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カテゴリー: 組織・人事
公開日 2026.03.27
タイの若い世代の間では、転職を繰り返して自分に合う職を見つける「ジョブホッパー」という独特な労働文化が生まれている。昇給の難しさに加え、若者世代の価値観も原因の1つだ。就職活動の時期も人によるなど、新卒一括採用、一括入社を重視する日本との違いは大きい。タイでの採用活動の専門家や、これから就活に臨む大学4年生に話を聞いた。【Nuttanun Kaewkam】
タイの高等教育・科学・研究・イノベーション省の統計では、毎年30万人以上の学生が大学などの高等教育機関を卒業する。だが全員が就職口を見つけられるわけではない。タイで採用・人事関連サービスを手がける、パソナグループ傘下のパソナ・リクルートメント(タイランド)のパーヌナン・カルディニー・デピュティー・マネジング・ディレクターは、NNAの取材に対し、タイでは新卒者の失業率が最も高い傾向があると話す。
パーヌナン氏は「全体的にみると、企業は新卒者が応募できる求人を出している」という。新卒者は人件費が低い一方、長期的な成長が見込め、将来の労働力の基盤となる利点があるとみられているという。
それにもかかわらず新卒者の就職がしにくい原因の1つに、学生の専攻分野と人材需要のミスマッチがある。就職市場で需要の高い科学系・工学系(理系)に比べて、人文科学・芸術・社会科学系(文系)の学生は多いが企業の採用ニーズが限定的な分野もあり、競争が激化しているという。
さらに近年、自動化や人工知能(AI)の導入で単純な事務作業は置き換えられるようになったこと、経済の低成長で採用活動に対して慎重にならざるを得ないことも、新卒者の就活の難易度を高めている。
タイ国家統計局(NSO)が発表した雇用統計によると、2025年第3四半期(7~9月)の失業者のうち、就学中を除いた15~24歳で就業経験がない人は14万5,000人で、全体の47.1%に上る。新型コロナウイルス禍の期間を除けば、若年層失業者の割合は19年以降常に30~40%台で推移し、高い割合を占めている。
こうした求人環境の厳しさにもかかわらず、タイでは最初の職に就いた後、すぐ転職を重ねる「ジョブホッパー」文化が生まれている。パソナのパーヌナン氏によると、タイの新卒者の離職率は高く、中には1年もたたずに転職する社員もいる。従業員の忠誠心を重視してきた日本の労働文化とは対照的だ。
なぜこのような傾向が生まれるのか。パーヌナン氏は「転職で期待できる昇給が、昇給率を上回っているから」と説明する。パソナがタイ拠点企業の131社を対象に25年11月に実施した、現地社員の昇給・賞与・人事課題に関する調査によると、25年の昇給率の平均は3.7%。それに対して、転職では収入が一気に10%以上上昇する可能性があることが、転職の大きな動機となっているようだ。物価高の進行から労働者が昇給を必要とする一方、企業側も「社会保障基金(SSF)」の拠出額引き上げなどに伴い人件費負担が増す中で大幅な昇給はしづらい。パーヌナン氏は、「誰のせいでもなく、タイ社会の構造的な問題だ」と指摘する。
企業もこうした構造に苦慮している様子がうかがえる。先述のパソナの調査では、人事労務面の課題として56.5%が「従業員のモチベーション維持」、28.2%が「人材の定着促進」を挙げている。
パーヌナン氏は新卒の定着率を上げるためには、初期育成期間の柔軟で寛容な雰囲気の醸成が不可欠だと話す。若年層は組織の一員として能力を向上させ、意見を共有したいと思っているからだ。
これから就活に臨む大学生は、ジョブホッパー文化をどうみているのか。チュラロンコン大学文学部4年のスパシンさんは、「転職を繰り返すことは、今後30~40年にわたって働く上で、満足してやっていけるかを見極める機会になる」といい、自分に正直でありたいというタイの若者の価値観を反映していると話す。「(職場の文化や環境など)何かがよくないと思うと、身を引いてしまう」。タイの組織が求める「忠誠心」についても、「見返りを求めず献身しなければならない関係は、有害では」と懐疑的にみているようだ。同大工学部4年のウィチャヤさんも、「新しい経験や給与アップを求めるのは悪いことではない」と考えを示す。
就活で重視したいことを問うと、スパシンさんは「仕事の内容」だと答えた。業種や職種は絞らず、やってみたいと思うことを探すという。待遇面では、自身の潜在能力を考慮すれば「最初の職では月収2万バーツ(約10万1,000円)以上を期待する」。土木・建設系技術者を目指すウィチャヤさんも同程度の月収を希望している。
パソナのパーヌナン氏は一般的なタイ学生の動向について、「企業の知名度は重要な要因ではなく、賃金のほか、在宅勤務やフレックスタイムなど柔軟な勤務体制などの労働条件を優先しているようだ」と分析する。明確な成長機会や、潜在能力を高める機会があるかどうかも、学生を引き付ける要因だという。
就活の実施時期も日本と異なる。タイでは卒業時期が大学やカリキュラムによってまちまちで、大体4~6月の間となる。パーヌナン氏によると、就活のピークは卒業を挟んだ3~7月だ。多くの企業が年初からこの時期にかけて、大学内で会社説明会を開く。就活生の間では、オーストラリアのオンライン人材サービス会社シークの「ジョブズDB」や、地場ジョブ・トップ・ガンが運営するオンラインプラットフォームを利用した求人への応募も一般的だ。ウィチャヤさんは卒業後、1~2カ月置いて就活を始める意向だと話している。
タイでも進む企業のAI活用は、新卒者にとってはポジションを奪われかねない問題だ。大手会計事務所の英プライスウォーターハウスクーパース(PwC)のタイ法人PwCタイランドが1,052人のタイ人労働者を対象に調査し、2025年12月に発表した「タイの希望と不安に関する調査」では、入社後間もない社員の30%が、「AIが自分の将来に影響を与えることに不安がある」と答えた。
前出の学生のウィチャヤさんはAIが雇用に与える影響を「特に懸念していない」と楽観的だ。一方でスパシンさんは、全てがAIに置き換わるわけではないにせよ、ちょっとした作業でさえAIを使う人も周囲にいるため、人間の仕事がいずれAIに取って代わる可能性もあるのではと話す。
パソナのパーヌナン氏は、営業や事業開発、カスタマーサービスなど、人間味のある対応が求められる部門では依然として新卒者の採用ニーズがあると説明する。一方で一般事務作業や意思決定を必要としない業務ではAIの活用が進んでいると指摘。「企業はAIを活用し、付加価値を生み出せる人材を求めている」といい、AIの活用スキルを磨くことが今後の新卒者の武器になると話した。

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