THAIBIZ No.162 2025年6月発行激動するタイ市場を走破せよ! 三菱自動車が挑む日本のHEV最前線
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公開日 2025.06.10
OPINION : NRI Consulting & Solutions(Thailand)Co., Ltd.
三菱自動車(以降、三菱)はASEAN・オセアニアを事業の中核と位置付け、経営資源を集中させる方針であり、ASEANに最も根を降ろした日系メーカーの一つと言えよう。また、ASEANを起点にグローバルサウスへ展開していく「レバレッジ戦略」は、輸出拡大による産業振興を重視するタイやインドネシアなどのASEAN主要国にとっては頼もしい存在である。
その一方で、タイをはじめASEANでの中国勢の急伸、タイやインドネシア市場の低迷、トランプ政権による相互関税の影響など、三菱として課題にどう立ち向かっていくのかが問われている。本稿ではアジアを中心に、三菱の市場、生産、パワートレイン戦略を通じて、ASEAN事業の可能性や課題について触れる。
アジアを中心とした三菱の展開で注目すべきは、以下の4点が挙げられる。
2024年、ASEAN・オセアニア地域での販売は33万6,000台と、グローバル販売の約4割を占める。以前はインドネシア、タイ、豪州の3ヵ国が主力だったが、2024年にはフィリピンが首位に浮上、豪州、インドネシアと続き、タイはベトナムに抜かれて5位に後退した。
中でもフィリピンは好調で、2024年は前年比13.7%増の8万9,123台を販売し、市場シェアは19%でトヨタに次ぐ2位。ベトナムも国内市場の拡大を反映して、コロナ禍前の3万台から過去最高の4万1,000台を記録し、シェア13.3%に伸長。
ASEAN市場のなかで最近成長が著しい両市場においてシェアを伸ばしていることは、同社の強みと言えよう。
一方、タイとインドネシアでは市場全体の低迷を受け、三菱の販売は2019年比でインドネシアが4割減、タイは3分の1に落ち込んでいる。中国勢の台頭が続く中、販売・シェアの回復が急務となっている(図表1)。
三菱の戦略において、日本が主に先進市場向けの高級モデルを生産拠点とする一方で、タイとインドネシアが新興国向けモデルの生産拠点である。なお、タイはピックアップとその派生SUV(PPV)、インドネシアはBセグメントの多目的車(MPV)とSUV中心に分業を図っている。
近年注目されるのは、タイとインドネシアで生産されるモデルを中東・アフリカ、中南米などの「レバレッジ地域」とへ展開強化している点である。他地域へレバレッジを図ることで、ASEANの生産が拡大し、拠点の競争力が高まり、さらなる国内販売拡大につながるという好循環が期待できる。
特にタイはピックアップを主力とする最大の輸出拠点であり、生産台数は23万5,000台に達し、アジア、豪州、北米(メキシコ)と世界中に展開している。一方のインドネシアも、2020年代以降は第二の生産拠点として強化。「エクスパンダー」などのMPVを軸に、フィリピンとベトナム等のアジア、中南米への輸出を拡大し、2024年の輸出台数は過去最高の8万5,000台を記録した(図表2、3)。
三菱は、世界一過酷とも言われるパリ・ダカール・ラリーでの活躍や、「ランサーエボリューション」などのスポーツカーモデルを通じて、四輪駆動(4WD)技術において業界内で高い評価を受けてきた。
その優れた走破性や操縦性はピックアップトラック(PU)やPPVにも活かされているが、タイやASEAN市場では4WD車の需要が限られており、販売先は豪州や中東などの域外が中心だ。なお、欧州等の先進国では、4WD のPHEVであるアウトランダーが人気を集めている。
一方、ASEAN地域で三菱が優位に立つのはMPV分野だ。代表格がBセグメントの7人乗りMPV「エクスパンダー」であり、2017年にインドネシアのGAIKINDOモーターショーで初めて発表され、乗用車のフューチャリスティックなデザインがこれまでのMPVの常識を覆し、同国で急成長。
今では年間10万台以上を販売し量産効果による価格競争力を活かして、MPV志向が高いベトナムやフィリピン市場でもシェアを拡大している。
タイでは当初インドネシアから輸入していたが、HEV版から現地生産を開始。景気が悪化しているにもかかわらず、昨年もほぼ前年並みの1万台以上の販売を維持している。
三菱は、小型EVの「i-MiEV」→PHEVの「アウトランダー」→HEVの順で電動化を展開。HEVで先行しながらEV、PHEVに展開するという他の日系の電動化戦略と一線を画す戦略だ。
PHEVの「アウトランダー」は欧州から高評価を得ているが、価格・実用性重視のASEANでは、より手頃なHEVへの注力が進む。HEV版「エクスパンダー」「エクスフォース」など、タイ市場に適したラインナップが成果を出している。
なお、ASEANおよび豪州のパワートレイン販売構成を見ると、依然として9割以上が内燃機関(ICE)車であり、電動化比率は決して高くない。特に、三菱が強みを持つインドネシアとフィリピンではICE車のみの展開が続く。一方、タイではタイ投資委員会(BOI)のHEV投資優遇制度を活用し、HEV中心のラインナップを強化している。
ASEANでの三菱の強みは、フィリピンとベトナムといった後発ASEANでの事業拡大にある。一方、タイやインドネシアといった先進ASEANでは市場が低迷しており、特にタイでは中国メーカーの参入の影響が大きく、縮小傾向にある販売をどう反転させるかが課題となる。
レバレッジ戦略では、「エクスパンダー」に次ぐ車種をいかに投入し、グローバルサウス市場での販売網を拡大できるかが問われる。また、中長期的には、生産拠点を持たないインド市場への対応が焦点だ。スズキやヒュンダイなどはインドを輸出拠点化している中でどう競争していくかが注目される。
電動化については、HEVに加え、三菱が強みとするPHEVや小型EVなどをいかにASEANの市場環境に適合していくかが鍵となる。
最後に、ラリーで証明された4WDの「走破性の高さ」のブランディングをどのようにグローバルサウス向けの製品に具現化していくのかも注目される。日本で生産終了した「パジェロ」に代わる、本格四輪駆動車の再登場に期待したい。
NRI Consulting & Solutions(Thailand)Co., Ltd.
Principal 山本 肇 氏
シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラーロンコーン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。
THAIBIZ編集部
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