商標を登録できないと判断する。しかし、商標の全体的な外観と発音が類似しており、指定商品役務が関連している場合であっても、需要者と販売経路を異にする場合、裁判所は、双方の商標が消費者にとって区別可能であると考え、出願商標は登録可能であると判断する。
後編では以上を前提に、商標の類否判断に関する最高裁判決を紹介する。
TNY国際法律事務所
日本国弁護士・弁理士
永田 貴久
京都工芸繊維大学物質工学科卒業、2006年より弁理士として永田国際特許事務所を共同経営。その後、大阪、東京にて弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所を設立し代表社員に就任。16年にタイにてTNY Legal Co., Ltd.を共同代表として設立。TNYグループのマレーシア、イスラエル、メキシコ、エストニアの各オフィスの共同代表も務める。
Email : [email protected]
URL : http://www.tny-legal.com/
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THAIBIZ編集部
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