カテゴリー: ビジネス・経済, ASEAN・中国・インド
公開日 2024.07.08
タイ運輸省傘下の輸送交通政策企画事務局(OTP)は5月30日、タイ南部のタイ湾側のチュンポンとアンダマン海側のラノーンの間を結ぶ陸上貨物輸送ルート「ランドブリッジ」整備計画について、主に民間企業の意見を聞く投資説明会「マーケット・サウンディング」をバンコク市内で開催した。同説明会では実現可能性調査の結果や暫定設計書、環境影響評価(EIA)、事業開発モデルなどの説明があった。
OTPによると、この投資説明会には、民間側から中国の河北港口集団有限公司やオランダのMaritime & Transport Business Solutions(mtbs)、タイのWHAグループ、そして三井住友建設、三菱商事など国内外の海運、港湾管理、建設関係の会社から100人以上が参加。また、各国政府関係者では、オーストラリア、中国、ドイツ、インド、イタリア、日本、ラオス、マレーシア、ミャンマー、パキスタン、韓国の各大使館の担当者も立ち会った。
「ランドブリッジ」はタイ湾側のチュンポン県とアンダマン海側のラノーン県間のマレー半島を横断する陸上貨物輸送ルートで総距離約90キロの間を6車線の高速道路、複線鉄道、さらに将来石油パイプラインを整備する構想もある。さらに両端のチュンポン、ラノーンに深海港を整備する。
この日の投資説明会ではまず、運輸省のマナポーン・チャロンシリ副大臣が開会あいさつし、同整備計画について「事業期間は50年の官民連携(PPP)投資モデルで、コンソーシアム(企業連合)による共同投資だ。政府は用地取得・収用を担い、両港を結ぶ鉄道・道路建設、港湾ターミナル整備などを民間に委ね、民間企業がインフラ整備から運営まで行う」とその概要を説明した。
そして、総投資額は約1兆0010億バーツで、アンダマン海側の開発に3308億1000万バーツ、タイ湾側に3056億6600万バーツ、高速道路や複線鉄道の関連インフラに3585億1700万バーツを投資する計画だと明らかにした。財務的内部収益率(Financial Internal Rate of Return: FIRR)は8.62%、投資回収期間は24年で、投資価値は高い」との認識を示した。また、計画の現状について、「東部経済回廊(EEC)を推進したEEC法と同様に、南部経済回廊(SEC)の発展の基礎となる法案を作成中であり、ランドブリッジの第1フェーズの入札は2025年末に実施する計画だ」との見通しを明らかにした。
続いてランドブリッジ委員会顧問のキッティ・リムスクル氏が登壇し、「タイが新たな経済成長を生み出すためにはランドブリッジという大規模プロジェクトが必要だ。ランドブリッジは南部経済回廊(SEC)開発計画の中核となり、中国や日本、東南アジア諸国連合(ASEAN)から中東、アフリカ、欧州への貿易ハブとなる可能性もある。ランドブリッジはマレーシアとシンガポールと競合するためのものではなく、周辺国と共存するプロジェクトだ」と強調。また、「港湾の近くに工業団地を開発する計画もあり、長期的には港湾の発展とともに、港湾周辺や南部の新たな事業の創出につながる」とランドブリッジ計画の意義を強調した。
さらに、同氏は「SEC のチュンポン、ラノーン、スラタニ、ナコンシタマラートなどの県では官民連携や民間投資などの開発プロジェクトが増加すれば、県内総生産(GPP)は継続的に上昇するだろう」と指摘。「SECはランドブリッジのほか、地元の資源を活用して付加価値の高い製品を生み出せる。例えば、ソンクラー大学は南部の資源である天然ゴムやパーム油の研究・開発をしており、スラタニ県は漁業やバイオテクノロジーを発展させられる。われわれは南部各県の特徴を伸ばす目標がある」と述べ、次のような5つのSEC開発指針を示した。
1)高付加価値農業:地元農産物から高付加価値製品を生産。パーム油産業の発展、ハーブ類の加工技術の向上など
2)高付加価値ツーリズム:地域の観光と健康ツーリズムの発展に取り組む
3)インフラと物流ネットワークの発展:マラッカ海峡と同様にSECを貿易ハブにする
4)天然資源:持続可能な環境管理と森林地域の拡大
5)社会開発:スマートシティーと人材開発を推進
また、輸送交通政策企画事務局(OTP)のパンヤー・チューパーニット事務局長は「同プロジェクトは3フェーズに分けられ、第1フェーズでは、2030年までにチュンポン、ラノーン両港を開港できる見通しで、片側600万TEU(20フィート標準コンテナ換算)の受け入れ能力がある。第3フェーズまで完成すれば、片側の受け入れ能力は約2000万TEUになる。また、プロジェクトは輸送スピードに焦点を当てており、両港間の陸上輸送は最長で4日かかる(荷揚げ、荷積み含め)との見通しだ。さらに、港湾の隣接地での鉄道施設にはオートメーション・システムを導入する」と説明した。
その後、OTPの担当者からより具体的な計画の説明があった。OTPが配布した資料によると、そもそも長年のクラ地峡運河構想を経て、現在のランドブリッジ構想につながった1つの理由である、マラッカ海峡の混雑ぶりについては「世界の海運の要衝の1つであるマラッカ海峡では年間9万隻の船舶が通過しているが、これが2030年には12万2000隻になると予想されている」と説明。その結果、マラッカ海峡通過のスピードは減速し、輸送コストと日数の増加につながるという。
その上で、ランドブリッジが実現すれば、インド洋と太平洋を結ぶ新たなルートとなり、タイは世界の輸送路のハブとなると強調。マラッカ海峡を通過する場合と比べ、「輸送日数は平均で4日間減少し、コストは15%削減される」との分析を示した。そしてランドブリッジ計画の成功ポイントとして、チュンポン、ラノーン港を1つの港として一体運営することや、港湾作業の自動化の導入を挙げた。 また同資料からは、このランドブリッジ構想の狙いが、マレー半島を横断する陸上貨物輸送路の整備よりも、経済発展の遅れた南部地域での南部経済回廊(SEC)の推進に変わりつつあることも見えてくる。SECについてチュンポン、ラノーン、スラタニ、ナコンシタマラートが対象であり、バイオ産業や農業の付加価値化、健康、地方観光の「西側へのゲートウエイ」になると説明している。
THAIBIZ編集部
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