連載: リブ・コンサルティングの経営戦略
公開日 2022.08.30
成果主義・現場主義を重視した日本発の経営コンサルティングファームのリブ・コンサルティングとTJRIは在タイ日系企業向けにタイでの事業運営に欠かせないポイントを網羅するウェビナーシリーズを企画、その第1弾として7月27日に「タイの製造業における『営業改革のポイント』~CPグループも実践した“営業の見える化”と“勝ちパターン構築”~」と題するウェビナーを開催した。講師はリブ・コンサルティング(タイランド)の香月義嗣マネージング・ディレクター(MD)と同社マネジャーのDarin Lanjakornsiripan(ぺス)博士で、mediatorのガンタトーン・ワンナワス最高経営責任者(CEO)が司会を務めた。
香月MD:今回のテーマを設定した理由の1つは、アフターコロナを見据えて、多くの企業で営業への問題意識が高まり、セールスやマーケティングがトップイシューになっているためだ。2つ目としてはDX(デジタルトランスフォーメーション)をマーケティングやセールスに取り入れようとする企業が増え、解決しなければならない課題、営業への課題への問い合わせが増えていることがある。
日本企業の営業に関するトレンドの1つ目は「営業の現地化」だ。
これまでは主な顧客が日本企業で、日本人セールスが直接営業し、タイ人のアシスタントが補助してきた。しかし日本企業がもっとタイ企業にアプローチしなければならなくなった時に、タイ人セールスが営業を進め、それを管理するのが日本人マネジャーという構造になる。主な顧客が日本企業の場合と、主な顧客がタイ企業の場合もタイ人セールスは同じイメージがあるが、求められる能力が全然違う。前者は「ホウレンソウ(報連相)」や段取り力が求められるが、後者は営業の主体者として行動量、関係構築力、情報収集力が求められる。
次のトレンドとしては、提案営業を推進する動きがある。モノ売り営業ではなく、付加価値を付けて提案営業することで良いものを多少高くても売っていく。
3つ目のトレンドは営業のDX化に伴うもので、マトリックスで説明すると、横軸は「営業の再現性」で左は営業の勝ちパターンがあいまいで、右に行くほど営業の勝ちパターンが明確になる。
縦軸は「営業管理の効率化」で、下側はExcelやスプレッドシートなどアナログで管理する一般的な企業の現状で、上に行くと、CRMやSFA、MAなどデジタルで管理しようという動きになる。日本企業は左下から右上の営業DXによる効率的な営業組織の実現を目指しているが、落とし穴として「とりあえずDXしておけ」ということで、営業の勝ちパターンがあいまいなまま、左上のデジタル管理に進んでしまうケースがある。
そもそも営業の効率が上がらない原因には大きく3つある。1つは「営業は目に見えにくいから」ということ。工場のような生産プロセスでは、どこで止まっているかなど見えやすいのでトヨタ式改善などができるが、営業は人と人とのやりとりで、どこで止まっているのかが非常に見えにくい。
2つ目は「相手が人だから」ということ。相手の性格や相性によって対応方法を変える必要がある。上手く行く時は相性が良かった、上手く行かなかった時は相性が悪かったと解釈してしまう。成功ポイントが見えにくい。
3つ目は「外部環境のせいにできるから」というのもある。新商品ですごく良いものが出ると営業が頑張らなくても売れてしまったり、市場環境が良いと実力以上の結果が出て改善されない。市場環境が悪い時は、景気のせいにして、改善されない。
こうしたトレンドや課題があった時の解決の方向性については実際の事例をもとに紹介していきたい。そのキーワードとしては、「仕組みづくりによる解決」や「能力強化による解決」があり、前者では勝ちパターンの見える化や営業の仕組化などで「営業のDX」が推進されることになる。
続いて3つの事例を紹介するが、1つ目はタイの財閥チャロン・ポカパン(CP)グループ傘下の通信会社TRUE(トゥルー・コーポレーション)で、2~3年前に実施した1人当たりの売上高、営業生産性を上げるプロジェクトで、非常に成果を上げた事例を、当時プロジェクトリーダーを務めたぺス博士が紹介する。
ぺス博士:トゥルーは携帯通信では業界2位だが、固定通信(ブロードバンド)では業界1位で、このブロードバンドの営業強化プロジェクトを担当した。タイのブロードバンド市場はまだ成長期にあり、60%以上の世帯が未導入だ。社内の営業課題には「何を改善すれば良いかよく分からない」「売上高が下がっている要因を営業マンが外部のせいにしている」「営業生産性に大きなばらつきがある」という3つがあった。このプロジェクトを通じて、全員の生産性の底上げをしたいというのが目的で、飛び込み営業部隊に新しい勝ちパターン(ベストプラクティス)が構築され、全体の営業生産性が上がっている状態をゴールにした。
タスクとしては、フェーズ1で、パイロットエリアでベストプラクティスを構築して検証し、フェーズ2でそのベストプラクティスを全国展開した。パイロットエリアの月当たり営業生産性(販売個数/人)の改善幅は全国平均より26%高いことが示された。さらに全国展開した1年後には営業生産性は40%以上改善された。
実際の取り組みは営業の勝ちパターンを見える化し、稼働率を上げるために営業活動の時間を見える化した。さらに、顧客購買心理と現場の勝ちパターンを合わせて、セールスのベストプラクティスを構築、すべてのセールスステップの詳細を見える化した。特にボトルネックとなる重要なステップはどこかを特定した。
タイで営業改革を進める際のハードルは「誰に聞いても事実が分からない」ということだ。このハードルを解除する目的で「現場に入り込み、定性的に診断」するために最初の2週間は全国を回ってインタビューするとともに、営業に同行した。また、嘘をついた人を排除するためにダミー質問を入れるなど、データの信頼性を担保したうえで定量的な分析も行った。タイの営業組織は「離職率20~30%が当たり前」で、現場の実行者は「新しいことを学びたくない」というさらなるハードルもある。このため、タイでの成果創出のためには勝ちパターンの見える化に加え、勝ちパターンの仕組み化も必要となった。
香月MD:DXに関する問題意識についてまとめると、やはり問題として陥りやすいのが営業の勝ちパターンがあいまいなまま、とりあえずDXしていこうと左上に行ってしまうパターンがある。今回のケースなどから分かるようにまずは右下に行く。DXの前に正しい手順となる営業の勝ちパターンを明確にして、どうやったらうまいく行くか、生産性が上がるか、まずは紙やエクセルで良いので作る。それを効率化するためにDXするということで右上に上がっていくという手順をご理解いただきたい。
過去に89名の営業組織にヒアリングして実際の営業生産性が伸びている企業を相関分析したことがある。この分析でも勝ちパターンをつくるということが大事だということが示されている。伸びている企業の活動で相関が高い活動は①勝ちパターンを作る ②それを支えるツールがある ③ノウハウを共有する仕組みがある-の3つだった。これらが営業生産性が伸びている企業の特徴と言えるだろう。
最後に弊社のプログラムの宣伝にはなるが、今回のようなプロジェクトを含めマーケティングから営業の戦略、営業マンの採用や定着、実行支援、稼働率向上、営業スキル強化など個別の機能の強化プロジェクトもある。ご相談がある方はお問合せ頂ければ幸いです。
TJRI編集部
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