公開日 2024.02.12
日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所は2020年度から、タイ・イノベーション庁(NIA)の協力で、スタートアップを含むタイ企業と日本企業との協業・連携を目指す「J-Bridge」ウェビナーを行ってきたが、その通算13回目、2023年度3回目をデジタル経済振興庁(DEPA)との共催で1月25日に開催した。
今回のテーマは「タイのエコシステムとタイ有望企業の紹介-Automotive & Manufacture編」で、電気自動車(EV)や電子機器関連のタイ有望企業3社がプレゼンテーションを行った。このうちタイルン・ユニオン・カーとフォースEMSはTJRIミッションリポートなどで既に紹介済みのため、ここではバンコク市内で都市型EVトゥクトゥクのライドシェア配車サービスを展開し、一躍注目を集めているMuvMi(Urban Mobility Tech)を中心に紹介する。
目次
今回の「J-Bridgeウェビナー 2023 vol.3」ではまず、DEPA傘下のデジタル・スタートアップ研究所のワリン・ラチャナヌソーン所長が「タイのデジタル経済」をテーマに基調講演した。ワリン氏はタイの経済構造について、国内総生産(GDP)に占める比率では56%を1万5000社の大企業が占め、中小企業の比率は35%(320万社)となる一方、経済社会の基底にある農業部門は800万社あるにも関わらずGDPに占める比率は9%にとどまっていると説明。DEPAも政府機関として、農業部門にデジタル技術を導入することに重点を置いており、収益や生産性向上を支援していくと訴えた。
その上で、ソーシャルメディアの調査会社「ウイ・アー・ソーシャル」の「デジタル2022」リポートを引用し、タイのデジタル化の現状について、「人口の81.2%がソーシャルメディアを活用」「1日当たりのインターネット利用時間は9時間6分で世界7位」「モバイル端末でのインターネット利用時間は5時間28分で世界2位」「インターネットユーザーに占めるオンライン購入利用者は68.3%で世界1位」などタイのデジタル化の進展ぶりをアピールした。さらに、タイのデジタル産業がGDPに占める比率は2021年には9%だったが、2022年には12.19%まで成長したと報告。ハードウエアとスマートデバイス、デジタルサービス、ソフトウエアなどの各分野の市場規模は20%前後になっており、今後もデジタル・スタートアップを支援することで、デジタル経済を促進していくとの方針を強調した。
続いてタイ有望企業のプレゼンテーションでは、「MuvMi(ムーブミー)」の創業者兼最高経営責任者(CEO)を務めるクリサダ・クリッタヤキーロン氏が登壇した。同氏は、「チュラロンコン大学の自動車工学で学士号を取得、英ケンブリッジ大学で自動車のサスペンションを学んだ。その後、英ロータス・カーズで2年間働き、米スタンフォード大学で自動運転車を研究して博士号を取得した。また、ボストン・コンサルティング・グループで3年間経営コンサルティングをしていた」などと自己紹介した。
そして、ムープミーのミッションは「よりクリーンで手ごろな値段のモビリティーを提供する」ことだと説明。現在、バンコク市内で800万人以上にサービスを提供、毎日600台のEVトゥクトゥクが走っているとした上で、今後は地方や海外展開も計画していることを明らかにした。
クリサダ氏は、ムーブミーは「都市モビリティーの過渡期に登場した」が、その背景として次の3つの要因を挙げる。1つは、「昔はマイカーを持たなければいけないという考えだったが、今の新世代の人たちはマイカーを買う必要はあまりないと考えている」ため、どこかに移動する時にはモビリティーサービスが必要だと述べた。
2つ目は、やはり内燃機関から電気自動車(EV)への移行期にあるからだと指摘。特に同社の独自技術「EV FLEET管理システム」を利用するとバッテリーのサイズを最適化できるとし、「昔は1日中運転するために大きいバッテリーが必要だったが、EVフリートの技術によって、バッテリーサイズを最大30パーセント減らすことができる。AIアルゴリズムを使用して、いつ充電すればいいかということを全部AIが決めてくれる」とアピールした。
さらに3つ目の要因として「大量輸送」の時代から「大量カスタマイゼーション」の時代に変わりつつあり、1台の車より他の人とシェアしながら、同じ目的地に向かうことが理想のアイディアになりつつあるとの認識を示した。
クリサダ氏はまた、「東南アジアは政府からの投資が少ないので、民間部門の投資が必要となる」とし、例えばタイの「ソンテオ」や、トゥクトゥクなどでは民間投資が必要だと強調。同社の推定では、東南アジアの都市では毎日200億人が移動しているが、デパートとか、映画館など狭い範囲での生活が多く移動者の50~60%の移動距離は8キロメートル未満であり、こうした「短距離間の移動手段(micromobility)」が必要になると訴えた。
その上で、ユーザーのニーズはさまざまで、特定のソリューションが必要となる。昔のソリューションであるバスなどは手ごろな値段だが、プライベートタクシーではさまざまなアプリケーションを開発されており、短い距離だと値段的には少し高い場合も多いと指摘。顧客にとって便利な方法、手ごろな値段で提供できるプラットフォームが必要であり、ムーブミーは専用アプリによって同じ方向に行くお客さんと共有できるプラットフォームであり、値段が安く抑え、管理できるとその利点を強調。基本は8~10バーツであり、例えばタクシーだと40~60バーツ、同じ距離で安くアクセスできるサービスが強みだと述べた。
さらにクリサダ氏はムーブミーについて、「省エネルギーも計算されるので、ドライバー側にもメリットがある」と説明。乗客がいるロケーションが分かり、温度や待ち時間など全部自動的に計算され、すべての機能がクラウドにアップされるので、システム側とドライバー側は全部リアルタイムで見られるというメリットもあるとしている。さらに、「カーボンフットプリント」を計算することも可能で、クリーンなモビリティーを提供できるとアピールした。
そして、ムーブミーのサービスの継続的利用者は80%以上に達し、2023年第1四半期の利用者数は前年同期比で約3倍になったと報告。EVとシェアリングによる「持続可能なソリューション」になっており、タイの公共輸送部門では、国内カーボンクレジット制度「T-VER」に登録された初めての会社にもなったという。
クリサダ氏は最後に、改めて同社が持っているソフトウェアはいろんなタイプの車両に拡大していけるだろうと強調。例えばタイのピックアップトラックを改造したソンテオなどであり、人工知能(AI)アルコリズムの技術を使って、リアルタイムで車をシェアリングできるサービスをベトナム、フィリピンやインドネシアでも展開できるとの見通しを示した。
そして日本企業も含めた他社との協業については、一緒に未来のモビリティー構築するような、大学を含めた強力なパートナーは多く、特にエネルギー分野、金融分野、そして不動産開発業者と協力する場合もあると報告。今後、特にコラボレーションしたいのはEVフリート管理システムの分野であり、われわれのシステムはパートナー会社のサービスに導入することも可能だとアピール。さらに、「EVトゥクトゥク」やその部品もわれわれの合弁会社を通じて日本まで拡大できると訴えた上で、関心を持たれた会社があれば、連絡してほしいと呼びかけ、プレゼンテーションを締めくくった。
TJRI編集部
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