大手カラバオグループが挑戦するタイビール市場

THAIBIZ No.157 2025年1月発行

THAIBIZ No.157 2025年1月発行日タイ企業が「前例なし」に挑む! 新・サーキュラー エコノミー構想

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    大手カラバオグループが挑戦するタイビール市場

    公開日 2025.01.10

    水牛マークで有名なエナジードリンクを中心にタイのみならず欧州、中東、アジアの世界40ヶ国以上で事業展開する飲料メーカーであるカラバオグループ。圧倒的知名度を武器に、タイ寡占ビール市場へ2023年に新規参入を果たした同グループの戦略と今後の課題について整理する。

    基本的な企業情報

    カラバオグループは、水牛マークがロゴであるエナジードリンク「カラバオダーン」で有名な飲料メーカーである(図表1)。3名の創業者の一人であるユンヨン・オーパークン氏は40年以上タイで親しまれていた国民的バンド「カラバオ」のメンバーであることもあり、タイにおける同社の知名度は非常に高い。

    出所:同社Annual ReportおよびSETウェブサイトよりMURC作成

    また2017年には、イングランドにおけるサッカーリーグカップの命名権を買い取り「カラバオカップ」と名付けたことでも知られている。同社は2001年に創業、2002年に「カラバオダーン」を発売し飲料事業をスタートした。その後、ディストリビューターとしてタワンダーンDCM社を設立し、トラディショナルトレードを中心に販路を開拓した。

    ユンヨン氏以外の創業者であるサティエン・サティエンタンマ氏および、ナッチャマイ・タノンブーンチャロン氏は、大衆向けレストラン事業であるバーンタワンダーン社や、小売業であるCJ More社の取締役兼株主でもある。カラバオグループは、これら関連会社も利用し販売チャネルを拡大してきた。商品もスポーツドリンク、飲料水、コーヒー、機能性飲料と種類を拡大させ、2023年にこれまで寡占市場であったタイビール市場へ参入し、話題を呼んだ。

    タイビール市場における規制

    タイビール市場は、厳しい規制により寡占的な構造が形成され、新規参入者にとっては依然として大きなハードルが存在する。従来、シンハー・グループ(ブンロード・ブリュワリー)および、タイ・ビバレッジが市場シェア90%以上を占め、その他が残り10%未満を奪い合う状況が長年続いている。その要因としては下記2点が挙げられる。

    一つは、ビール製造に関する厳しい規制である。年間1,000万リットル以上を生産するか、1,000万バーツ以上の登録資本金を有していなければ国内生産が禁じられているため、新規参入を事実上不可能にしている。小規模な事業者が市場に参画する場合、近隣国で生産した製品の輸入販売をやむなく求められ、前者に比べ、価格面で非常に不利になる。

    二つ目の理由はタイ全土において、アルコール飲料の広告を含めたプロモーション活動全般が法律で禁じられており、新規参入者は知名度を広めることが非常に難しい。シンハー・グループ(ブンロード・ブリュワリー)やタイ・ビバレッジの全盛期、アルコール飲料のプロモーションの法律は存在していなかった。こうした状況下で、タイビール市場への新規参入を阻止してきた。長年市場に根付く地元ブランドとの競争をカラバオがどのように勝ち抜くのか、注目されている。

    タイ市場での飛躍を目指すカラバオビールの戦略

    同社は、2023年にタイビール市場への参入を表明し、販売を開始した。2024年末までに市場シェア10%を獲得し、タイで第3位のビール会社になること目標としている。市場シェアは3〜5年の間に20%に拡大し、年間売上高400億バーツを目指す。初期の生産能力は年間2億リットルだが、将来的には生産能力を4億リットルに増強する構えを公表している。

    長らく財閥2社の寡占市場であったタイビール市場への参入の勝算はどのようなものであろうか。これまで大衆向けビールは「レオ」と「チャーン」の2ブランドのみであったが、消費者の嗜好が多様化する中、圧倒的知名度を梃に、ドイツのビール研究所との研究開発により本格的かつ多様なフレーバーを展開し、関連会社である飲食店や小売チャネルで販売すれば消費者の取り込みが可能だと、判断したと考えられる。

    実際に、2023年11月に登場した大衆向け「カラバオビール」と中価格帯のクラフト風ビール「タワンダーンビール」ブランドは、タイで注目の的となっている。ラガー、デュンケル、ヴァイツェン、ロゼビール、そしてIPAといったバラエティ豊かな製品ラインアップは、ビール市場で新たなポジションを構築している。

    販売チャネルとしては、関連会社の小売ネットワークであるCJスーパーマーケットやトークディーを中心に、Big CやLotus’sなど中間層向けの小売店で販売を拡大させている。また、タイ国内ではアルコール広告が禁止されている現状を踏まえ、海外市場での認知度向上に注力しており、カラバオカップのスポンサー活動やエナジードリンク製品の40ヵ国以上への輸出を基盤として、ビール事業の国際展開を図る方針である。

    規制と競争の壁にどう挑むか

    カラバオにとっての最大の課題は、地元ブランドの牙城を崩し、着実にシェアを獲得することである。一方、市場の二大リーダーは、タイのコンサート会場やサッカー場等の各種会場に対して多大な影響力を持っており、他ブランドが製品販売することは不可能であると言えるだろう。実際、2024年に行われたカラバオのコンサートにおいても、カラバオの販売は叶わなかった。

    カラバオには、マイクロブリュワリー・レストラン業態のタワンダーンブリュワリーや、ノンアルコール飲料事業で培った実績と国際的な知名度という強みがあるが、アルコール市場では依然として「新参者」として見なされる。既存ブランドと渡り合うためには、さらなる製品品質の向上や「非王道」プロモーション活動からブランド価値の確立が必要になるであろう。

    MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
    Managing Director

    池上 一希 氏

    日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に入社、2018年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等に取り組む。

    Associate

    裕樹 リラウォン 氏

    大学卒業後、大手マーケティング会社、小売企業にてデータ分析、コンサルティングを経験。2022年にMURCタイ入社。
    ASEAN 地域の市場調査、企業調査に従事している。

    MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.

    ASEAN域内拠点を各地からサポート
    三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシンクタンク・コンサルティングファームです。国や地方自治体の政策に関する調査研究・提言、 民間企業向けの各種コンサルティング、経営情報サービスの提供、企業人材の育成支援など幅広い事業を展開しています。

    Tel:092-247-2436
    E-mail:[email protected](池上)
    No. 63 Athenee Tower, 23rd Floor, Room 5, Wireless Road, Lumpini, Pathumwan, Bangkok 10330 Thailand

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