ASEAN自動車バリューチェーン事業のポテンシャル

THAIBIZ No.153 2024年9月発行

THAIBIZ No.153 2024年9月発行ヒットメーカーが語る!タイの外食産業必勝法

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ASEAN自動車バリューチェーン事業のポテンシャル

公開日 2024.09.10

ASEAN地域の自動車関連市場は、各国が異なる市場ステージにあるものの、経済成長と個人所得の拡大を背景に全体として堅調な成長を続けている。特に、新車および中古車市場の成長に伴い、各国で増加している自動車の保有台数(UIO:Units in Operation)がドライバーとなり、自動車バリューチェーン全体でのビジネス機会を拡大させている。また、量的な拡大だけでなく、急速なデジタル化や消費者ニーズの多様化が、質的な変革ももたらしている。本稿では、各国で増加するUIOが生み出す、バリューチェーン事業の市場動向を紹介していく。

ASEAN各国のUIOトレンド

まず、ASEANの主要国におけるUIOのトレンドを見ていく(図表1)。UIOが最も多いインドネシアは、2023年時点でその規模は3,170万台に達している。これは、2位のタイ(2,010万台)を1,000万台以上も上回る巨大市場だ。UIOの規模の観点では、今後も巨大な人口を背景に量的拡大を続けることが予想されている。

出所:ローランド・ベルガー作成 ※乗用車に加え、ピックアップ等の商用車を含む

一方で、人口当たりのUIOの観点では(図表2)、マレーシアが他国を大きく引き離す。同国はこれまでの政府の自動車普及政策や、比較的高い所得水準の影響を受け、非常に高い保有率を示しており、2位のタイと比べても約2倍の保有率を誇る。インドネシアは保有率ではマレーシアやタイと比べても大きく見劣りする。バリューチェーン事業を展開する上では、ターゲットとするエリアやセグメントを慎重に選定し、サービスの密度を高めることが事業効率性を維持する鍵となる。

出所:ローランド・ベルガー作成 ※乗用車に加え、ピックアップ等の商用車を含む

成長率の観点では、ベトナムの成長が著しい。バイク大国のベトナムでは、経済成長とともに中間層が拡大し、それに伴い四輪車の所有意欲が急速に高まっている。また、オートローンの利用増加や交通インフラの整備も、新車販売を加速させる要因となっている。さらに、今後は中古車市場の本格的な立ち上がりも、UIOの成長に寄与することが期待されている。

バリューチェーン事業の潜在市場とトレンド

図表3は、バリューチェーン全体での市場機会を示している。新車販売を基準に考えた場合、その後のローン、リース、保険、レンタルやシェアリング、ライドヘイリング(配車サービス)、部品・アクセサリー販売、サービス、そして中古車市場と、バリューチェーン全体での事業機会が新車販売の約2.5倍に達することがわかる。新車販売以降に大きなバリューチェーン潜在市場があり、東南アジアにおいてもUIO拡大とともに、今後バリューチェーン市場がさらに拡大する見込みである。以下、それぞれの領域毎にトレンドを見ていこう。

出所:ローランド・ベルガー作成

1. Finance

中間層が拡大し、個人消費が増加する一方で、金融包摂が道半ばであるASEAN地域では、車両購入におけるファイナンスの成長余地は大きい。デジタル化が進展する中で、オンラインプラットフォームを通じた金融サービスの提供が加速しており、これにより、消費者はより簡便かつ迅速にローンや保険商品にアクセスできるようになっている。

このような環境下で、多くのFinTech企業が台頭してきており、たとえばIvitech(シンガポール)やQoala(インドネシア)のようなFinTech企業は、デジタル・AIを活用しながらオートローンや自動車保険の領域で、革新的なサービスを展開して、これまで金融サービスにアクセスできなかった層にもリーチし、市場拡大を牽引している。

2. Usage / Mobility Service

乗用車においては、いずれの国においても既にライドシェアリングが普及しており、プレイヤー間の勝敗も決まりつつある。他方、商用車では、物流Techが有望領域だ。トラック輸送業界に特化した物流プラットフォームを提供し、荷主とドライバーを効率的に繋ぐLogiVan(ベトナム)や、道路輸送ネットワークの効率化・デジタル化を進めるAPX(タイ)のような企業が、この領域で新たな価値提供を図っている。

3. After Sales

アフターセールス分野では、UIOの増加に伴い、部品交換、修理・メンテナンス、中古者売買の需要は確実に拡大する。一方で、東南アジアの部品・中古車流通においては、大手プレイヤーが一部存在するものの、全体としてはフラグメントな市場だ。

この領域では、オンラインプラットフォームを通じて需給を繋ぎ、効率的なサービスを提供する企業が市場をリードしている。オンラインタイヤマーケットプレイスを運営するスタートアップのWYZauto (タイ)やASEAN最大規模の中古車取引プラットフォームを提供するCarsome(マレーシア)が、その代表的なプレイヤーと言えよう。

では、これらの成長市場や事業機会をどのように取り込んでいくべきか。東南アジア市場は、国ごとにクローズドかつウェットな業界であり、業界へのインサイダー化が求められる。そのため、現地有力プレイヤーやスタートアップ等との協業が事業展開の要諦となることは間違いない。各バリューチェーン市場において、新たな事業モデルや稼ぎ方、有望なプレイヤーについては、また別稿にて取り扱っていきたい。

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Roland Berger Co., Ltd.
Principal Head of Asia Japan Desk

下村 健一 氏

一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現職。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
[email protected]

Roland Berger Co., Ltd.
Senior Project Manager, Asia Japan Desk

橋本 修平 氏

京都大学大学院工学研究科卒業後、ITベンチャーを経て、ローランド・ベルガーに参画。その後、米系コンサルティングファームを経て復職。自動車・モビリティ、消費財・小売を中心とする幅広いクライアントにおいて、グローバル戦略、新規事業、アライアンス、DX等の戦略立案・実行に関するプロジェクト経験を多数有する。

Roland Berger Co., Ltd.

ローランド・ベルガーは戦略コンサルティング・ファームの中で唯一の欧州出自。
□ 自動車、消費財、小売等の業界に強み
□ 日系企業支援を専門とする「ジャパンデスク」も有
□ アジア全域での戦略策定・実行支援をサポート

17th Floor, Sathorn Square Office Tower, 98 North Sathorn Road, Silom,
Bangrak, 10500 | Bangkok | Thailand

Website : https://www.rolandberger.com/

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