バンコクモーターショー2024、各社戦略

THAIBIZ No.149 2024年5月発行

THAIBIZ No.149 2024年5月発行総合商社の成長戦略

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バンコクモーターショー2024、各社戦略

公開日 2024.05.10

昨年以来、タイ国内自動車市場が全般的に低迷しており、3月27日〜4月7日に開催されたバンコク国際モーターショー(BIMS2024)では新車予約動向が注目された。自動車の合計予約台数は5万3,438台と昨年比24.6%増。EVは1万7,517台と昨年を9割上回り、販売比率は昨年の21.5%から32.8%へと約11ポイント上がった。本稿ではモーターショーで見えてきた今後の自動車市場トレンドを考察する。

ブランド別動向

ブランド別の予約台数の動向を図表1で示す。トヨタが首位を維持したものの、2位以下では大きく、順位が変動した。まず注目されるのは、BYDの躍進である。その予約台数は昨年と比べ倍増し、ホンダを抜いて2位まで順位を上げた。また、中国系の新規参入メーカーの長安汽車(Changan)、AIONが6位と7位に入る一方で、昨年はその躍進で注目を集めた長城汽車(GWM)やNetaは順位を下げた。中国メーカーの相次ぐ新規参入により、中国系メーカー間で叩き合っており、順位が目まぐるしく入れ替わっている。

ここで、看過できないのは、中国系メーカーがお互いで食い合っている反面、全体としてそのシェアを確実に拡げていることである。その結果、日系メーカーは軒並み昨年と比べて予約台数を減らしている。日系メーカーの中で唯一順位を上げたのは三菱自動車であるが、これはインドネシア製のXpanderのHybrid版の新車効果によるところが大きい。

レッドオーシャン化するEV市場

EVメーカーで何よりも目を引いたのは、BYDの値下げ攻勢である。しかも、競合他社に値下げの対抗措置をとらせないために、BIMS2024期間中に自社の予約台数を公表しないという奇策に出た。BYDは、BIMS2024の期間中、中国のOEMの中でも目立って大幅な割引を行っており、Atto 3では最大25万バーツ下げた。

もっとも、単純な値引きではなく、BIMS2024で発表したモデルは、既存モデルに比べて、バッテリーの容量を減らし、航続距離を短くした。Atto 3の場合、60.4kWhから50.1kWhへ、Sealは82.5kWhから61.4kWhへとバッテリーの容量を減らした。つまり、同じモデルでも、バッテリーの容量によりミドルレンジ及びロングレンジの航続距離の選択肢からユーザーは選べるようにして、ターゲットユーザー層を拡げようという戦略だ。

しかも、BYDは次の手として、さらに大胆にターゲット層を拡げようとしている。まだ予約受付はしていないが、Aセグメント車のSeagullを持ち込み、より所得の低いタイの50万バーツ以下の小型エコカーセグメントの購入層に狙いを定める。

他社も黙ってはいない。AIONはBIMS2024期間中に5%割引を発表している。ハイブリッドであるが、長城汽車(GWM)はSUVのHaval(ハイブリッド)の値段を20万バーツ引き下げた。上海汽車(SAIC)も輸入車に対して割引を発表している。タイ政府から補助金が15万バーツから10万バーツに減額されるなかで、EVが値引きされており、EVのレッドオーシャン化が進んでいると言えよう。価格による叩き合いの当然の帰結として、今後EVメーカーの淘汰が進むことが予想される。

プレミアムセグメントに参入する中国系ブランド

ZeekrとXpeng
出所:NRI作成 

今回のBIMSでもう一つ注目されたのは、2社の中国メーカーのZeekrとXpengの新規参入である。第一の波(2021〜2022年)で進出したGWM、BYD、Neta、昨年末のモーターエクスポから参加した長安汽車、AIONに続く、最後発組となる。BYDやGWMは100万バーツ前後のマーケットに参入し、その後新興EVメーカーのNetaが60万バーツ以下の廉価EV市場を開拓してきたのに対して、この2社は130万バーツ以上のより上級セグメントへの参入を目指しており、競合として見据えるのはTesla等の欧米系ブランドとなる。

両社ともPTTグループのEV販売ユニットのArun Plusと大手ディーラーのMillenium Group Corporation(Asia)の合弁会社のNeo Mobility Asiaにディストリビューター・販売権を与える予定であり、PTTと台湾のEMS大手のFoxconnが合弁で設立した工場に委託生産することが有力視されている。Xpengは、AlibabaやFoxconnなどが出資したスタートアップ企業であり、FoxconnのネットワークでPTT系列の会社と組むことになる。

なかでも注目されるのはZeekrである。同社は、スウェーデンのVolvoやマレーシアのProton、英国系Lotusを傘下におく吉利汽車傘下のEV専用ブランドであり、吉利汽車のグローバルな開発・生産ネットワークを活用できることが注目される。昨年末に進出した長安汽車やAION(広州汽車)が、元々中国の地方の国営企業として出発しており、中国の地場ブランド色が強いのに対して、Zeekrはプレミアム・グローバルブランドのポジションを目指している。現に、ZeekrのSEAプラットフォームは、傘下のVolvoやPolestarのEVと共有され、スウェーデンのデザインセンターでデザインされている。

また、吉利汽車はマレーシアの国民車Protonに49.9%出資し、マレーシアで近いうちにEVを生産・発売する予定であり、今後、吉利グループとしてフルラインナップのEVをASEAN地域で展開することが予想される。Zeekrのタイへの進出は、吉利汽車のマレーシア以外のASEAN進出の駒の一つに過ぎないかもしれない。現に、昨年10月にマレーシアを訪問したタイのセター首相は、Protonと吉利汽車がタイでの工場設立を検討していると言う。今後の吉利汽車グループのASEAN展開から目が離せない。

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NRI Consulting & Solutions (Thailand)Co., Ltd.
Principal

山本 肇 氏

シンクタンクの研究員として従事した後、2004年からチュラロンコン大学サシン経営大学院(MBA)に留学。CSM Automotiveバンコクオフィスのダイレクターを経て、2013年から現職。

野村総合研究所タイ

ASEANに関する市場調査・戦略立案に始まり、実行支援までを一気通貫でサポート(製造業だけでなく、エネルギー・不動産・ヘルスケア・消費財等の幅広い産業に対応)

《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

TEL: 02-611-2951
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Website : https://www.nri.com/

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