ArayZ No.127 2022年7月発行進む多様化とEC「タイ食品産業2022」動き出す飲食店、始まる輸出支援
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カテゴリー: ASEAN・中国・インド, バイオ・BCG・農業
公開日 2022.07.10
國浦 祥子|アジア・オセアニア営業部 調査役 / Lead ESG Accelerator
今日、「Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)」が世界的な関心を集めているが、投資判断にESGの要因を取り込むことを謳った責任投資原則(以下PRI)の発足やリーマンショックを契機に、長期的な目線でESGに配慮した事業経営や投資行動の必要性がグローバルに認識されるようになったと言えるだろう(図表1)。
加えて、SDGsやパリ協定の採択、気候変動を起因とした大規模自然災害、パンデミックを通じて浮き彫りになった社会的課題等により、幅広いステークホルダー間でESGの重要性はさらに高まってきている。
メコン5各国にとってもその重要度は同様だが、ESGマネーを取り込むためには政府・監督機関の体制整備や、自国内企業および投資家のESGに対する認知度向上が不可欠である。
本稿では、ASEANにおける環境整備状況を俯瞰し、メコン5域内で最も取り組みが進んでいるタイにフォーカスして見ていきたい。
目次
2017年のASEANグリーンボンド基準を皮切りに、サステナブルファイナンスの推進に資するASEANレベルでの枠組み作りが進んでいる。その主な取り組みが次の3つである。
ASEAN各加盟国の証券規制当局で構成されるASEAN資本市場フォーラム(以下ACMF)は、サステナブルボンドの発展を目的に、ASEANグリーン・ソーシャル・サステナビリティボンド基準を発表した。各基準は、ACMFと国際資本市場協会(以下、ICMA)が共同で、グローバルに採用されているICMAのグリーン・ソーシャル・サステナビリティボンド原則・ガイドラインに基づいて作成され、〝ASEAN〟ラベルのついたサステナブルボンド発行におけるガイドの役割を果たす。
サステナビリティボンド基準に加えて、ACMFは民間セクターから持続可能なプロジェクトへの資金の流れを作るためのエコシステムを構築すべく、ASEANにおけるロードマップを策定した(図表2)。
ASEAN加盟国がアクションプランやイニシアティブを策定する際の指針となる提言が盛り込まれたものになっている。
サステナブルファイナンスのさらなる促進を目指し、21年に全ASEAN加盟国の代表者から構成されるASEANタクソノミーボード(以下ATB)が、EUタクソノミー等国際的に認知された例を参考にASEANタクソノミー第1版を策定した(図表3)。
ASEAN加盟各国の多様性に対応するべく、ファウンデーション・フレームワークとプラス・スタンダードの2段階評価かつ、それぞれの段階で「緑(適格)・黄(移行中)・赤(不適格)」で事業を分類する信号機方式を採用している。今後、官民セクターとのコンサルテーションを踏まえて、対象事業や閾値等、更新が加えられていく予定だという。
※「タクソノミー」は「分類」を意味する英語だが、ここではサステナブルファイナンスの対象となる「持続可能性に貢献する経済活動」を分類したものを指す。
メコン5域内におけるサステナブルファイナンスの体制整備は、タイが頭一つ抜けている。タイでは、故プミポン国王が提唱した「足るを知る経済」や21年に導入された「BCG経済モデル」の影響もあり、各企業におけるESGへの意識が高い。それは、Dow Jones Sustainability Indices※に選出された企業数がASEAN加盟国の中で最も多いという結果からも見てとれる。
規制面では、タイ証券取引委員会(以下SEC)は取締役会がESGへの対応状況等を開示することを求めており、企業はGRI(Global Reporting Initiative)やSASB(Sustainability Accounting Standards Board)等の国際的に認められた開示基準・枠組みを採用すべきとしている。また、タイ証券取引所グループでは、一部上場企業のESGスコアを公表するなど情報開示・プラットフォーム整備を進めてきたが、タクソノミーの策定には至っていない。
21年に持続可能な開発を促進するため、財務省財政政策局、中央銀行、SEC、保健委員会、タイ証券取引所で構成されたワーキンググループにより、サステナブルファイナンス促進のための方向性・枠組みを定めた同イニシアティブが作成された。重要な戦略イニシアティブと位置付けられた5つの事項に対し、各企業の具体的なアクションが待たれる(図表4)。
※ESGの観点から世界の主要企業のサステナビリティを評価した、投資家向けの指標。ESGに関する指標の中では最も歴史があり、知名度の高いインデックスの一つ。
今後、さらにメコン地域外のESGマネーを取り込むためには、官民それぞれでさらなる対応が必要である。メガバンク・HSBCが行ったサステナブルファイナンスと投資に係るアンケート調査(図表5)では、ASEANの投資家の44%は責任投資やESGに関する全社方針を持ち、34%が将来方針を策定するつもりであると回答しており、ASEANでもESGを考慮した投資の動きが広がりつつあることが見て取れる。
一方で、ASEAN固有のものではないが、責任投資・ESG投資に対応できる専門家やスタッフの不足、発行体間のESGデータの比較可能性の欠如、発行体での不十分な開示等、ESG投資を行う上で妨げとなっている項目も挙げられている。
これらに対して、タイであれば前述した重要戦略イニシアティブに則って対応を進めていく予定であり、サステナブルファイナンスの促進に向け着実に環境整備がなされることが期待される。
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みずほ銀行メコン5課
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