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連載: ONE ASIA LAWYERS - ASIAビジネス法務
公開日 2025.04.01
目次
2024年6月28日付で発行された「改正投資奨励法(No62)(以下、「改正投資法」)」が、2024年12月16日に公布され、2024年10月1日よりバックデートされ施行されました。2017年4月に改正されて以来、2020年に第12条(関税及び付加価値税法の優遇措置)のみについて改正がなされており、7年ぶりに全体的な改正がなされました。
投資奨励法に関連する法令においては、2018年に「経済特区に関する首相令」、2019年に 「ネガティブ事業及びコンセッション事業リストの承認に関する首相令」が改正され、2021年には、「法人税、政府の土地リース料又は土地コンセッション投資奨励優遇措置に関するガイドライン(以下、2021年優遇措置ガイドライン)」及び「官民連携Public-Private Partnership(PPP)等に関する首相令」が発行されました。さらに、2023年に「会社法」が改正され、2024年に「外国法人の駐在員事務所の設立と管理に関する合意」が施行されています。また、直近では、2025年1月に「改正付加価値税法」が施行されています。
以上のような新しく施行された法令との整合性をとることが今回の改正のポイントでもありますが、不明確な言葉が再定義され、奨励業種と恩典の整理、事業申請手続きの明確化、登録資本金輸入期限の設定など新規の規定が定められています。そこで、今回、主な改正点を解説いたします。
なお、経過規定によれば、現在進行中の政府との契約は、そのまま満期となるまで有効となります。改正投資法上の優遇措置を受けることを希望する開発者や投資家は、関連する当局が通知を発行してから180日以内に申請を行う必要があります(改正投資法第101条)。
旧投資法では、外国投資家及び国内投資家の定義は以下の通りでした。
旧投資法
外国投資家:ラオスへ投資するために入国した外国籍の個人及び法人
国内投資家:ラオスの法律に基づき、事業登録を行ったラオス人及び外国籍の個人及び外国人
上記定義の場合、「事業登録」とは何を指すのか、ラオスで企業登録をした外国籍の法人は、どちらにも該当することなり、定義が不明確でした。改正投資法では、以下のように改められました。
改正投資法第3条第3項
外国投資家:ラオスへ投資するために入国し、ラオスの法律に従い企業登録をした外国籍の個人及び法人
国内投資家:ラオスの法律に従い企業登録をしたラオス籍の個人または法人
事業登録は、「企業登録」に変更され、内国投資家はラオス国籍のみであることが明記されたことにより、ラオスで登記した外国籍の法人、個人は「外国投資家」であり、「内国投資家」ではないことが明確になりました。
旧投資法第10条では、地区を以下のように定めていましたが、改正投資法では、「地区3」の経済特別区(SEZ)は削除され、地区は5年ごとに見直されるという規定が新しく追加されました(改正投資法第10条)。
<地区1>投資に対する社会経済のインフラが整備されていない地域への投資
<地区2>社会経済インフラの整備がある程度進んでいる地域への投資
<地区3>SEZへの投資(この部分が削除されています。)
旧投資法第9条では奨励優遇業種(以下、「奨励業種」)を規定しており、その後2021年優遇措置ガイドラインの中で不明確な定義等が整理されました。改正投資法では、さらに、ラオスの状況に見合った言葉に置き換えられ、経済特別区が上記(2)の優遇地区から削除され、奨励業種として新たに規定されました。
他方、旧投資法に奨励業種として入っていた「貧困解決のための政策的銀行業務、マイクロファイナンス事業」、「ショッピングモール開発」は、削除され、上下水道、廃棄物処理などの公共インフラ事業、SEZ開発、ロジスティクス分野が追加されています。改正投資法で規定される奨励業種は以下の通りです。
奨励業種(改正投資法第9条)
①クリーンな農業、品種生産、家畜改良、工芸作物栽培、森林開発、環境および多様性の保護に関する分野
②環境に優しい農業生産物及び他分野の加工、飼料の開発、天然肥料、バイオ肥料、化学肥料の開発、伝統・独自の加工品、手工芸品の生産、一郡一品、輸入品の代替となる商品、輸出商品の開発に関する分野
③病院、医薬品および医療器具製造工場、伝統医薬品の製造と治療に関する事業
④教育、スポーツ、人材開発(人的資源開発)、職業技術、教材およびスポーツ用品の生産に関する分野
⑤デジタル化、研究および開発、テクノロジーの使用、環境に優しい天然資源エネルギーの節約に関する分野
⑥環境に優しく持続可能な自然、文化、歴史観光産業
⑦道路・鉄道建設、上水道・下水施設、廃棄物処理施設などの公共サービス・インフラ施設に関する分野
⑧ロジスティックスサービス、物流、越境輸送、ドライポートの倉庫システム、越境、多国間輸送、陸路、水路、鉄道、空路による乗客と商品の輸送に関する分野
⑨経済特別区、特定経済区への投資を便利にするためのインフラの整備に関する分野
なお、旧投資法では、恩典を受けるための条件として、最低でも12億キープ(約900万円)の投資総額、または、ラオス人技術者を最低30名以上雇用することなどが条件となっていましたが、改正投資法では、すべて削除されています。
改正投資法では、旧投資法と同様に、奨励業種と地区別による基準により、法人税免税の恩典内容を判断する内容となっています。なお、法人税の免税期間、追加法人税の対象分野は、旧投資法からは変更はありませんが、教育に関する事業の場合は、投資期間を通して、法人税は免税されることが新しく規定されました。改正投資法第9条に定められる奨励業種①から⑨は、図表1の通り、法人税の免除の優遇措置を受けることができます。
資本金の振り込みについては、旧投資法第53条では、「一般事業への投資を行う外国人投資家は、投資関連許可証を取得後、90日以内に登録資本金総額の30%を送金する」と規定されており、残金に関する規定は、会社法に従うとありました。しかしながら、現行の会社法には、登録資本金の払込期限は「株主総会で決定する」ことになっており、残金に関しても株主総会の決定に従うと解釈されています。
改正投資法第53条では、残金について、「事業又は投資許可を取得した日から1年以内に振り込むこと。但し、別途規定する法令がある場合は除く」という文言が追加されました。しかしながら、会社法とは矛盾したままであるため、投資奨励法に基づいて設立した会社は、投資奨励法に基づき、資本金を送金することが推奨されます。
旧投資法は、特定経済区(Specific Economic Zone)という言葉が削除されていましたが、改正投資法第61条では、経済特別区(Special Economic Zone)とは別に「特定経済区」という言葉が復活し、以下の通り再定義されています。
特定経済区:特定の分野(例えばハイテク分野、工業団地など)への投資のために政府が、経済特別区の外に設立した地域
改正投資法第64条にSEZへの投資家に対する恩典措置が下記、①及び②のとおり、新たに規定されています。上記(4)の恩典に加えて、以下の恩典を受けることが可能です。
①法人税免税恩典(新規)
SEZ 開発者(デベロッパー):地区1へ投資した場合、合計16年間(追加6年間)、地区2の場合は、合計8年間(追加4年間)の法人税免税恩典を受けることができます。
SEZ内に投資する者:上記(4)で規定する免税期間に加え、さらに追加で2年間の免税恩典を受けることができます。ただし、(4)の⑧(ロジスティックス、運輸関連)の分野は除きます。
②専門家の個人所得税(新規)
改正前は、個人所得税に関する恩典の規定はありませんでしたが、改正投資法では、専門家の個人所得税を5%とする規定が追加されました。但し、その対象と条件は別途定めるとあり、 別途定めた規定は現時点(2025年3月)では確認できておりません。
③長期滞在許可証とマルチプルビザの発行恩典(新規)
SEZ開発者及び投資家は、家族を含め、1回の申請で、最大10年間有効な滞在許可証及びマルチプルビザ(定められた有効期間内に何度でも出入国可)を取得することが可能です。
またSEZの中にある不動産の所有権を保有する外国人は、10万米ドル以上の支払いが完了している場合、家族も含め1回の申請で、10年間有効なマルチプルビザを取得でき、更新も可能であり、外国人による不動産投資を促進させる狙いがあることがわかります。
今回改正投資法上で新規で規定されましたが、長期滞在資格取得にかかる申請手続きや手数料についての詳細は確認できておりませんので、実務については、別途確認する必要があります。
特定コンセッション事業という言葉が新しく規定され、さらにコンセッション事業許可手続きにおいて、ラオス政府との覚書を締結することで、FSを実施する権利が発生し、その後コンセッション事業を申請するという手続きの流れが明確となりました。
コンセッション事業の中に、旧投資法にはなかった「特定コンセッション事業」について説明が追加されています(改正投資法第41条)。
特定コンセッション事業:戦略的コンセッション投資事業、限定された国家の安全保障に関わるコンセッション事業、貴重な天然資源の使用及び複数の県にまたがるプロジェクトに関わるコンセッション
コンセッション事業については、はじめに、政府と覚書又はフィージビリティスタディ(FS)を行うために契約を結ぶ必要があります。
旧投資法では、コンセッション事業許可申請という大枠の中で、政府が覚書について検討するというような流れでしたが、改正投資法では、覚書等を締結することによって、FSを実施する権利が投資家に付与され、FS実施後に、コンセッション事業を申請するという流れになっており、覚書の締結が必須であることが明文化されています。
旧投資法では、「コンセッション事業の登録資本金は、総資本金の30%以上が必要である」としか規定がありませんでしたが、改正投資法では、事業規模により図表2の通り、投資総額に対する登録資本金の比率が規定されており、一定の額の資本をラオスへ必ず送金することを徹底させる規定に変更されました(改正投資法第52条)。
送金額については、コンセッション契約の有効日から90日以内に、図表2に記載の最低送金率以上の登録資本金をラオスへ送金する必要があり、残金は2年以内に送金する必要があります(改正投資法第54条)。ラオスへ登録資本金を送金後は、ラオス中央銀行へ資本金輸入証明書(Capital Importation Certificate)を取得することが改めて規定されています(改正投資法第54条)
One Asia Lawyers
内野 里美 氏
One Asia Lawyers ラオス事務所に駐在。ラオス国内で15年以上の実務経験を有する。ラオス語を駆使し、現地弁護士と協働して法律調査や進出日系企業に対して各種サポートを行う。
satomi.uchino@oneasia.legal
One Asia Lawyers
藪本 雄登 氏
One Asia Lawyers Group創業者、前身JBL Mekongグループを2011年に設立、メコン地域及びインドを統括。タイやインドに10年間以上に亘る駐在・実務経験を有し、各国の現地弁護士と協働して法律調査や進出日系企業の各種法的サポートを行う。
[email protected]
One Asia Lawyers
日本と東南アジア・インドをつなぐワン・ストップでシームレスな法律のプラットフォーム
M&A / 統括会社設立・アジア子会社再編 / 紛争解決 / コンプライアンス対応・不正調査 インフラ輸出・投資 / エネルギー・資源関連 不動産 労働法 知的財産 etc
One Asia Lawyers Groupは、東南アジア・インドの法律に関するアドバイスを、アジア各国のネットワークを基礎として、シームレスに、ワン・ストップで提供するために設立された法律事務所です。
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