THAIBIZ No.162 2025年6月発行激動するタイ市場を走破せよ! 三菱自動車が挑む日本のHEV最前線
最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中
公開日 2025.06.10
自動車産業は100年に一度の変革期と言われており、タイでは政府が2022年に導入した電気自動車(EV)普及策「EV3.0」以来、中国メーカーの急伸や金融引き締めによる国内販売低迷、サプライチェーンの崩壊と、先行きが見えない状況だ。日本メーカーは、このタイ市場でどう生き残るかが問われている。
本号では原点に立ち返り、タイへ最初に進出した日系自動車メーカーである三菱自動車タイランド(MMTh)に焦点を当てたい。タイが初めて輸出した完成車は三菱の車であり、xEV化にいち早く取り組んだパイオニアでもある。日本やグローバル市場に先駆け、今タイでハイブリッド車(HEV)を本格始動させる同社の狙いと現場の最前線を取材し、日本メーカーの未来を探る。
目次
三菱自動車タイランド(MMTh)は、三菱ブランドの独占販売権を持つ卸売会社「Sittipol Motor Co(SMC)」として1961年に創業した。その後1964年に現地生産を開始、今年5月に創業64年を迎えた。現在に至るまで、累計700万台を超える生産実績があり、その中でも輸出台数は560万台にのぼる。
輸出事業を本格的に開始したのは1988年で、当時のランサーチャンプをタイで初めて生産し、カナダへ輸出した。これが、タイが輸出した初めての完成車となる。
そして昨年2月、同グループ初となるHEV「エクスパンダー/エクスパンダークロス」をタイで発売した。続けて今年3月に新たに投入したHEV「エクスフォース」は、発売からわずか3週間で1,800台の予約を獲得し、好調だ。HEVモデルはともにタイのみでの生産・販売であり、同社が本気でHEVに乗り出したと言える。
ASEANは、同グループ全体にとって重点市場の一つだ。なかでもタイは世界最大の生産拠点であり、輸出国は120ヵ国に達する。同社が世界に先駆け“今”タイでHEVを投入する狙いと展望について、木下稔会長に話を聞いた。
実は同グループには、早期からxEVの開発に取り組んできた歴史がある。2009年に世界初の量産型バッテリー式電気自動車(BEV)を発売し、プラグインハイブリッド車(PHEV)については、2013年にすでにSUVタイプのアウトランダーを世界に先駆けて発売するなど、電動車両の普及に大きな影響を与えてきた。
xEVにおいて豊かな実績を持つ同社は現在、パワートレインの展開は国ごとのニーズに合わせて選択している。日本国内では運送会社などの商用車としてBEVであるミニキャブEVを導入。カナダなどの環境対応意識の高い国ではPHEVが好評であるが、ASEAN地域においては充電ステーションの課題もあるため、タイでまずHEVを先駆けて生産・販売した。
同会長は「市場ニーズ次第では、他日本メーカー同様、将来的にはBEVやPHEVを段階的に展開していく可能性はある」と述べた。
タイにおけるxEV市場は、2023年頃よりかなりの数の中国ブランドが新規参入し、BEVが急速に普及。繰り返しリポジショニングや値引き競争を展開している。この状況については、「実際はHEVがxEV市場をリードしており、2024年のタイ市場におけるBEVの構成比は+2.2ポイントの11.7%に対し、HEVは同+8.6ポイントの20.6%にまで拡大している状況だ」と冷静に分析する(図表1)。
近年存在感を増している中国メーカーのEVについて、同会長は「性能も良く、非常に遊び心がある。ナビゲーションやサンルーフ、エンターテインメント機能など、車内を“部屋のような空間”にする仕掛けが満載だ。これはリスペクトすべき点で、われわれも学ばなければならない」と俯瞰する。
一方で、アフターサービスや修理対応、部品の供給体制などについては日本メーカーに強みがあるとし、「日本メーカーの車は、耐久性やメンテナンス性の高さが信頼につながっており、長期的には大きなアドバンテージになると確信している。自動車販売はサービスである」との考えを示した。
グループ初のHEVモデルをタイで投入することについては、「現在タイの生産拠点はASEAN地域における先行開発・先行投入の役割を担っている。
昨年に続き今年新たにエクスフォースを生産したのは、市場におけるHEV需要の高まりに応えるためであるが、加えてタイ政府によるHEVへの新たな優遇措置があったことも理由の一つだ」とし、タイで事業をする上では、政府の意向である環境対応モデルに応えることも必要だと話す。
また、「HEVはバッテリーがなくなっても走る、タイのニーズに合った“使い勝手のいい”車を考え抜いた、三菱自動車としての一つの答えだ。日本メーカーは商品を売るだけではなく、新しい取り組みをするという姿勢が大事である」との考えを明らかにした。
同会長の役割は、政府に対し需要の喚起、法規対応、恩典などの提案・提言を行い、自社の事業環境の整理を行うことだ。「そしてそれは三菱自動車だけではなく、日本メーカーが一丸となり取り組んでいくものであり、日本メーカーとしてタイの経済に貢献することがわれわれの使命」だと位置付けた。
同社では、2014年よりタイ人社員を対象に日本本社へ2年間研修派遣するトレーニングプログラムを実施している。日本で培ったノウハウをタイで展開しレベルアップを図るというものだ。今後は希望者を対象に、インドネシアやフィリピン、ベトナムなどASEAN内での人事交流を活性させ、人材育成の底上げを行っていきたいと、同会長は話す。
また、大学生を対象としたインターンシップも強化しており、2018年からタイ国内の有力大学からインターン生を毎年多数受け入れている。人材育成について同会長は、「製造業である以上、品質に対する意識は根本である。だからこそ当社では長年、技術伝承と人材育成を肝として注力してきた」と語る。
今年4月、同社はキングモンクット工科大学ラートクラバン校と「xEVに対応するエンジニア育成」に関する覚書を締結。同校との共同開発を通じて、タイの次世代モビリティ社会への貢献も見据える。
「今、若い世代ではIT思考への関心が高まっている。また、従来の内燃機関(ICE)車だけでは先が見えない時代だ。今回のHEV生産では、ただモノを作っただけでなく、タイの若手スタッフがタイの環境、タイのテイストに合うタイのための車を日本の開発チームと連携して開発を行っており、そこに意味がある。
この好例を起点に、今後も技術移転し、現地の声を汲み取った開発を目指していきたい」と展望を示した。
同会長は最後に、タイでのビジネスは他メーカーや業界団体など現地における横のつながりが重要となるとした上で、「当社は日本企業の一員としてこの地に根を張り、タイの経済発展のために自動車産業の人材育成に取り組んでいく。そして、日本企業として、ASEANにおける存在感をさらに高めていきたい」と締めくくった。
THAIBIZ編集部
THAIBIZ No.162 2025年6月発行激動するタイ市場を走破せよ! 三菱自動車が挑む日本のHEV最前線
最新記事やイベント情報はメールマガジンで毎日配信中
激動するタイ市場を走破せよ! 三菱自動車が挑む日本のHEV最前線
対談・インタビュー ー 2025.06.10
タイ不動産業界、新章へ MQDCが描く次世代住宅開発ビジョン
対談・インタビュー ー 2025.06.10
ASEAN戦略の要としてタイのIT・クラウド分野の成長に取り組む ~KDDIタイランド 浪岡智朗社長インタビュー~
対談・インタビュー ー 2025.06.10
タイに広がる“ゼロバーツ工場” 中国資本の影と地元経済への影響
ビジネス・経済 ー 2025.06.10
変革の鍵は人材育成にあり「日ASEAN人材育成フォーラム」開催
協創・進出 ー 2025.06.10
タイにおけるeコマース規制
会計・法務 ー 2025.06.10
SHARE