THAIBIZ No.150 2024年6月発行味の素が向かう究極のバイオサイクル
この記事の掲載号をPDFでダウンロード
掲載号のページにて会員ログイン後、ダウンロードが可能になります。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、[email protected] までご連絡ください。
カテゴリー: 自動車・製造業
公開日 2024.06.07
目次
近年、自動車業界は顧客との直接取引とデジタル技術の進展により、販売の在り方が大きく変化しつつある。これまでの伝統的な自動車販売は、「ディーラー(実店舗)」を介して行われてきた。顧客はいくつかのショールームを訪れ、車両を直接見て触れ、営業スタッフと対面で交渉しながら決断する。
一方で、Teslaに代表される新興メーカーは「D2C(Direct to Consumer)モデル」でオンラインを中心とした販売を行い、自動車の販売において新たな顧客体験を提供してきている。
そのような中、新たな販売手法として「エージェンシーモデル」が欧州中心に広がりつつある。このエージェンシーモデルについて、今回の(上)ではそもそもエージェンシーモデルとは何か、欧州を中心に広がっているトレンドについて紹介し、(下)ではASEANでの状況、この新たな潮流をどう捉え・対応していくべきかを考察していく。
まず、3つのモデルの違いを整理していく(図表1&2)。
伝統的な自動車販売は、物理的なディーラーショップを通じて行われる。顧客接点の主体はディーラーであり、同時に小売機能・契約についてもディーラーが担当する。営業スタッフとの直接対話を通じて、購入前の疑問を解消し、購入後のアフターサービスについても対面で説明を受けることが可能である。
この点が、顧客に安心感を与える大きな要因となっている。しかし、ディーラーとしては高い固定費や在庫リスク、また同一ブランドでも販売店同士でのカニバリ、誘発される値引き、結果としての利益減少という課題が存在する。
D2Cモデルは、ディーラーを介さず、OEMがオンラインでのマーケティング・販売に加え顧客対応・納車まで一手に担うため、販売コストの削減と高い顧客体験が可能となる。このモデルの消費者目線での利点は、価格設定の透明性と購入プロセスのシンプルさである。
OEM目線では、一貫したブランディングを実施できることに加え、顧客データを手の内化できる点が非常に大きい。ディーラーモデルでは見えなかった「個客」を理解することで、よりパーソナライズされたマーケティング戦略の展開により、顧客体験を向上させることが可能だ。
しかし、物理的なショールームや試乗の機会が限られるため、一部の顧客からは抵抗感も存在する。また、商品力・ブランド力が無いと成立しづらいモデルであることも事実だ。
エージェンシーモデルは、D2Cモデル同様にOEMがオンラインでのマーケティング・販売を管掌し価格設定や販売戦略をコントロールする。その分、ディーラー(or代理店)はリアル接点での強みを活かし、顧客への対応・サービスを中心に行い顧客満足度を高めることにフォーカスする。
OEMとディーラーが密接に連携することが成否の鍵を握る。価格の透明性(=ディーラー間の価格競争の回避)、ブランディング、リアルでの顧客サービスの手厚さ等、消費者目線で見たときに最適な購入体験を実現するための設計だ。
一方で課題も存在する。ディーラーの収益機会が自動車の販売からサービス提供にシフトするため、従来の販売ベースのインセンティブが減少する。在庫リスクがなくなるというメリットはあるものの、この変化はディーラーにとっては新たなビジネスモデルへの適応を強いることとなり、抵抗を生む。
グローバルの潮流として見ると、欧州OEMを中心にエージェンシーモデルの導入の動きは顕著である。中でもMercedesは最も積極的で、欧州だけでなく、APACにおいても従来の販売モデルから段階的にエージェンシーモデルへの移行を図っている。
CEOの直轄プロジェクトとして、大規模なIT投資も実施する程の本気度だ。また、Mercedesと中国GeelyのジョイントベンチャーであるSmartは、新車販売をエージェンシーモデルに移行し、オンライン購入システムで手続きを簡素化しながら、販売店を3分の2に削減することも計画している。他にもStellantisやVWがこの動きに続く。
まだ公開されていないが、他にもグローバルでのエージェンシーモデル導入を水面下で進めている欧州OEMもいると聞く。
このように欧州OEMを中心に先行する動きを見せているが、エージェンシーモデルは価格の透明性と市場の健全性を保つ一方で、ディーラーの役割と収益構造の再定義を迫るため、導入に向けたハードルは高い。
次稿では、現状のASEANの状況はどうなのか、既にディーラー網を確立している既存OEMにとってはこの動きをどう捉え、何を検討すべきか、考察していきたい。
THAIBIZ No.150 2024年6月発行味の素が向かう究極のバイオサイクル
掲載号のページにて会員ログイン後、ダウンロードが可能になります。ダウンロードができない場合は、お手数ですが、[email protected] までご連絡ください。
Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk
下村 健一 氏
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
[email protected]
Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk
橋本 修平 氏
京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。
Roland Berger Co., Ltd.
ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート
17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand
Website : https://www.rolandberger.com/
タイのオーガニック農業の現場から ~ハーモニーライフ大賀昌社長インタビュー(上)~
バイオ・BCG・農業 ー 2024.11.18
タイ農業はなぜ生産性が低いのか ~「イサーン」がタイ社会の基底を象徴~
バイオ・BCG・農業 ー 2024.11.18
「レッドブル」を製造するタイ飲料大手TCPグループのミュージアムを視察 〜TJRIミッションレポート〜
食品・小売・サービス ー 2024.11.18
第16回FITフェア、アスエネ、ウエスタン・デジタル
ニュース ー 2024.11.18
法制度改正と理系人材の育成で産業構造改革を ~タイ商業・工業・金融合同常任委員会(JSCCIB)のウィワット氏インタビュー~
対談・インタビュー ー 2024.11.11
海洋プラごみはバンコクの運河から ~ タイはごみの分別回収をできるのか ~
ビジネス・経済 ー 2024.11.11
SHARE